ひきこもり経験が活かせるコンテスト 中篇『星空の下で』 | 老健介護士になったアラサー中卒ひきこもり(10年目)

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いじめ、高校中退、ひきこもり等を経験し介護士になりました。私の経験が誰かの役に立てばと思いブログをしております。

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皆様に読んで頂くことが、私のモチベーションです照れ

 

 

引きこもり文化祭について、詳しくは前編 をご覧下さい。

 

引きこもり文化祭本編部門入賞作品

タイトル『星空の下で』

 

拙著ではございますが、ご覧頂けると嬉しいです。

 

※本作品はフィクションです。

実在の人物や団体などとは一切関係ありません。


 

「週末の天気は晴れ、三連休は絶好の行楽日和になるでしょう。」

テレビで天気予報が流れる。

 

「じゃあ、この日に死のう。」

僕たちはそう決めた。

 

 

世間では三連休と言っても、僕の地元は寂れた田舎で、観光資源はほとんど無い。

他所の人に自慢できるのはバブル期に建てられた温泉あり、結婚式場あり、レストランありの大型ホテルくらいだ。

 

そのホテルもお客さんは多くない。

地元の人間が祝い事でレストランを使ったり、地元の人間が日帰りで温泉に行ったりと、かなり景気悪めの地産地消がメインだ。

 

だから、ここら辺で一番大きな駅の前でも人通りはほぼない。

 

駅前に来て二十分ほど経ったが、集合時間の二十時まではまだかなりある。

久しぶりの外で緊張して大分早く来てしまった。

 

人はいないがずっと緊張している。

僕はイヤホンを耳に深く押し込み、音楽の音量を上げてうつむく。

 

約束の時間を十分ほど過ぎた頃、目の前に真っ赤な車が停まった。

窓が開いて運転手の女の人と目が合う。

「紺色のスニーカーにパーカー、あなたがピクルスさん?あたしサイヒだけど…。」

 

「…。」

僕は言葉が出ない。

 

「あぁ、ごめん人違いかぁー。あたしよくやらかすんだよね。」

 

「僕がピクルスだす。」

緊張して噛んでしまった。

家族以外と直接話すなんて久しぶりだ。

 

「良かった!間違えたかと思った。じゃあ行こうか?」

サイヒさんが言う。

 

車の助手席には赤いリュックが置かれていたので後部座席に乗ると、シートの奥側には高校生くらいの男の子がいた。

ぶ厚いメガネにセンター分けの『ステレオタイプな優等生』みたいな外見の子だ。

 

「ピクルスさんですか?直にお会いするのは初めてですね。私はグレアと言います。よろしくお願いします。」

 

「…よろしくです。」

若いのに立派なあいさつだ。

それに比べて僕のあいさつの拙さに恥ずかしくなる。

 

「これで全員そろったね。じゃあ出発ー!」

車が走り出す。

 

赤い車のドット絵

 

「風が気持ちいいねー。」

サイヒさんの金髪がなびいている。

 

「今日は過ごしやすい気温だって、私が観た天気予報でも言っていましたしね。」

グレアくんが相槌を打つ。

 

「幕を下ろすには絶好の日だねー。」

助手席のリュックを見ながら言うサイヒさん。

 

僕たちはあるSNSで集まった自殺志願者だ。

サイヒさんの募集に僕とグレアくんが応募した。

 

「一緒に満点の星空の下で、人生に幕を下ろしませんか?」

それが募集の文言だ。

 

これを見た時、最初は満天の字が違うと思っただけだったが、時間が経つにつれてどんどん魅力的に思え、結局参加することになった。

 

そして今、幕を下ろすための舞台である山『星持台(ほしもちだい)』に向かってドライブをしている。

 

 

発進から二時間ほどしてサイヒさんが

「で、ピクルスくんとグレアくんが死にたい理由ってなんなの?」

そう切り込んできた。

 

「まあ、こういうこと聞くのはNGかもしれないから、言いたくなかったら良いんだけどさ、逆にもう最後だし全部ぶっちゃけても良いかなって思って。」

「ちなみにあたしは人生上手くいかないから。仕事クビになっちゃってさ。あーあ、何回目なんだろう。」

 

サイヒさんの質問に対してグレアくんが

「私は大学受験に失敗したからです。」

そう無感情に答える。

 

「そっかぁ、人生賭けたんだね。それは辛いねぇ。」

 

二人の会話は進む。

 

(参ったな、僕も答えなきゃいけない流れじゃないか。)

案の定「じゃあピクルスくんわ?」と聞かれた。

 

「ぼ、僕は今の自分が嫌いだからです。」

 

「自分が嫌いだから?んー。もっと詳しく聞いても良い?」

 

僕が伝えるべき言葉をしっかり決めないまま質問に答えたせいで、サイヒさんに再び質問をさせてしまった。

 

「上手く言えないんですけど、僕は今の生活が嫌で就職して働きたいんです。」

 

「うんうん。」

 

「でも、外に出るのも勇気が必要で、ましてや就職活動なんて怖くてできないんです。何回かやろうとしたんですけどダメでした。」

 

