火の賜物―ヒトは料理で進化した
というのが本書の主題であり、食べることが生き甲斐な自分としては見逃せないテーマなのです。
どうやら人類の研究で今まであまり重要視されなかった「料理が進化に及ぼした影響」についての、
興味深い文献をアレコレ紹介してくれてます。
その中でも特に面白い!と思ったのは進化上のトレードオフについて。
例えばチンパンジーとくらべてヒトは木登りが下手だが、その代わり歩くのは速い。
長い指と握力が無い代わりに、長い足と平べったい足の裏を持っているから。
生活環境により適した性質を持つ個体がより有利にサバイバルするってことですね。
で、本題の食べることに関しては
ヒトは胃、小腸、大腸という消化器官がすべて他の霊長類より小さいというトレードオフがありました。
口も小さいし、顎も非力。
きっと固い木の実や生肉を咀嚼して消化するのはメチャクチャ大変だったはずです。
でもそんなハンディキャップを長所にしてしまう方法がありました。
それが火を使って調理することだったのです。
加熱して調理したものは柔らかいから消化器官が小さくて済み、
消化にかかる時間と消費カロリーが少なくて済みます。
顎の筋肉も少なくて済み、口も小さいほど虫歯の影響を受けにくい。
消化器官が小さいことが逆に長所になってしまったのです。
火の賜物―ヒトは料理で進化した/リチャード・ランガム

¥2,520
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イタリア完乗1万5000キロ―ミラノ発・パスタの国の乗り鉄日記
イタリアの電車を「乗り潰す」ということが日本と比べていかに大変かということが
まず始めにつらつらと書かれていてもうその時点でうんざり。
苦労自慢で始まる本なんて楽しくない。
パスタの国イタリアを電車で旅することの魅力を伝えようという気持ちがほとんど汲み取れなかった。
読み進めていけばそのうちそのような記述が出てきたかもしれないが、
残念ながらそこまで我慢する気力が起きなかったです、はい。
タイトルの勝利といえば勝利か。。
イタリア完乗1万5000キロ―ミラノ発・パスタの国の乗り鉄日記 (交通新聞社新書)/安居 弘明

¥840
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君がオヤジになる前に
本書は25歳から38歳の、5人の質問者への回答という構成を取っていて、
いわばホリエモンによる人生相談といったところ。
仕事も家庭もそこそここなして不自由はしていないけど
何か物足りなくてモヤモヤしている、
そんな最近の若者を元気づけるというのがメインテーマだ。
テレビを消せ、ネットを駆使して情報を集めろ、思考停止するな―
そんな歯切れのいい叱咤激励の言葉が並ぶ。
若いうちから事業を成功させてきただけあって、
成功のために努力を惜しまない妥協なき姿勢や合理的な考え方には唸らされる。
多くの人が「オヤジにはなるまい」「自分ももっとやれる」と発奮するのではないだろうか。
事件前までの?成功を支えたノウハウや知識・経験が自信となって表れている。
ところが、「35歳の君へ」あたりから変化が表れる。
仕事のためなら家族や仲間を切り捨てると豪語する一方で
自分の課題は包容力かもしれないと感じ始める。
トヨタの奥田会長やGLAYのTAKUROと出会って、
彼らの包容力(要はダメな人を切り捨てない生き方)がこれからのビジネス、
あるいは自分に必要なのかもと思い始めたらしい(完全には受け入れてないが)。
実はこのホリエモン自身の課題探求というのがもう1つの隠れたテーマとなっていて、
それがこの本をより面白くしている。
さらに興味深いことに、最終章・38歳の相談者がホリエモン自身となっている。
27歳で予定外の子供ができて結婚するも、その2年後に離婚していたことを明かし、
離婚後の寂しさ、苦しさを耐え抜いて自分を「突破」できたと綴っている。
苦しい状況を耐え抜いてこそ、脱皮できるという。
そんなホリエモンのさらなる突破のキーワードになりそうなのが前出の包容力。
包容力を持って(ダメな人材を切らずに)成功している人物の謎を解明しているといった感じで、
巻末の福本伸行氏との対談でも突っ込んだやり取りは意見の食い違いが面白い。
今月26日に収監が確定したホリエモン。
二年半の服役でどう変わるのか。
さらに脱皮して丸くなってしまうのか、ならないのか―。
- ¥1,260
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ティンブクトゥ
あまりにも切ないラストシーンに、読後しばらく放心状態になってしまった。
人語を解し、高い知性を持つ犬「ミスター・ボーン」は、旅の途中に最愛の主ウィリーを病気で失う。
孤独になったミスター・ボーンは、生き延びるために新しい飼い主を探し求める。
何百キロもの放浪の末たどり着いたのは、自分を温かく家族として迎えてくれる裕福な一家だった。
しかも妻のポリーと長女のアリスは理想的な飼い主で、ミスター・ボーンを必要とさえした。
ウィリーとの生活に比べたらずいぶん退屈で家庭のいざこざもあったが、安全とのんびりした生活が約束された環境だった。
それでもウィリーのことは片時も頭から離れることはない。
ある日一家はボーンを施設に預けて2週間の家族旅行に出かけることになった。
再び孤独となったミスター・ボーンが飼い主が想うあまりに取った行動とは…。
人間並の知性を持った犬だから到達してしまった悲劇。
ため息しか出てこない。
- ¥1,680
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書く―言葉・文字・書
まず文章の最小単位を、文字ではなく点画と定義したこと。
アルファベットとの比較が分かりやすい。
漢字一字はアルファベット一字と対応するのでなく、
その一点一画がabc..と対応する。
そして書とは筆触の芸術であるということ。
西洋画のように紙の上に表現された二次元の芸術ではなく、
筆跡の深さ・速さ・角度を伴う彫刻のように鑑賞すると合点がいくということ。
書くという行為は、人類の根源的な表現欲求の表れであり
筆触に込められた想いまで汲み取ることができれば
遠い昔に書かれた和歌の、その隠された真実が見えてくるかもしれない。
書く―言葉・文字・書 (中公新書 2020)/石川 九楊

