2008年9月14-15日(土日)
横浜市港北区小机町3300
新横浜公園内 日産フィールド小机にて

リレーフォーライフ横浜が開催される。

RFL


昨年秋?NHK教育のETV特集を見てリレーフォーライフの事を知った。

基本的に私は「癌」に関するドラマ、映画、ドキュメンタリー、小説等が嫌いである。通常見ない。
それらの多くは癌に関する理解が非常に浅く、かつ古い。殆どの場合、稚拙なイメージ通りの展開を
辿り最終的に主人公は死ぬ。「誤解の再生産」だけを行い、良い事でもしたつもりになっている。

しかしこのETV特集は違った。番組の性質もあるが何よりリアリティーが桁違いである。
自分と同じ「本物の癌患者」がグランドをグルグル廻っている。そもそも主催者やスタッフも
患者が主体?の様である。「来年も生きてたら参加しよう」と思った。

今年私は会場に行くつもりである。
2007年11月6日:重粒子医科学センター病院 呼吸器外来

10月29日撮影の直近のPET-CTと主治医の所見を持参。

呼吸器担当医師所見:
・画像所見と治療経過及び(手術等の)他手法との比較、という意味では適応性はある。
・ただ今回照射しない2~3の転移巣の再発可能性は不明。その理解は出来ているか?
・患部は他臓器に近く照射回数は12回(3週間)程度必要。照射は連続的に行う必要がある。
 これから手配すると来年1~2月頃の照射となる。それも容認できるか?
・費用は高度先進医療部分が314万円、他入院費など一般診療費。

私の回答は以下の通り:
・抗癌剤にせよ、手術・放射線等の局所治療にせよ、この原発巣は制御困難だと考える。
 根治可能性の高い重粒子線照射を御願いしたい。他の再発は別途対策を考える。
・PETのおかげで比較的早期に再発を発見できた。来年まで待っても良い。


肺癌に対する重粒子線治療は1日で終了する1回4門照射(4方向)が主流になってきている。
しかもその制御率は100%近い。部位によってはスケジュールを組みやすいとも言えるが、
実際には固定具製作、PET/CT撮影、照射シミュレーション、倫理委員会の審査等が必須である。

また最近では幾つかの病院との連携も確立し治療希望患者が増えた。現状のマシンタイムと検査、
準備態勢では申し込みから照射まで3~6ヶ月程度を要するのが実状の様である。
今回の場合、3週連続の照射時間を確保するには年末・年始の停止期間の後が順当である。

これらの状況を鑑み私は早めにPET等を御願いした。そこで稼いだ時間を「準備」に費やす
覚悟はできている。スケジュールに関しては放医研側の判断に委ねた。

その場で検査、固定具、照射計画室などへ問い合わせて頂いた。1つのネックはPET検査である。
近年PETは普及してきた。が、それでも通常1~2ヶ月は待たされる。放医研も例外ではない。
しかしラッキー?な事に今朝キャンセルがあり「11月20日午前10時」なら可能との事。

そこをクリア出来れば最速で「12月11日~28日の3週間照射も可能性がある」とのこと。
私は迷わず了承した。PETと照射期間から逆算しCT、骨シンチ、MRI、気管支鏡、家族説明、、。
等のスケジュールが決められた。
2007年9月20日:放射線医学総合研究所 重粒子医科学センター病院 電話相談

抗癌剤治療後の初回PET(9月19日SUV=2.31)後、放医研病院に電話相談。
・血行性転移があったが一度寛解した事
・他手法で制御困難な部位に再発の兆候が有ること
・紹介元主治医の理解・協力は得られること
を伝え適応可能性を伺う。「紹介状と医療情報が用意できれば診療相談は受けられる」とのこと。
10月15日であれば予約可能との回答を頂く。がんセンター主治医に相談し必要書類準備。

10月15日:診療相談での放医研側医師所見は、
・抗癌剤がかなり効いており、局所治療にメリットはある。
・しかしながら転移巣の再燃可能性もあり照射後の抗癌剤治療も念頭に入れるべきである。
・抗癌剤の効果から考えると放射線への感受性も高く、陽子線あるいはX線による照射でも充分な
 効果が得られる可能性が高い。総合的に判断し引き続きがんセンターで治療するべきでは?
との意見であった。

