ストーリー短歌 -5ページ目

ベネチア行進曲(8)

ベネチア行進曲(8)



ゑ 笑み浮かべそっと手を取り恋人に 思い伝えてしばしの別れ


ひ 肘鉄を食った相手も知らぬ顔 もう面倒はこりごりだから


も 物凄い歓声の中軍艦は 凱旋をするベネチア万歳


せ 戦利品担ぎ夫は妻の元 急ぎ足する再会の時


す 筋金の入った妻はにっこりと 微笑み伝う待ち遠しいと

ベネチア行進曲(7)

ベネチア行進曲(7)


あ 安全な海の上だよこの町は 土地は狭いが力は強い


さ さあどうだ二十連発受けてみろ ミケランジェロのつくった銃だ


き 金銀を求めユダヤの商人も 目をつけて住む賑やかな町


ゆ 夢求め財宝求め戦いの 火の手は上がる歓声の中


め めざす敵倒し夫が戻る日は そう遠くないやれ忙しい


み 身奇麗になっておこうか合鍵は どこに隠そう心の準備


し しばらくは逢えないけれど忘れずに 待っててほしいわたしのことを

ベネチア行進曲(6)

ベネチア行進曲(6)


け 喧嘩して捨てた燕が纏いつく 用心棒は誰にしようか


ふ 振られたら消えてほしいの潔く ねちねちしてももう戻らない


こ 恋歌を聴かせてほしい抱き寄せて ゴンドラを漕ぐ太いその手で


え 悦に入りそっと手を取り導けば すぐに聞こえる艶めきの声


て 天使さまどうかわたしを見逃して 懺悔は後でゆっくりするわ

ベネチア行進曲(5)

ベネチア行進曲(5)


お 思い出すわが故郷よわが妻よ 痛くはないか貞操帯は


く 勲章をもらいにっこり髭撫でて 自慢話に花を咲かせて


や やり遂げた満足感に浸りつつ 思い出すのはベネチアの町


ま まだ少し時間かかるが帰る日を 待っててほしい首長くして

ベネチア行進曲(4)

ベネチア行進曲(4)


な 成金になって帰るぞ故郷へ 妻の笑顔が早く見たいな


ら 爛々と目を輝かせ品定め 漁り尽くすぞ金目のものは


む むずかしい話少しも分からぬが 骨董品だ高く売れるぞ


う 海を越え攻めて落とした敵の城 続く酒盛り酒池肉林だ


ゐ 居明かして続く宴会果てしなく 酔いつぶれる間にこそ泥の音


の 飲みすぎてしくじったけど仕方ない なにお宝はきっと見つける

ベネチア行進曲(3)

ベネチア行進曲(3)


よ 夜になり忍び込む影招き入れ 艶めきの声歌うがごとく


た 頼りないだけどハンサム振る腰に 色香漂うわたしの燕


れ 連綿と思い綴った便りより 胸を打つのは君の歌声


そ 傍に来てわたしを抱いてその胸に そして歌って愛の讃歌を


つ 摘まみ食いしても晴れない胸のうち 罪の意識が捨てられなくて


ね 熱風に我が身晒してみたいのに 生きる歓び感じたいのに

ベネチア行進曲(2)

ベネチア行進曲(2)


ち ちらちらと受ける視線が気にかかる いいのよ今宵お気の召すまま


り リベラルな気風漂う夢の町 建てた鐘楼天にも届き


ぬ 盗人は密告させて裁判だ 嘆きの橋を渡れば牢屋


る 留守宅がどうも気になる兵士たち 上さんきっと元気でいると


を 折に触れ書いた手紙に返事なし いやな予感に夢見も悪く


わ 我儘で気も短くて腹立つが だけど可愛い恋女房さ


か 勝ち鬨を挙げて攻め込む敵の城 戦利品だぞ奪い尽くすぞ

ベネチア行進曲(1)

ベネチア行進曲(1)


い 戦場(いくさば)と化した街捨て海の上 自由の旗を高くかざして


ろ ロマンの灯ともすがごとき色に焼く グラスきらめくベネチアの名で


は 針地獄思わすような帯つくり 妻の身につけ戦いの地へ


に にっこりと見送り妻は合鍵を 探し求める自由の天地


ほ 彫り刻み放つ光は宝石か 血の色をしたベネチアグラス


へ 辺境で残した妻が気にかかる 身持ちの固い女だけれど


と とっぷりと暮れた運河に水の音 アコーディオンの調べ切なく

伏魔殿(8)

伏魔殿(8)


ゑ 餌を求む獣のごとくらんらんと 眼光燃える闇の彼方に


ひ 膝頭わななくような隙間風 血糊の臭い鼻突くように


も もうもうと立ち込む煙壁厚く 鼻を塞ぎて出口を求め


せ 攻める術失い闇に呆然と 立ち尽くす背に雷(いかずち)光り


す 捨て身にてこの闇駈けてくぐり抜け たどり着きたし人住む里へ

伏魔殿(7)

伏魔殿(7)


あ 暗幕を張り巡らせた部屋の中 手探り歩む心地に耐えて


さ 賽の目を投げる心地で右左 獣道行く暗夜の山路


き 気味悪い叫びを耳に伺えば 白衣の揺れて風はざわめき


ゆ 夢なるか現(うつつ)なるかも曖昧な 漆黒の闇手探り歩む


め めらめらと燃える炎が風を呼び 地獄の熱はひたひたと寄せ


み 身じろぎもできず震える膝頭 床はぎしぎし軋みを立てて


し しがらみに腕をくくられ身動きも できぬ体で闇を彷徨い