その時、亜美のバッグの中から着信を知らせるメロディーが聞こえた。
「ちょっと、ゴメンなさい。」
亜美は席を立った。
とても懐かしい声。
心の底でいつも聞きたいと思っていた声。
「オレだけど元気?
久しぶりに会えない?
今、東京なんだ。」
「いいよ。
今、pp(ピアニッシモ)で飲んでるんだけど・・。」
「わかった。
すぐ行くから三十分位待ってて。」
「うん。」
「ゴメンなさいね。」
「さっきの言葉ですけど、そう言って生きられる人が羨ましいです。
俺には何も無いから・・。」
「ねえ、ホントウに何も無いの??
捨てられないなら、いっそのこと大事に抱きしめて生きてみたら?」
「えっ??」
驚いたような彼の表情。
夢の話なんて否定されると思っていたから。
亜美は自分のことを話し始めた。
ずっと長く付き合っていた彼がいたこと。
夢のためにその彼と別れたこと。
「今、仕事も落ち着いてきて、こうやって生活だってしてるけど、大切なモノを手放した気がしてる。
何かのために何かを失うなんてこと、多いことなんだろうけど私はそんなの嫌だった。
きっと欲張りなんだね。
でも、どうしても捨てられなかったの・・たった一つ見つけたその『夢』をね。
今も迷いながら生きてる。
後戻りはしたくないと強く自分に言い聞かせながら。
たった一度の人生、キミがどうしても捨てられないなら、一緒に生きるしかないんじゃないの?」
無責任にも彼の背中を押したかもしれない。
ただの一度も彼らの音楽を聞いたことも無いのに・・。
しばらくして智也はやって来た。
気を遣ってか彼は席を立った。
「今日は、すみませんでした。」
そう言って深く頭を下げた。
「誰?」
智也が聞く。
「少し話してたの。」
って思ったので・・。

