たまには、超どメジャーなアルバムも取り上げましょう。

Billy Joelの83年の大ヒット作“An Innocent Man”です。

(余談ですが、アメリカ人の友人に「ジョエル」といったら全く通じませんでした。

彼らは「ジョール」みたいな感じで発音するようです。

まぁ、「Joe」に「L」が着いただけって考えたら、そらそうですねー。)


さて、当たり前といえば当たり前ですが、ミュージシャンにとって、

様々な種類の音楽を聴いて消化し自分なりの方法でアウトプットすることは、

非常に非常に大切なことです。

特に、多種多様の音楽のハイブリッドである「ポップス」を志す人間には

決して避けて通れない道なのではないでしょうか。

もちろんかく言う僕も、自分の趣味嗜好を大事にしながらも、

未知の音楽をシャットダウンせずに、柔軟な姿勢がとれるように普段から心がけてるつもりです。


しかし!

しかしですよ、やはりそこは何かを表現せんとするたるもの、

芯に一本通ったものが無くてはならないのではないか!?

地に足が着いていない人間の作品は、

やはりどこか深みや説得力に欠けやしないか、いやそうに決まっている!

と思い、鼻息を荒くして、自分のルーツと呼べる音楽をを探していた時に

思い出したのがこの“Innocent Man”でした。


ベトナム戦争をテーマにした“Goodnight Saigon”や

アメリカ工場都市の厳しい環境の中で生きる人たちを描いた“Allen Town”など、

非常に重い社会問題を主なテーマに取り上げた、

アルバム全体に暗いムードが漂う前作“Nylon Carten”から心機一転、

このアルバムでのBilly Joelは、若き日に聴きまくり、

自分の血となり肉となり骨にまで染み付いている音楽を思い出し、

それをブラッシュアップして見事なブルーアイド・ソウルに仕上げています。


自分のルーツを讃えつつも、何よりも歌ってる本人が

本当に楽しく歌っているのが伝わり、こちらが嬉しくなるのがこのアルバムの素晴らしいところ。

James Brownばりのシャウトから幕を開けるオープニングチューン“Easy Money”

(なんと、全ての楽器と歌・コーラスをスタジオライブで一発録りしているようです。流石。)

“So Much in Love”っぽいといえば分かりやすそうなアカペラナンバー“The Longest Time”

ベートーベンの「月光ソナタ」のメロディーを大胆にフィーチャーしたロッカバラード“This Night”

大ヒットしたBeach Boys風のコーラスがたまらん“Uptown Girl”、

バブルガムな匂いもするがそれもグーな“Tell Her About It”等など、

聴き所満載、かつ捨て曲無しの大傑作!

前々回に紹介したBoz Scaggsの“Middle Man”より断然お買い得です(笑)


この人が30年以上にも渡ってたくさんの人々に愛されてるのも、

きっと自分のルーツを忘れていないのが一つの理由なのでしょう。


思い起こせば、僕が洋楽を聴き始めたのも

Billy Joelがきっかけの一つでした。

自分なりに色々な音楽を探求しつつも、

たまにふと思い出し聴いてみては

なんとも言えない安心感を覚えるのが、このアルバムだったりします。


Bill Joelが原点回帰をテーマに作ったこのアルバムに

自分自身のルーツを見つけられることに

なにか運命的なものすら感じるといったら、

少々センチメンタル過ぎるでしょうか。


嗚呼、やっぱりBlue-Eyed-Soulが好きなんだよなぁ、と

改めて思ってしまう今日この頃です。

incognito


●incognito “Tribes,Vibes and Scribes”


検索しても自分が持ってるCDと違うジャケばっかり出てくるのですが
変わったのでしょうか?仕方ないのでカメラで撮りました。
(まあどちらにしても、あまり格好よいジャケではないのですが)


ギタリストのジャン・ポール・モーニック、通称ブルーイが率いる
ジャズ・ファンクバンド、93年の作品です。
メンバーを完全には固定しないバンドですが、
このCDでは女性ボーカル、メイサ・リークをフィーチャー。
繊細かつ熱い演奏が楽しめます。

インコグニート聴いたことがないという人がいたら

ぜひ一度は聴いてみるべきです。


もう最初から最後まで格好良い。
ただ、難点もそこにあります。


なんというか、全曲が格好よくて演奏の参考にもなりすぎるので
聴き疲れてしまうのです。
スキップボタン押さない代わりに、最後までたどり着けないという…
ひとつ前にケンジ君が紹介していたCDとは対照的なのかも
知れないですね。毎日は聴けない感じです。


そんな理不尽な批判しか出てこないぐらい
すばらしい作品だと思ってますので、気を悪くしないでください!