私の回答・希望は、
・がんセンター主治医の理解と追加治療等の協力は確約できている。
・体積換算で99.9%の癌細胞は消失した。残存している成分が「単なる確率的な生き残り」であれば
 先生の仰る通りである。しかしながら活性度や分化度の異なる成分であったり、あるいは癌幹細胞
 といった「性質の違い」による耐性であった場合は事情が異なる。
・追加抗癌剤の可能性を踏まえると身体的侵襲は最小限に抑えたい。是非照射を検討頂きたい。
と申し出た。

結局結論は出ず、
・そもそも次回PETで再発するかどうか?を見極めた上で再度呼吸器担当医師と個別相談。
・その為の呼吸器外来予約を11月上旬~中旬にセットする。
という事だけを決め終了。次回最新のPET結果を持参し再度相談となる。


私の癌治療に対するイメージは「アイガー北壁」の「下り」である。添付図の様にアイガーは
グリンデルワルドの「町はずれ」にそびえ立っている。サンダルと短パンで崖の麓まで行ける。
しかし標高3975mのこの北壁(約1800mの岩壁)は1938年になるまで誰も登れなかった。
ユングフラウの初登頂が1811年、モンブランが1786年なことを考えるとその困難さが判る。



私は末期癌にかかった。手を伸ばせば届きそうな日常のすぐ隣に居る。しかしそこは限りなく死に
近い「山頂」である。(特別な2%を除き)殆ど降りてくる事は出来ず、約束されたルートも無い。
抗癌剤により8合目近辺までは下れたかも知れない。しかしこの先の難所・急所ではザイルやハシゴ
も必要な場面がある。重粒子線はその1つの選択肢になると考えた。
2007年10月29日:がんセンター外来

再PETの結果を検討。胸骨辺SUVmax=5.61に上昇。5mm×10mmくらいの領域に集積が見える。
・核医学の医師所見:「再燃の可能性有り。要経過観察」
・主治医所見:「CT画像上は異常なし。しかし再発する可能性大。局所治療要検討」
・私の判断:「再発。直ちに再治療の段取りを開始したい」

もともとのSUV値は12程度だった事から考えると半分くらいの活性度になった可能性がある。
あるいはFDG放射性同位元素F18から生じる陽電子の平均自由行程(飛距離)が生体内で
約5mmである事を考慮すると100%の活性度になった部分が2~3mm程度存在する恐れもある。
(PETは通常6ピクセル程度の移動平均値を用いるので平均化されて「5」になっているだけ?)

仮にPETという手段が無ければこの「再発」が見つかるのは半年後だったハズである。
僅かではあるが時間的猶予がある。私は「重粒子線治療」を選択した。
ここ数年、抗癌剤の「低量投与」や「休眠療法」と言った「新」手法がクローズアップされている。
通常国立がんセンターでの「標準治療」と対比され、以下の様に理解されている様である。
・抗癌剤が少ないのでQOLが良い
・免疫力を維持できるのでむしろ効果が高い?
・オーダーメードな為、手間ヒマがかかる
・学会など権威から否定されている。既成概念と闘う医師により考案・実施されている。等である。

本来「患者の状態」に合わせ薬剤を調節するのは当然の事である。薬剤カタログやレジメンの解説
でも明記されているし、その事自体を否定する医者が存在するとは思えない。

しかしながら実際の臨床現場では教科書通りのレジメンが圧倒的多数である。ネットや伝聞では
その「教科書治療」すら行われていない場合も散見する。原因の一部は医師側にもあるが、
私の印象では最大の原因は患者側にある様に思える。

なんとか癌を治そうとがんセンターを受診する。「標準治療」を開始し副作用が出る。回診に来る。
「どうですか?調子は?」と聞かれる。ほぼ100%の患者は「なんとも有りません。大丈夫です」
と答える。ウソである。医者もほぼウソに気づいている。しかし「標準治療」は継続される。

