亜美をマンションに送り届けホテルに戻った智也は部屋で一人明け方まで飲んでいた。


ほとんどヤケ酒。


はっきりとしない自分に腹が立つ。


今更、亜美に会って自分はどうしたかったのか、わからない。


会いたかった・・そう、ただそれだけ。


三年が過ぎてお互いあの頃のままでいられるはずがないこともわかっているのに。


智也の中で二人はまだ終わっていないのだ。


ケンカしたまま旅立ったことも、結局のところ答えを出すことから逃げていただけ・・。


そんな時、電話のベルが鳴る。


「おはようございます。


東京にいるんですってね。」


酒が残っている頭でこの状況を理解するのに少し間が必要だった。


「どちら様ですか?」


朝っぱらから妙に元気のいい声が頭に響く。


彼女は、前の課で一緒だった神崎かおりだと言った。


「あ~、神崎さん。」


「思い出してもらえましたか?」


カオリは智也のことが好きだった。


秘かに彼を思っているつもりだったが、周りにいる他の誰が見てもその思いはバレバレみたいなところがあった。


智也にしてみれば、職場の後輩というか可愛い妹みたいな存在。


「見たい映画があるので一緒に行ってもらえませんか?」


彼女はこうやってたまに連絡してくる。


部屋で燻っていても仕方がないので出掛けることにした。


「いいよ。


行こう。」


(何やってるんだ、俺は・・。)


映画館は思っていたよりずっと人が多かった。


そして智也はそこで半分以上眠っていた。


何もこんなところで寝なくたってホテルで寝てりゃいいのに。


自分自身に呆れて苦笑いがこぼれた。


そんな智也の思いとは関係なく、カオリは楽しそうだ。


(俺なんかいなくたって、キミは一人十分楽しめるんだよ。)


「足立さん、まだ時間ありますか?


何か食べに行きませんか?」


彼女の無邪気な笑顔。


「ああ、寿司はどうだ?」


「はい。」



どうして俺たちは別れてしまったんだろう


あの時 キミが振り返らなかったから?


あの時 俺が追いかけなかったから?


思いはずっとこの心の中にあるのに 届けられず・・


そう キミは新しい恋を手にした


今更 言えないよ 好きだなんて・・


知らない人にもなれず 友だちにも戻れない


こんなに切ない思いがあるなんて 知らなかったよ




一瞬一瞬を 軽く見ていたんだな


後で 取り返せるという根拠もないのに


得体の知れない 自信だけはあった




久しぶりに見たキミは 少し元気がなかったようだ


隣には 俺の知らないヤツがいて 何とも奇妙な感じがした


俺はあれから誰とも付き合ってない


今の自分が嫌いなんだ


そんな俺が 誰かを好きになるなんて あるわけない


・・いつかこんな感情も落ち着く時がくるのかな


・・いつかまた誰かを 大事に思うことができるのかな


もう いい加減に断ち切らないと・・そう思うんだ


その時まで もう少し このままでいさせてくれ






十年前、大学に入って二人は出会った。


仲間ができ、やりたいことが見つかった。


そんな充実した毎日が過ぎて行った。


そんな日がずっと続くのだと思っていた。


気が付けば四年間の学生生活は終わりの時期を迎えようとしていた。


仲間たちはそれぞれ自分の新しい居場所を求めてその一歩を踏み出す。


大事なモノを失くしてしまったような気がしてその場所から動けなくなった。


そんな亜美を智也はこれまでと同じ優しさで包み込む。


お互いが仕事を持ち、学生時代とは大きくいろんなことが変わっていく中にいても、二人の距離は変わっていないと亜美はそう思っていた。


あの日、智也とあんな風に別れるまでは・・。




「俺、フランスに転勤が決まったんだ。


少なくても三年は向こうに居ることになりそうなんだ。


月並みだけど、一緒に行こう。」


智也の突然のプロポーズ。


二人の間で『結婚』の言葉が出たことは無かったが、これまでの付き合いの中で結婚するならこの人だとお互い思っていた。


亜美は驚いてその言葉に対する次の言葉が出てこなかった。


少しの沈黙の後、静かに言った。


「ゴメン、一緒には行けないよ。


私だって、仕事あるんだよ。」


「仕事の方が大事??