AORの代表的シンガー、Boz Scaggsの80年の作品。


この作品は、74年の“Silk Degrees”、76年の“Down Two Then Left”と

並べられBoz ScaggsのAOR三部作と呼ばれているそうな。


全二作と変わらず、David Hungate,Jeff Porcaro,David PaichといったTOTOの面々の

バックアップを受けながらも、やはり4年も経つと時代も変わり求められる音が変わるのか、

サウンドは他の二作とはかなり変わってしまっています。

70年代のBozが好きな僕にとっては、残念なことです。


曲のクオリティーに若干のばらつきはありつつも

サウンドの統一感からか、アルバムを通して何度でも聴ける全二作とは異なり、

この“Middle Man”は、80年代という時代のせいなのか、

キラキラしたシンセサイザーとハードなエッジのギターがしんどいアレンジの曲が何曲もあり、

若干後ろめたさを覚えつつもスキップボタンに手が伸びてしまう、そんなアルバムです。

Bozが時折見せる、彼のルーツとも思える泥臭いヴォーカルアプローチが取られた曲も

所謂“ロマンティック・ハードネス”なサウンドとは相性が悪いように思われてなりません。


とまぁ、ボロクソにけなしているようですが、

このアルバム、嫌いかと言われれば、全くそんなことはなく

むしろ最近はこのアルバムばかり聴いていたりします。


それは何故かといえば、

アルバム一曲目の“Jojo”と三曲目の“Simone”が、あまりにも名曲だから。


この二曲、とにかく良く出来ています。

メロウかつグルーヴィ、それだけでAORファンを唸らせられそうですが、

キーボード、特にピアノの、全二作では聴かなかったきらびやかな音色、

そして、David Fosterが参加してるためもあるのでしょうか、

要所要所に見られる、派手かつ効果的なキメによって見事に構築されている世界観は

それまでの作品では決して見られなかったものです。

この二曲によってBoz ScaggsのAORな側面が完成を迎えているように思われます。

録音技術の進歩によるものもあるのでしょうか、

とてもスッキリした仕上がりで非常に聴き心地が良いです。


全曲通して安心して聴ける「名盤」とはいきませんが、

2曲の大傑作を収録した「重要作品」であることは間違えありません。


“Jojo”と“Simone”の二曲の為だけに購入したとしても

決して高い買い物ではありませんよ。

是非是非、聴いてみてください!

ゆるキャラ


●Reckie Lee Jones “POP POP”


シンガーソングライター、リッキー・リー・ジョーンズが
1991年にだしたカヴァー集。

アルバムタイトルとジャケイラストからすると
今の感覚だともっと賑やかでやかましいものを予想してしまうのですが
実際はシンプルなアコースティックサウンドです。


そもそもこのCDを手にしたのは、ベースをチャーリー・ヘイデンが
弾いているらしいと知ったためでした。
ロベンフォードのナイロン弦ギターと絡み
そこに、基本は美しいのだけどとても癖がある
印象的なリッキー・リー・ジョーンズの声が乗り
上質な音楽を作り出しています。


良くあるアコースティック・カヴァーアルバムは
あまり引っ掛かる要素を出さずに、眠りを誘う感じで
「癒し系」なんて簡単に分類されてしまうものが出来上がって
しまう事が多いのですが、
このCDはボーカルと各演奏者が生々しく録音された
非常にスリリングになものでした。


ジャケの脱力系キャラからは想像もつきません。

モンチー


●チャットモンチー “生命力”


『生命力』とはいいタイトルをつけたなあ、と思いました。
若者の健全なエネルギーみたいなものが
うまく表現されていると思います。


このレビューのページでは珍しい、2007年11月発売という
ごく最近発売されたCDアルバムです。

女性3人組の人気ポップロックバンド。
キャッチーでキュートかつ応援したくなるようなサウンドです。


まあしかし冷静な見方をすると、よくテレビとか出ているので
『地方から上京してきた素朴な感じの子達が頑張っている』という

映像的な先入観があるからこそ良く見えるのかも、と
考えてしまいます。
同じ音源でもたとえば『金髪セレブ!』が歌ってたら
このCDを手にとることはなかったでしょう。


まあそれはともかく、僕は家で長い時間CDを聴くときに
洋楽ばかりとかインストばかりを続けて聴けないので
(日本語か恋しくなるからでしょうか)
こういったCDも手元においておく必要があるのです。