患者は医者に逆らえない場合が多い。しかし癌治療においてコミュニケーションの不成立は致命的
である。正直に「もうプリンもダメです」とか、「目眩がして殆ど動けません」といった状況を
訴えなければ抗癌剤治療は成立しない。

とはいえ患者からすると「減薬」は不安である。私の調査の範囲でも0次のオーダーでは投薬量と
効果は相関がある。勿論それは体調を崩さない範囲での近似である。この見極めは血液検査だけで
なく自覚症状にも拠る。

通常カタログ推奨値は毒性が問題になる最大規定量から1レベル程度下げた値が選定される。
多くの人には許容範囲でも体調や体質によっては「ダメ」な事はあり得る。反対に倍量
投与しても全く平気な事もある。この「限界値」は患者本人が決める以外に手段は無いと思う。

前置きが長くなったが本記事のテーマは「低量投与」に効果はあるか?という点についてである。

私の理解では勿論「個人差」もあるが、より重要なのは「癌腫差」だと感じる。一般論として
乳がんや卵巣癌は抗癌剤に感受性が高い。一部を除き成長速度も遅く診断後1~2年放置しても
問題無い場合も少なくない。ただし診断時には既に転移している場合が多いし治癒したと思って
も10年程度は経過観察が必要である。気苦労が多い癌と言えるかも知れない。

その様な癌腫に対し低量投与が長期間作用する例があったとしても専門医であれば特に驚かない
ハズである。特に乳がんについてはハーセプチンが登場し大きな効果が得られる例も増えた。
また大腸癌についてもオキサリプラチンやアバスチンが認可され肺・肝転移が有る例でも充分治癒
があり得る状態になってきた様である。低量で長期間制御できる可能性は充分にある。

それに対し膵臓、胆道、肺癌は(勿論例外はあるが)通常「高速」だと考えられている。
現状の癌の拡がりや体調にもよるがステージIIIB/IV患者の場合、チャンスはそう何度も無い。

「いくつかの(主に乳がん)症例で低量投与が有益であった」という推論から同様の手法を
肺癌に適用するのはリスクが高すぎる様に感じる。やはりサルベージ的には有る程度の投与量が
必要だと思う。病状が安定すれば減薬しても良いかも知れないが細心の注意を要するハズである。

ご紹介頂いた梅澤充先生の結果は有益なのかもしれない。症例を集め、しかるべき場で公平な議論
を進めてゆくべきである。しかしながらホームページの記事を2~3読んだだけの推論ではあるが、
先生は既に「公平な議論」を求めてはおられない様にも見える。

恐らく医師免許は保持しているとは思われるが上記の癌腫に関する議論を(ホームページの何処か
には記載されているのかも知れないが)差し置き、いくつかの断片的な成功例を患者向けに喧伝
するのは科学的な立場から言っても問題があるし医師(特に癌という生死に関わる病気に携わる)
、医療者として不誠実な様に感じる。

「低量」とか「休眠」とかの名称は一般ウケするかも知れないが、内容的に何か「新しい」
アイデアが有るとは思えない。「臨機応変」という昔ながらの言葉を引用しているだけに感じる。

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ヒロさん
御回答になったでしょうか?梅澤先生については辛辣な書き方になってしまい気が引けるのですが、
多くの癌患者の為にご尽力している姿は想像できるので一度会ってみたい気はしています、、。
多分会って話せば熱意のある良い先生なのかも知れません。
遠隔転移・再発癌の治療方針は限られている。私の場合は元々IV期でもあり順当には化学療法の
セカンドラインが候補になる。添付図は2007年現在コンセンサスが得られている?
治療の流れである。当然ながら私の様なケースに対し寛解につながるルートは示されていない。
肺癌治療の流れ

以下は主治医及び国立がんセンター肺外科医、放射線医師等との相談、ネットなどでの調査の結果、
私が得た治療候補案と考え方である。

案1.追加化学療法:
   タキソールと同様の作用機序を持つドセタキセルが第一候補。他順当な案としてTS-1。
   白金製剤は初回治療でhigh doseに行った為蓄積効果を考えると避けたい。となると、
   ジェム+白金系等も優先度は下がる。骨髄抑制は80%回復したがもう少し休薬したい。

案2.分子標的剤:
   イレッサはやはり扁平上皮癌に対し打率が低い。タルセバはEGFR異常が無くても効く?
   という説もあるが状況から考えると「今は保留」が適当か?

