怨霊退散（８）

ゑ　笑み浮かべ天女の舞いや白雲は　水に映りて煌き放ち

ひ　雲雀鳴く空にぽっかり浮かぶ雲　妹（いも）の訪ねて来たるがごとく

も　もう二度と使うことなき技なれば　そっと沈めん水底深く

せ　堰を切り溢れる思い果てしなく　栄華の夢もまた水の底

す　涼やかな山の冷気の身に沁みて　我立ち尽くす夢のまた夢

怨霊退散（７）

あ　在りしこと妹（いも）に伝わばさめざめと　落とす涙の膝を濡らして

さ　彷徨いし怨霊ついに姿見せ　落日の夢語る切なさ

き　霧晴れて呪いの館今はなく　我も旅立つ決意を固め

ゆ　夢なるか妹（いも）は何処に消え去りし　すすき野原のただ風に揺れ

め　めらめらと燃える炎の焼き尽くす　野火を背にして我旅立ちぬ

み　身から出た錆びにありしかさにあらず　されど空しき胸を抱えて

し　清水湧く沢を上りて庵編む　世俗の声のただ疎ましく

怨霊退散（６）

け　剣が峰ここを先途と印結び　技の限りを尽くし闘い

ふ　封印し使うはならじと誓いたる　技にありせど今に賭けんと

こ　堪えても堪えきれずに溢れ出る　呻きの声が耳に纏わり

え　栄華とはかくも無残な結末を　招くものかと身も引き締まり

て　敵なれど憎みきれずに落涙し　呪（まじな）いの手をそっと休めて

怨霊退散（５）

の　乗り移り妹（いも）が心を掻き乱す　怨霊はたと見つけたるかな

お　落人の妹（いも）にかけたる逆恨み　見破りみればまた哀れなり

く　釘奪い地の底深く打ち込めば　慟哭の声纏わりつきて

や　やんごとのなき人なりや泣き声も　どこか気品の漂い聞こえ

ま　鞠をつく音に混じりて聞こゆるは　幼く絶えた命なりしか

怨霊退散（４）

な　為すままに身を委ね来るしおらしさ　ぜひに救わんこの愛し娘（ご）を

ら　来光を見るがごとくに手を合わせ　我に縋りし身は哀れなり

む　結びたる印に力を込めながら　起こりしことを確かめたきと

う　恨み買う覚えはなきと告げる娘の　いぶかる瞳じっと見据えて

ゐ　亥の刻を告げるや遠き鐘の音に　釘打つ姿像を結びて

怨霊退散（３）

よ　夜な夜なの呪いの釘が胸穿ち　血を吸い上げる悪夢続きて

た　誰一人信じうるものおらずして　疑いの目が日ごと募りて

れ　冷血がやがてその身に染み渡り　肌の色さえ紫となり

そ　卒爾とは思えど脱ぐか一肌を　呪われしわけ突き止めたきと

つ　告げたればうれし涙の溢れ出て　倒れ込みたる我が腕の中

ね　懇ろに思い通わす一時は　我を忘れる歓びとなり

怨霊退散（２）

ち　力込め鬼面の手首捕まえて　こは何事と不快を伝う

り　理非問えど返る答えは糠に釘　誰や居らぬと大音声を

ぬ　鵺（ぬえ）なるか負けてならじと結わえつけ　力を込めて鬼面を剥がし

る　瑠璃色の肌は妖しく血の気なく　霊気辺りに漂い流れ

を　怨霊や南無退散と十字切り　知れる限りの呪（まじな）い並べ

わ　僅かずつ頬に赤みの差すにつれ　つり上がる目も常に戻りて

か　微かだが呟き声に耳澄まし　呪われしわけ聞けば怖ろし

怨霊退散（１）

い　慇懃に上目遣いで迎えられ　渡る廊下は軋みを立てて

ろ　狼狽を見せてならじと取り澄まし　通された部屋畳破れて

は　半身にて主を待てど一向に　姿現す気配を見せず

に　西日射す部屋はじめじめ蒸し返り　流れる汗がこめかみ濡らし

ほ　ほっそりと開いた障子の向こうから　ひそひそ話聞こえる気配

へ　変だなと障子を開けた廊下には　鬼面かぶりし女人の姿

と　当惑し事の仔細を尋ねども　不気味な笑い返り来るのみ

はぐれ雲（８）

ゑ　絵文でも描いてみようかさらさらと　相合傘に名前を添えて

ひ　ひりひりと痛むほっぺたこすりつつ　ほんにあいつは気が短くて

も　もじもじと見つめる瞳気になって　声をかければ手を握られて

せ　世知辛い世の中だからせめてもと　気心のよさ忘ることなく

す　鮨食いねぇ気風の良さは自慢だよ　楽しくいこう誰も困らぬ

はぐれ雲（７）

あ　後先は辻褄うまく合わせれば　気にするまでもなしと心得

さ　猿だって反省すると愚痴られて　尻尾巻こうかトンズラしよか

き　着流しでふらつく河岸に春の風　揺れる柳の川面に映り

ゆ　夢模様織ってみようかぱたぱたと　気障な台詞にちょと照れながら

め　面目もないが避けたい面倒は　相談ごとはどこぞ余所でと

み　身の丈で楽に息してのんびりと　生きていこうと心を決めて

し　芝居小屋冷やかしながら覗き見る　かなわないかな役者にだけは