線路沿いの道 -14ページ目

指輪のはなし

つきあいはじめたころ、みほはアパートにいた。

初めて泊まった日、朝になって、ふとテーブルの上にあった指輪。

それを見つけて、俺は試しに嵌めてみた。

シルバーゴールドの指輪だった。


指の細い俺は、指輪を難なく嵌めた。

みほは驚いた。


それ、はめたいの?

ん?もらっていいの?

……いいよ。


それから、あの指輪はずっと俺の左手にある。

今も、ずっと。

おにぎり

昼下がり。

お腹が減ったでしょ。

そう云って、みほが持ってきてくれたのは、大きな大きなおにぎりだった。


炊き立てのごはん。

パリっとした焼き海苔。

それに、中身はツナだった。


ごめんね、上手に握れなかったよ。

特大のおにぎりが二つ。

とても丁寧に握ってあった。


ツナが入りきらなくて、皿に別盛りしてあった。

一口食べると、上手に炊けたごはんの粒が

なにか気持ちいい。


あんなにおいしいおにぎり。

俺はまた、食べられるだろうか。


休みの日。

二人は時間を過ごすのが苦手だったかも知れない。

なにか手持ち無沙汰で、つい体を動かすけれど

楽しいことができなかった。


映画に行ったり、買い物をしたり

出かけることはよくしたけれど

本当に楽しいことってなんだっただろう。


どんなにお金のかかった場所に行くよりも

俺はあの、おにぎりを食べたことが

今はとても大事な思い出。


別れたわけじゃない。

必ずまた、戻るから。


おにぎりを作って欲しい。

背中の匂い

眠っているみほの背中に顔を寄せて、鼻で息を吸う。

この匂いを忘れないように、いつも覚えていられるように。


昨夜は、そうやって眠った。


なにも知らずに眠るみほの寝息を聞いているだけで

涙がこみあげてきて、息が苦しくなった。


寂しい。


それよりずっと、みほは寂しいのだろう。

なにをしてよいのか、分からないのだろう。


覚えているよ。

いつまでもあの匂いとぬくもりを。


必ず、迎えにいく。

いまはそれしか考えられない。