奈緒の荷物を持つ。
「大丈夫なのか?」
心配で心配でたまらなかった気持ちが抑えられない。
でも言葉になるのは『大丈夫?』そればかり。
ゆっくりとした一歩一歩を二人で踏みだす。
二人ともが黙ったまま、ただひたすら左右の足を交互に前に出す。
奈緒の家の前までやってくるとポストの前に母がいる。
「お母さん、仕事どうしたの?」
「今日は午前中だったのよ。
奈緒、あなたこそどうしたの?」
「学校で気分が悪くなって、津田君に送ってもらったの。」
「大丈夫なの?
早く中に入りなさい。
津田君、ありがとうございます。
あなたも入って・・ほら、どうぞ。」
奈緒の母の強引さに圧倒されて、このまま帰るとは言えなかった優斗。
「どうぞ。」
奈緒が自分の部屋に優斗を案内する。
「へ~、きっちり片付いてるな。
部屋の雰囲気変わったな。」
「も~、そんなにジロジロ見ないでよ。」
付き合っていた頃、何度か来たことがあった。
その時はもう少し女の子っぽかったのに、今はそれがない。
「早く横になって休め。
あんなに元気いっぱいだった奈緒が倒れるなんて、俺は信じられなかった。
俺にとって奈緒はある意味完璧な女だったからな。」
「何それ~。
そんなこと言われるの初めてで、くすぐったいよ。」
「俺、将太たちのバンドに入ったんだ。」
「うん。」
「今度の文化祭で演奏するんだ。
もしよかったら聞きにきて。」
「うん。」
「やっぱり奈緒、少し変だ。
調子が良くないからなのか?」
「普通だよ。
津田君は夢中になれるモノを見つけたんだね。
ホントウに良かった。」
「奈緒、俺・・。」
優斗の言葉を遮って奈緒は言った。
「津田君、私、付き合っている人がいるの。
陽子が、失恋の傷は新しい恋で手当てするのが一番だとか言って紹介してくれたの。」
「そうか。」
「だから、私に責任とか感じなくていいから。
今日みたいなこともしないで。
苦しくなるから。」
「わかった・・、もうしないよ。」
二人の会話はどこかぎこちなくて、奈緒の母親が運んできてくれたココアを手に取る。
「あの時、奈緒が言ったことを今でもはっきりと覚えている。
将太にバンドに誘われた時、『頭で考えるよりやってみるタイプでしょ。』って。
思い切って行ってみて良かったよ。」
「あの時、私、もしかしたら津田君はバンドするかも?ってそう思ったよ。
将太と行ったあのライブの時の感動を何度も聞かされたからね。」
「俺。頑張るよ。」
「うん。」
奈緒の言葉は短い。
優斗は自分の力で進む道を見つけ歩き始めた。