俺には自信がある。


二人で暮らせばきっと楽しい・・って。」


智也の言っていることは間違っていないと思った。


今、持っているモノ全部をこの場所に置いたまま一緒にフランスに行く道を選んだとしても、幸せに暮らせるだろう。


もしかしたら、ここで暮らすよりも楽しいのかもしれない。


でも・・全てを投げ出すことは亜美にはできなかった。


肌寒い三月のある日、会社の上司、同僚に見送られて智也は旅立った。


そこに亜美の姿は無く物足りなさを抱えたままの出発だった。


一方、亜美は話し合うこともせず喧嘩別れみたいな感じのまま智也を行かせてしまったことを悔やんでいた。


頭で考えている以上に心は荒んでいた。


自分で決めたことなのだと何度も繰り返し呪文のように心の中で呟く。


そして、智也への思いは心の奥にしまい込んだ。


ここからはもう振り返らない。

11月になりましたね~。


今朝は一段と寒い朝です。


掃除を済ませ、窓は閉めました。


暖房が必要になるのも時間の問題でしょうね。


着るモノで寒くならないように調整しながらなるべくエアコンのお世話になるのを遅らせようと思っていますが、そう思い通りになるかどうか??


新しい物語を書き始めたもののしばらく間があいてしまって・・話、どうなってたのか忘れてしまったりしてますよね。


テンポよく更新しないと・・って反省しています。


私、いろんなことに手を出し過ぎて時間が足りなくなるんです。


結局、どれもが中途半端になってしまって。


ちょっと時期的な仕事も入って余計に・・。


今月中ごろには仕事が終わる予定なので少しはラクになるかな~?と思ったり、別件が割り込んでくるのか??と思ったり。


1つずつ確実に・・ですね。


あ~寒い!


ソックス2枚重ねて履いてスリッパまで履いてるのに、足の先が冷たいです。


みなさま、体調崩されませんように~。



「お久しぶりです。」


智也がそうマスターに声をかけた。


「はい。


お元気そうですね。


ごゆっくりどうぞ。」


懐かしそうに三人は微笑む。


「いつ日本に?」


「昨日の朝。


亜美と別れて初めての日本なんだ。


やっと帰る勇気が持てたから、少しの仕事と休暇を兼ねて。」


「三年振りだね。」


それから亜美は言葉を失ってしまっていた。


この次いつか・・彼に会ったら話したいことがたくさんあったのに、何も言えなかった。


そして智也がゆっくりと話し始めた。


「フランスに着いてしばらくの間は亜美のことを考える余裕が無かった。


言葉はわからないことが多くて、次の日の準備に追われる日々。


俺は寝る時間を削って勉強した。


これほど勉強したことは今まで一度も無いっていうほど。


英語が通じないわけじゃないけど、フランスなんだからフランス語でしょって空気だったから。


亜美のことを考えられるようになったのは二年くらい前かな。


あんなにあっさりと別れなければよかったと後悔ばかりした。


だけど、亜美が頑張っているという話を聞くことは嫌じゃなかった。


俺は、亜美の音楽が好きだ。


そこに広がる世界がとても好きなんだ。


その気持ちはずっと変わらずにここにある。


張りつめた心がフッとラクになる。


亜美が近くにいなくても、亜美の音楽がいつも俺の一番近くにあった。」


智也の言葉が優しく響く。


亜美の頬を涙が流れる。


なぜあの時、一緒に行くと言えなかったのか、なぜあの時、彼を選ばなかったのか三年経ってもよくわからない。


ただ今も自分はこの人を愛しているのだということは確かだった。