案3.手術:
   外科的な難易度は高くはない。通常IV期患者に適応性は無いが、かなりの著効例である。
   患者希望があれば手術を行っても良い。ただし元々の腫瘤の大きさと悪性度を考えると
   組織を外科的に剥がすのは困難と予想される。従って、
   肺の一部、胸骨、血管(バイパス)、リンパなどかなり広範な除去手術になる。
   浸襲が大きく術野以外の再発があった場合マイナスに作用する。仮に再発が無くてもQOL
   は相当に低下する。将来的なサルベージ手術の際不利益になるかも知れないが、昨今の
   データや「手術規模vsメリット」から考えると先ずは放射線が第一選択肢では?

案4.放射線:
   リニアックの3Dなら国立がんセンター中央病院でやれる。但し場所が悪く胸骨と脊髄への
   ダメージは避けられない。陽子線は東病院でも実施されているが末期からの著効例に対する
   適応性は問い合わせてみないと判らない。重粒子線治療は原理的に効果が高そうであるが、
   晩発毒性に対する知見は研究段階にある。また陽子線同様、本ケースへの適応性は不明。

案5.免疫療法:
   WT1ワクチンなどは私の印象では評価できそうである。(ただし散々迷った結果)
   抗癌剤投与を最大負荷で行い、未だ2ヶ月しか経っていない。将来的な選択肢か?

案6.ラジオ波 and/or 凍結療法:
   原発巣が面していた領域はかなり広く形状も複雑。部分的には効果がありそうだが、
   広範囲な制御には失敗する可能性が高い?

案7.カテーテルガイド抗癌剤導注法:
   領域の広さと形状、さらに骨面への薬剤分布の是非など考えると効果は疑問?
   局所治療ならより確実性のある手法が良いのでは?

案8.経過観察:
   仮に次回PETで集積度が上がったとしても放置し、他病巣の様子を見るべきでは?
   体力の回復を待つメリットもあるし対策をより精度良く決められるハズである。

再発が疑われる部位は「胸骨の裏」「気管や食道との間」「胸骨面に連続」で「浸潤」が疑われる。
仮に私が癌細胞ならやはり「この場所」に隠れるだろう。我ながら大したモノである。
多くの癌患者には「自覚症状」がある。それは疝痛などの明らかなモノ以外にもちょっとした肩の
「ハリ」とか胸の「違和感」などである。それらは1日中だったり3日に1回だったりする。
このブログで後述するつもりであるが私の場合も微かな違和感が残っている。再発への準備を始めた。

そもそも私は遠隔転移のある末期癌患者である。周辺の骨への浸潤も明らかで寛解後再発もした。
最も根治に程遠いケースの1人と言っても差し支えない。癌研究全体の中で私のようなケースは
どの程度あるのだろうか?
統計

添付図はネットで簡単に入手できる中では比較的新しい統計データである。6つの府県の癌登録
データではあるが「診断時の進行度分布」が類推できるので私にとっては有用である。over all
で約20%の肺癌5年生存率になっており、90年代後半のデータとしては他調査と大きく違わない。

患者の多くは「予後の悪さ」を気にする。それに加えて私が感じたポイントは、
・診断時の遠隔転移+(周辺)領域患者が意外と多い。(最近では検診が功を奏しているらしいが)
・遠隔転移が診断されながら長期生存を果たした人が約2%?「も」居る。(単純計算で約100人)
・領域患者は手術適用もあるが(恐らく)その多くは根治に至っていない。
点などである。

この2%の生存者は何が違ったのだろうか?どの薬を何mg/m^2投与したのか?経過や縮小速度は?
そもそもの腫瘍成長速度は?再発は?部位は?体調は?栄養状態は?代替療法は?5年後以降は?
治療前後の職業、仕事量は?ストレスは?食事内容は?睡眠時間は?、、等々調べたい事だらけである。

