十年前、大学に入って二人は出会った。


仲間ができ、やりたいことが見つかった。


そんな充実した毎日が過ぎて行った。


そんな日がずっと続くのだと思っていた。


気が付けば四年間の学生生活は終わりの時期を迎えようとしていた。


仲間たちはそれぞれ自分の新しい居場所を求めてその一歩を踏み出す。


大事なモノを失くしてしまったような気がしてその場所から動けなくなった。


そんな亜美を智也はこれまでと同じ優しさで包み込む。


お互いが仕事を持ち、学生時代とは大きくいろんなことが変わっていく中にいても、二人の距離は変わっていないと亜美はそう思っていた。


あの日、智也とあんな風に別れるまでは・・。




「俺、フランスに転勤が決まったんだ。


少なくても三年は向こうに居ることになりそうなんだ。


月並みだけど、一緒に行こう。」


智也の突然のプロポーズ。


二人の間で『結婚』の言葉が出たことは無かったが、これまでの付き合いの中で結婚するならこの人だとお互い思っていた。


亜美は驚いてその言葉に対する次の言葉が出てこなかった。


少しの沈黙の後、静かに言った。


「ゴメン、一緒には行けないよ。


私だって、仕事あるんだよ。」


「仕事の方が大事??


俺には自信がある。


二人で暮らせばきっと楽しい・・って。」


智也の言っていることは間違っていないと思った。


今、持っているモノ全部をこの場所に置いたまま一緒にフランスに行く道を選んだとしても、幸せに暮らせるだろう。


もしかしたら、ここで暮らすよりも楽しいのかもしれない。


でも・・全てを投げ出すことは亜美にはできなかった。


肌寒い三月のある日、会社の上司、同僚に見送られて智也は旅立った。


そこに亜美の姿は無く物足りなさを抱えたままの出発だった。


一方、亜美は話し合うこともせず喧嘩別れみたいな感じのまま智也を行かせてしまったことを悔やんでいた。


頭で考えている以上に心は荒んでいた。


自分で決めたことなのだと何度も繰り返し呪文のように心の中で呟く。


そして、智也への思いは心の奥にしまい込んだ。


ここからはもう振り返らない。