¥777
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フラット革命
ほとんどの読者・視聴者はそれらの発信する情報を鵜呑みにするしかなかったし
そのプロセスもほとんど大衆の耳目にさらされることはなかった。
それが近年になってインターネット上で秀逸なテキストを発信する個人ブロガーが増え、
必ずしも新聞記事だけが論考を提供する媒体ではなくなってきている。
また取材のプロセスがネット上に暴露されることによって、
取材プロセスの暗部が明るみに出るケースも出現し始めた。
このことによって旧来型マスメディアは急速に求心力を失い、
逆に個人のブログがマスメディアと同等の価値・影響力を持ちえるようになってきた。
すなわちマスメディアも個人ブロガーも純粋のそのテキストの質で評価されるような
まさにフラットな時代になってきているというのが本書の骨子になっている。
この変化をフラット革命とし、
・フラット化とは一体何なのか
・なぜフラット化が起きているのか
・それはどのような組み換えを引き起こすのか
・フラット化が生みだす新たな難問とは何か
という4つの観点で論じられている。
この本が書かれたのが2007年であるから、現在で3年以上の月日が経っているわけだが、
フラット革命は着実に進んでいると感じられる。
その象徴と言えるのはやはりtwitterではなかろうか。
私は何人かの著名な人物をフォローしているが、彼らは自分をフォローしている無名の人からの質問に気軽に回答するし、リツイートもする。電子メールやブログでは取り払われなかった垣根が、いとも簡単に(いい意味で)壊れている。フラットどころの騒ぎではない。
電子掲示板はリアルな掲示板、ブログは日記のメタファーの進化系と言って良かったが、
ツイッターに関しては現実世界に置き換わるものが思いつかない。
それはtwitterが既成概念を打ち壊したコミュニティだからだと思う。
既成概念を打ち破れば、twitterともまったく異なる革命的な「場」が生まれる可能性がある。
フラット革命/佐々木 俊尚

¥1,680
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アップルジャック
文体とストーリーは残念だったが、お酒と横浜と格闘への愛が感じられる。
普通小説って登場人物の具体的なイラストは無い気がするけど
この手のライトノベル?はあえてキャラのイラストを前面に出すんですかね。
今風なアニメ絵で釣ろうという、商業的な戦略なんでしょうか。
- アップルジャック (幻狼ファンタジアノベルス)/小竹 清彦

- ¥945
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経済ってそういうことだったのか会議
経済、経済学とは何かという佐藤さんの鋭い疑問に、竹中さんが豊富や事例や例えを交えてとことん答えてくれている。
佐藤さんの本質を突いた質問や問題設定は見事だし、竹中さんはその知識の奥深さと引き出しの広さを伺わせて、贅沢な対談になっている。この内容が630円で読めるのはありがたい。
これを読んで感じたのは、竹中さんはハーバードに留学してるからか、アメリカ的な小さな政府・自由市場経済を信望してるんだなということ。
おそらくそれを小泉政権でやろうとして、それがどれくらい実践できたのかは分からないけど、派遣労働法の規制緩和が企業の派遣切りにつながって猛烈に批判されたのは大変悔しかったのではないか。
どうしても、竹中さんが派遣切りを予想できなかったとは思えないんだが、どうなんだろう。
ただこの本を読むと、竹中さんはわりと楽観的な考え方をする節があるので、案外性善説で規制緩和してみて、蓋を開けたら企業のモラルハザードに泣いたってことなのだろうか。
ご本人に聞けるものなら聞いてみたい。
経済ってそういうことだったのか会議 (日経ビジネス人文庫)/佐藤 雅彦

¥630
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毎月新聞
どの記事も「なるほど」「あ、そうか」「へー」と思わず唸ってしまうような、私たちをとりまく世界や私たち自身の心の不思議さを、様々な角度から分析・解説してくれます。
その確かな観察力と提示の仕方が見事すぎて、1つ1つがアート作品のようです。
しかも難しいことがとても平易に書いてあるので、疲れない。
「真夏の葬儀」と「隣の校庭」を読んだときは映像が鮮やかに思い浮かんで、短編映画を観たようでした。
毎月新聞 (中公文庫)/佐藤 雅彦

¥680
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あのときの王子くん
もとは星の王子様として知られたサン=テグジュペリの童話ですが、
これは青空文庫版として新しく翻訳された版で、タイトルもリニューアルされています。
大人になって読むとこたえます。不覚にも電車の中で泣きそうになってしまいました。
王子くんとキツネの会話。
キツネは王子くんになつけて欲しいと言います。
なつけるということは、絆を結ぶということ。王子くんはキツネにとってかけがえのない存在になります。王子くんの髪が金色だから、王子くんと会えなくても小麦畑を見たら王子くんを思い出すことができる。だから王子くんの星の花も特別で世界にひとつだけ、庭のバラとは違うって。キツネいいこと言うよなあ。
あと、訳者の解説も読み応えがあります。言葉遣いや題名に対する妥協の無いこだわりが切々と綴られていて、無償にもかかわらず並々ならぬ熱意を傾けて作られたものであることを感じました。
無料でこのような魂のこもった翻訳が読めるのは大変幸せなことだと思います。