通常、自然科学では様々な試行錯誤を繰り返しながら実験等を計画・準備し新しい発見を見いだす。
いわば「無数の失敗」と「数少ない成功」があり、研究者はその境目に時間や資源をつぎ込む。
癌という人知を超えた問題へのアプローチとして「100人の成功例」の吟味は重要なハズである。

しかしながら私の調査では「特別な100人」に関するまとめは見つける事が出来ずにいる。
もしかすると「偶然」や「幸運」として片づけられたのだろうか?症例が少ない事や原理に
基づく推論である為に「エビデンスレベルが低い」との評価で終わっているのだろうか?

統計的な癌対策の主戦場は「遠隔転移・再発後」である。が、残念ながらその地域は「敵の支配下」
にある。私は最も生還に遠い地点に居る。もしも私が生還ルートの1つを開拓できれば多くの患者
にとって有益な情報を与える事ができる。仮に生還出来なかったとしてもその失敗例を遺す事で、
注意を促す事になるであろう。私の努力はムダにはならないと考える。
2007年9月19日:7コース目Day13、がんセンター外来

9月14日(7コース目Day8)撮影のPET-CT結果を検討。
核医学側の医師所見は
・画像上異常は見あたらない。転移巣消失を確認。
・浸潤していた胸骨の表面にSUVmax=2.31の集積がある。他は著明に減衰。とのこと。

主治医の判断は、
・肺の場合SUV=2を越えると「要再検査」扱いだが誤差の大きい計測なので問題無い。
・核医学側に問い合わせたが、化学療法後のリバウンド(軽い炎症反応)という理解。

私の判断は、
・骨表面の浸潤面は細かい凸凹があり、薬剤分布や代謝を考えると不利だったのでは?
・再発を疑うべきでは?胸骨表面の細胞をかき集めれば0.5cm^3くらいはあるのでは?
と珍しく意見不一致。「予定より早く10月29日に再度PET-CT撮影」を決定。


SUV=局所放射線濃度/(放射線同位体投与量/体重)は体内に投じたFDGの集積度に反映。
薬剤が体内に均一に分布した場合、「SUV=1」となる。

バックグランド補正を行う事で半絶対評価が可能とされるが、計測機器の個体差や体内の
代謝・炎症にも依存するので通常は誤差±1~2程度を考慮する。ちなみに健康な臓器では
肺=約0.7、骨=約1.0、肝臓=約2.6、脳=約18、、程度の自然集積度らしい。

また予断ではあるが、国立がんセンター中央病院でのPET-CTの導入は2004年と割と遅い。
しかも2006年3月読売新聞において「見落としが多い」という主旨の報道がされたせいか、
核医学所見は若干神経質になっている?印象を受ける。

これらを総合的に考えると主治医の判断は合理性がある。通常、呼吸器癌ではPET所見を
「病巣の個数、全身分布の判断」に用いる。「誤差」が焦点になる事は稀である。

ただ、これまでの様々な考察や患者本人にしか判らない「胸の違和感」などのフィーリング
からPETの再検査を早めてもらった。

治療開始前、私の癌は胸骨表面に浸潤し「噛みこんで」いた。さらに気管や太い血管をCT画像上
70~80%狭窄していた。一般に悪性度の高い癌は周囲の臓器と癒着し手術で剥がす事も困難である。
今は著効し癌病巣は画像上消えているがそんなに簡単に「終わる」ハズがない。

「寛解」を目指すならば次の1手が必要な事はほぼ間違い無い。
非小細胞肺癌は薬物療法単独での治癒は見込めないとされている。添付図は
主な癌腫の薬物療法に対する感受性・治療効果の見込みをまとめたモノである。
「非小細胞肺癌ステージIVb」の確定診断を受けた私は延命すら厳しい事になる。
癌腫と薬物療法

この表は、多くの患者の命とそれに携わってきた医療者の努力により得られた
知見の総和である。人的・金銭的コストは計り知れず、その意味は極めて重い。

では私の著効という結果はどう理解するのが妥当なのだろうか?
「奇跡の体験」を語る講演会などを開き、一財産でも築くべきだろうか?