「それは辛かったね。」

サイヒさんは優しくうなずいてくれる。

 

「現状を変えたいくせに何もできない自分に絶望して、もう全部終わらせようって思ったんです。」

 

 

「なるほどねぇ。頑張ったね。」

 

「しょうもない理由ですみません。」

 

サイヒさんの絶妙な相槌とグレアくんの真剣な眼差しに促され、素直に話してしまった。

 

「辛さなんてその人にしか分からないものだからね。しょうもなくないと思うよ。」

 

引きこもって五年になるが、特にここ一年は絶望が強くなっていた。

ある意味で生きているのに死んでいる。そんな苦しみだ。

 

「立場も考え方も違うけど今日の目的は一緒だ。仲間だね、あたしたち。」

 

「そうですね、まさに私もそう思います。」

 

サイヒさんの言葉にグレアくんも僕もうなずく。

 

人生最期のドライブは不思議と居心地がよかった。

こんな気持ちは久しぶりだ。

 

「到着ー!」

三人で話し込んでいる間に星持台に着いた。

駐車場に車を停め、山頂に向かって五分くらい歩く。

 

山頂に着くやいなや、展望台みたいになっているスペースのベンチに座り「最高でしょ?」

そうサイヒさんは言った。

 

僕たちも口々に同意する。

 

星持台の標高はそんなに高くないが、田舎の澄んだ空気と少ない明かりのお陰で満天の星空が見える。

 

満天の星空のイラスト

 

ベンチに座ってから十分程して、グレアくんが口を開く。

「星空も堪能したことですし、私は満足です。そろそろ行きませんか?」

 

辛かった人生がやっと終わる。

感動とか安堵感に包まれると思ったが、まだ何の実感も沸かなかった。

 

「あっ、ちょっと待って。最期にタバコ一本吸わせて。あっちに喫煙所あったから行ってくるね。」

 

サイヒさんが喫煙所に行ってしまったので、グレアくんと二人きりになった。

 

…ダメだ沈黙に耐えられない。向こうも同じ思いだったのか、話しかけてきてくれた。

 

「私は何かを言いたい相手がいないので書いていませんが、ピクルスさんは遺書というやつを書いてきましたか?」

 

「あ、うん。遺書自体は前から書いてたんだ。父と母にね。」

 

「遺したい言葉があるというのは素晴らしいことですね。私は両親に愛されていないので。」

 

「素晴らしいかな?たくさん迷惑を掛けてごめんなさい。くらいだけどね。」

 

僕の答えにグレアくんは少し首を傾げる。

 

「最期の言葉としてごめんなさいと言えるのは、それだけ相手に助けられてきて、それだけ相手のことを思っているということなので、やはり素晴らしいことですよ。」

 

…グレアくんもサイヒさんも良い人だ。

こんな人たちが死を選ぶような社会は間違っている。

 

そんなことを思っていると、サイヒさんが走ってきた。

「大変!!〇〇〇〇」

何かを叫んでいるが後ろの方が聞こえない。

 

右頬に冷たいモノが落ちてくる。

「大変!!雨だよ雨!」

やっと何を言っているか分かった。

 

いきなりの大雨に驚きながら僕たちは小走りで車に戻った。

 

 

靴下がびしょ濡れで気持ち悪い。

一度乾かさなければ。

 

「天気予報外れたじゃん、もう最悪!今日は中止にするね。」

サイヒさんが少し怒った顔をしながら言う。

 

「え?」

グレアくんがびっくりしたような声を出す。

 

すぐにサイヒさんは

「だって募集の文章覚えてる?一緒に満点の星空の下で、人生に幕を下ろしませんか?だよ。星空の下じゃなかったらやりたくない。」

と返す。

 

「うーん。残念ですが、主催者のサイヒさんがそう言われるなら仕方ないですね。私も今日は諦めます。ピクルスさんはどうですか?」

 

「あっ、えーと、僕も諦めます。」

流れでそう答えてしまった。

 

「はい決定!じゃあ帰ろう。」

 

靴下がグチュグチュして、車に乗る時に脱いでしまいたかったが、失礼な気がして言い出せない。

 

ふと横を見るとグレアくんはちゃっかり裸足になっていた。

 

思い切ってサイヒさんに

「すみません。もし迷惑じゃなければ、

靴下脱いでも良いですか?」

と聞いてみる。

 

「え!逆にまだ脱いでなかったの!

びっくりした。」

そう言われてしまった。

 

本当に世の中には色んな人がいる。

 

帰りの車中でサイヒさんは雨女で、これで八回目の中止であること。

電源を切っていたグレアくんのスマホに、両親から数十回電話があったことを知った。

 

人は「もう死んでも良い。」と本気で思っているつもりでも、靴下が濡れている程度の不快感を気にする。

きっと心の片隅では生き続けることを考えているからだろう。

 

くつ下のドット絵

 

僕は人生を終わらせる機会を逃した。

おそらく、この先もずっと一人では実行できない。

取りあえず帰ったら靴下を乾かそう。

そう思った。

 



 

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