介護士のやりがいを知ってほしい! 掌編小説 無限ループ | 中卒ひきこもりニートから始める介護士(10年目)

中卒ひきこもりニートから始める介護士(10年目)

高校中退、ひきこもり等を経験し20代後半で介護士になりました。老健に勤務。
私の経験を誰かの役に立てたいという自己満足でブログをしております。
(介護福祉士・一児の父)

この記事を読んで頂きありがとうございます。

皆様に読んで頂くことがモチベーションです照れ



最近、短めの小説(掌編小説)を書くのにはまっています。

まだ、2作しか書けていませんが、今回はそのうちの一作品をブログに載せます。


私が感じた介護士の仕事の素晴らしさを書いた作品です。

読んでいって頂けると嬉しいです。



無限ループ

※この物語はフィクションであり、実在の人物・団体とは一切関係ありません

オムツを替えて、身体を洗って、食事を手伝う。
今日も明日も毎日毎日繰り返す。

これが介護士としての俺の仕事だ。
「退屈でどうしようもない」と言う程でもないが大して変わり映えのしない、面白みのない日々。
でも生きるためには文句を言ってられない。

「あんた、ダルそうな顔して!仕事なんやからしっかり働きなさい!!」

甲高く、嗄れているという独特の声で注意してきたのは、主任の桜河さんだ。
小さくて痩せている身体からは想像ができないくらい大酒飲みの女性で、何回か飲み会に連れて行ってもらったことがある。

「うちに入って2ヶ月でそんな顔をするなんて、10年早いわ!」

そう、まだ俺はここでは新人の部類だった。
年齢で言うと35歳なので、中堅になっていてもおかしくないのだが…
今まで色々な仕事をしてきたけど1年も続いたことがない。

そんな俺にとって介護は数少ない「経験なしでも雇ってくれる業界」だった。

だから辞めるわけには行かない。

「わたしゃ洗濯物干したかね?」

「またか。」

今日だけで10回以上聞いたそのセリフに思わず呟いてしまう。


富士村のばあさんの声だ。

ばあさんはこの施設の利用者の一人で認知症があり、穏やかで話好きな人だが、何回も何回も洗濯物を干したか聞いてくる。
まるで無限ループだ。

聞いてくるだけならまだしも、歩行器を押さずに職員の方に近付いてくるから危ない。
富士村のばあさんは歩行器なしでは足がもつれて転ける可能性が結構あるからだ。

「もう良いから、歩行器持ってください。」

「いや、でも洗濯物が…。」

「洗濯物なんか息子さんが持って帰って洗ってくれてるんだから。危ないから座って。」

「おかしいねぇ。」

首を傾げながらばあさんは椅子に座る。
毎日毎日、俺が入社してから何百回としたやり取りに正直うんざりする。

俺だって入った当初はもっと丁寧に話を聞いて、もっと丁寧に説明していたが、仮にそれで納得しても数分後には「洗濯物干したかね?」と来る。

こっちが何を言っても「記憶にございません。」と言うやつだ。


帰り際に桜河さんが話しかけてきた。

「あんたに前から言おう思っててんけど、富士村さんへの対応雑過ぎへんか?」

「そうですかね?転けたら危ないし、何言っても同じだし、こんなもんだと思いますけど。」

「あんたなりに富士村さんのこと考えてるんかもしらんけど、あんたが考えてるのは身体の安全だけや!心の方も考えな!!」

「…はぁ。」

桜河さんがここまできつく言うのも珍しい。
俺嫌われたかな?また辞め時か?
そう考えていると桜河さんが続ける。

「あんたはどうせ富士村さんは覚えてないって思ってるかもしれん。確かに認知症もあるし、忘れてはることもある。けどな、覚えてる部分もあんねん。」

「そうなんですか。」

「私はあんたは介護士に向いてると思ってる。人の顔色をうかがう自分をあんたは嫌いみたいやけど、それは利用者さんの気持ちを汲み取れるっていうことやろ。もっと利用者さんのことを見て。」

「…具体的にはどうすれば良いんですか?」

「富士村さんに対応する時、声色とか表情とかセリフとか毎回少しずつ変えてみて。どうすれば富士村さんが心から納得してくれるか確かめてみ。」

桜河さんなりに俺に期待してくれているらしい。それなら、もう少しだけ働いてみるか。

その日から俺は富士村のばあさんの「洗濯〜」に対して色々なことを試してみた。
雑談で気をそらそうとしたり、息子のフリして話しかけたり、実際にベランダまで言って洗濯物が無いことを確認したりもした。

試し始めてから3ヶ月、唐突にその時は来た。

「あたしゃ、洗濯物干したかね?」

「富士村さん、気にしてくれてありがとうございます。僕が先に干しちゃいました。すみません。」

「そうかい?ごめんね、ありがとう。」

なんと、あの富士村さんが笑顔で自分の席に戻っていったのだ。

桜河さんに報告すると笑顔で
「やったやん!あんたも頑張ったな!」
そう褒めてくれた。


「良い対応方法見つけたんやったら、それ続けてみ。いつか介護士やってて良かったって思うようなご褒美貰えるで。」


「ご褒美ですか?」

「うん。やってたら分かる。」

桜河さんが言うご褒美はどうせ「長く働き続けられたことがご褒美みたいなもの」とか、そんなおためごかしだと思うが、ちょっとだけ仕事が楽しくなってきたのは確かだ。
もう少し続けてみよう。


「あたしゃ、洗濯物干したかね?」

「富士村さん、気にしてくれてありがとうございます。僕が先に干しちゃいました。すみません。」

「そうかい?ごめんね、ありがとう。」

何回も何回もこの会話を繰り返して、入社から1年が経った。
まだ、ご褒美というやつは貰えていないが、何とか介護士を続けられている。

今日もいつも通りの1日だ。

「あたしゃ、洗濯物干したかね?」

「富士村さん、気にしてくれてありがとうございます。僕が先に干しちゃいました。すみません。」

「あら、あなたいつもありがとう。」
 
「!!」



駄文失礼致しました。


※この作品は出されたお題(今回は「記憶にございません」でした)に沿って、1時間以内に書き上げた作品を募集するコンテスト、私立古賀裕人文学祭(古賀コン)に応募した作品を一部修正したものです。


関連記事はこちら。もう一つの掌編小説です。



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