【今回の記事】

【記事の概要】
  “怒り”をコントロールする心理トレーニング「アンガ―マネジメント」が今、注目を集めています。

   例えば、子どもを注意しているときに感じてしまう「何度言ってもわかってもらえない」、「もしかしてバカにしているのかも?」…。こうした小さなイライラが、次第に“大きな怒り”へと変わってしまった経験はありませんか?

   今回の相談者、あやさんもそんなひとり。「もうこれ以上、イライラしたくないんです」と悩みを語ってくれました。あやさんにアドバイスしてくれたのは、アンガ―マネジメントの専門家・長縄史子さんです。

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注意したことを子どもが直してくれない!イライラを止める方法は?

   子育て中に、子どもに対して注意することは避けてはとおれません。怒らず冷静に注意する方法はあるのでしょうか。

<相談者>

東京都在住、あやさん(39歳)

<相談内容>

   この春、小学6年生になる息子の汚すぎ 何度も注意しても直しません。毎回、私が怒ると神妙な顔で聞いているのですが、3日もすると元の汚い字を書いているのを発見してしまいます。先日の塾のテストでは、字が汚すぎて答えはあっているのに不正解になっており、ついに怒りが爆発!テスト用紙を破ってしましました…

「書こうと思えば読める字を書けるのに、なぜ適当に書くのか?」「先生はどんな字でも読んでくれると思っているなんて甘すぎる!」「自分から受験をしたいと言って、塾に通っているのにやる気がないの!?」…。考えれば考えるほどイライラが止まりません。
   怒ると疲れるし、もうこれ以上イライラしたくないんです。イライラしなくなる方法はあるのでしょうか? そして、息子に私の思いがちゃんと伝わって、汚い字がを書かなくなる日はくるのでしょうか?

怒りの正体は“~べき”への固執。「まあ許せる」の範囲を意識して

   怒りの正体と線引きについて、長縄さんが答えてくれました。

<回答者>

   日本アンガーマネジメント協会 理事の長縄史子さん

<回答内容>

   注意をしてもなかなか伝わらない。何度も言っているのに! と怒りが爆発、その後、押し寄せる疲労感…。怒りの感情って、体力を消耗するんですよね。とってもよくわかります。

   まず前提として、怒りというものはなくならないものです。そもそも、怒ることは悪いことではありません。怒ってもいいのです。ただし、怒る必要が有ることと、無いことの線引きができるようになると、ムダなイライラを減らすことができますよ。

●そもそも怒りの正体って?

「相手が自分を怒らせた」「正しくないことだから怒った」と認識しがちな怒りの感情。こうした怒りの正体は「~べき」という価値観なのです。これは、自分の希望願望欲求です。

字はきれいに書くべき」「汚い字を書くべきではない」「自分で受験するといったのだからやる気を出すべき」。…このように信じてやまない“べき”が目の前で裏切られると怒りの感情に。あやさんにはどんな“べき”がありそうですか?書き出してみると、怒りの正体が見えてきます。

●「まあ許せる」の範囲を意識して
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   上の図は、べきと「許せる」「許せない」の関係性を示したもの。中心の青い部分は、自分のべきと同じ「許せる」。黄色部分は、自分のべきと少し違うが「まあ許せる」。赤い部分は自分のべきから外れた「許せない」を示しています。

   怒る必要があるのは、赤い部分の「許せない」ときだけ。「何度も注意しているのにわかってくれない」と悩んでいる人は、怒る必要がないのに黄色の「まあ許せる」のときにも怒っているか、許せる範囲が狭い可能性が。「許せる」「許せない」の二者択一ではなく、「まあ許せる範囲」を意識できるようになると、あやさんのイライラは確実に減りますよ。

●より正確に伝えてみる

   実は「きれいな字」といっても字の大きさや形、まっすぐか否かなど「きれい」の基準は人それぞれ。どんな字が100%許せる字で、「まあ許せる字」はどのような字か?「許せない」字はどんな字か?子どものノートや答案を見てそれぞれを明確に示してみると改善しやすくなります。こうすることで、改善しやすくなります。ただし、基準が機嫌や気分でコロコロ変わるのはNG。子どもと共有することが大切です。

   ちょっと考え方を変えるだけで、イライラがぐんと減ったり、相手に伝わりやすくなったり。アンガ―マネジメントを取り入れて、笑顔が増えることを願っています。


【感想】

   今回の記事のテーマである「アンガ―マネジメント」については、以前に以下の記事でも取り上げていました。

怒ってばかりいる私は毒親?“怒り”との付き合い方とは? 〜「アンガーマネジメント」でのりきる〜

この時は、「カチンときてアドレナリンが分泌されても、6秒後にはそのピークは過ぎる」という専門家の指摘から、「深呼吸等をして6秒間さえ我慢すれば怒りはおさまるはずだ」という“見通し”によって乗り切る、という内容を紹介しました。今回は、また別の事例を基に考えてみたいと思います。