針生検で低分化扁平上皮癌であることが判った。私は悪性度・活性度が高い事に
不安を感じた。主治医に相談すると「仰る通りです。ですが、その理解は私は
ちょっと時代遅れだと思います。」との回答だった。

例えば悪性度の高い小細胞肺癌は数年前には「不治の病」であったが、2001年
頃には著効率が90%前後に達し最近では根治可能な癌になりつつある。

私の非小細胞癌は悪性度が高い。シスプラチンくらいしか「効く」薬が無かった
2000年頃以前であればC群とD群の間くらいの評価では無かっただろうか?
しかし今はシスプラチンの腎毒性を緩和したカルボプラチンも「堂々と」使う
事ができる。細胞分裂の周期が短い事が逆に幸いしB群とC群の間くらいの状況
になっている可能性もある。

画像上確かに腫瘍は消失したが特に不思議な事が起こった訳ではなく、活性の
低いゆっくりした癌に対しての「奏効」と同等の状態にあると考えるのが自然
かも知れない。

で、あるならば「寛解」を目指す私には今後も周到な戦略と準備が必要である。

2005年マスターズ16番タイガーウッズのアプローチは「奇跡的」だった。
カップイン直前にナイキのマークが世界中継されるなど出来過ぎである。

しかしそれは奇跡の水(1万8000円/月)を飲めば起こるという類のモノとは
本質的に異なる。あくまでも経験と努力の積み重ねにより成し遂げられた人の技
である。タイガーの偉業に比べれば私の闘病など簡単な事の様に思える。
添付図は7コースの抗癌剤投与日と主な血液成分の推移をまとめたモノである。
血液検査

・回復具合(立ち上がりカーブ)は後半は鈍化している。
 (少しずつ反発力が低下しているのは明らか。)
・7コース投与後、最初の1ヶ月で「危機的状況」は脱している。
・その後、2ヶ月程度かけギリギリ正常域に戻っている。

この経過はほぼ私と主治医の想定通りである。驚くほど良くも無いが、
3~4コースで止めた場合と比べ特に大きなデメリットはなかった。

ただし主治医に言わせると
・「8割程度回復してからの最後の1~2割は結構時間が掛かる」
・「次回治療時のダメージに効く場合もあるので油断は禁物」との事。

確かにその通りだと思う。「治療」とは名付けても猛毒を血管内に投入し、
全身の細胞を繰り返し殺傷した事実は重い。今は機能回復に期待し「待つ」
以外に方法は無い。


私の抗癌剤治療に対するイメージは「どうせ効かない」「薬漬けになって死ぬ」
という稚拙なモノだった。多くの「代表者」や「商品」によって流布される
宣伝、体験談?の影響もあったが、数年前までの抗癌剤の効果と安全性は確かに
限定的だった様なのでやむを得ない側面もある。

一般に親戚や知人の悲惨な「闘病」は多くの人々の記憶に事実として刻まれる。
「有名病院で抗癌剤を始め1ヶ月で骨と皮、2ヶ月目で昏睡、3ヶ月になるか
 どうかぐらいであっけなく臨終、、」などの例を私も少なからず耳にした。

詳細な検査結果やレジメンは不明である。が、余命3ヶ月の癌患者に「骨と皮」
になる程の抗癌剤投与は(カタログ推奨値以下であっても)普通は推奨されない
ハズである。

多くの患者・家族は医療従事者では無い。医学的知識が無いのは当然である。
サラリーマンであれ主婦であれ自分の役割を果たし健康保険料を納付していれば
患者たる権利は完全に有する。難しい勉強などしなくても保険適用内の標準治療
を受けられなければ本来は「契約違反」である。

しかし残念ながら抗癌剤治療においてはこの原則だけでは不十分だと思える。
癌治療の性質と国内の医療事情を考えると少なくとも今後暫くは患者個々人が
正しい情報の整理と最適な対策の立案に寄与せねばならない様である。