   まず、確認したい事があります。記事には怒る必要があるのは、赤い部分の『許せない』ときだけ」とあります。しかし、私は「怒る」ではなく「叱る」と考える方がいいと思います。なぜなら、以前もお話ししましたが、大人が感情的になって怒った時の“恐怖”は、「安全基地」としての機能を低下させるからです。「安全基地」が無くなってしまうと、様々な面で子供の人格に悪影響を及ぼします

   ただし、本気で怒らなければならない時もあると思います。それは、自分や他人の心身の健康を粗末にした時や法律に反する行為をした時です。ただし、この大人が本気で怒るケースについては、先にお話しした通り子供に与えるダメージが大きいので、特に子供に予告しておく必要があります。


   さて、記事にある通り、「怒る必要が有ることと無いことの線引き」、つまり“基準”作りは大切だと思います。そうでないと、親の感情に任せた叱責が行われ、子供にとっては予想不可能な恐怖に襲われるからです。そのような養育をしていると「混乱型」の子供が育つ場合が多くなります。

   今回の記事では「『まあ許せる字』はどのような字か?『許せない』字はどんな字か?それぞれを明確に示してみる」と指摘されています。しかし、現実的にはこの“線引き”という作業はかなり難しいと思われます。文字一つ一つに基準を作ることは難しいですし、例えば「『曲げ・はね・止め』ができていなかったら叱る」という“線引き”にすると、注意力の無い子供にとってはそこまで気を配るのには無理が生じる場合もありそうです。

   このように、その親の主観”、つまり上記図の「べき」の円の大きさが、必ずしも子供の実態に合っているとは限りません。場合によっては、子供が褒められる事よりも叱られる事の方が多くなる場合も十分考えられるのです。しかし、この“叱る量”や“叱る順番”を間違えると、子供との「愛着(愛の絆)」が弱くなり、子供の心が親から離れていってしまいます。


   また、「アンガ―マネジメント」という観点から考えれば、子供に対して“怒り”を感じる場面は生活の中に他にも様々あるはずです。文字だけならまだしも、それらの場面一つ一つについて個別に線引きをすることは無理だと思います。

   

   私は以前に次のような記事を投稿しています。

子どもが「愛着障害(愛着不全)」にならないためには、どんな叱り方が良いのか?

この中では、次のような事をお話ししています。

「例えば私でしたら、次のようにしています。
同じ失敗を3回繰り返した時に厳しく叱る子供は失敗する生き物なので2回までの“猶予”をつくる)。
その基準を子どもに予告しておく(「二度あることは三度ある」という諺もあることも教え正当性を納得させる)」
こうしておくと、1回目の失敗の時に、どこをどう直せばいいか、つまりダメである基準”がそのケースに応じて具体的に分かるので、子供はそれ以後どこに気を付けて取り組めばいいかがはっきり分かります。それが分かれば、子供は「叱られたくない」という気持ちから、必ず直します。
   今回の事例の場合は、親は往々にして、“形の取れた丁寧な字”を求めがちですが、現実的には、かなりの悪筆でも立派に仕事に就いている大人は山ほどいます。要は「読み手に正しく伝わるか?伝わらないか?」という事が大切なのだと思います。“親の完璧主義”は子供の負担になる事が多いのです。

   ですから、私の場合でしたら、子供には「読む人が正しく読める字を書きなさい」と事前に言っておき、読めない字があった時には、「この字は『く』か『し』か、読んでる人には分からないよ」と教えます(「叱ります」ではありません)。すると子供はどの字をどう直せばいいかが具体的に分かるので、“3回”になる前に必ず直します。すると、親が子供を叱る頻度は必ず減り、親の“怒り”も緩和されます。


   親にとっては、子供が何らかの失敗をした時でも、「あと2回失敗した時に叱ればいい」という指導の“見通し”が立ちますし、子供の方も、一度失敗しても、まだ進む道(猶予)が残されていれば、叱られない為に必死にその道を進み、自分の足りない面を直します。すると、親が子供を叱る場面は激減し、同時に親の“怒り”の頻度も減っていきます
   反対に、子供が何かの失敗をするたびに親が叱っていては、当然親のストレスは見る見る膨らんでいきますし、子供も意欲を失うとともに、逃げ場を失って、嘘をつくか失敗を隠すようになります。すると、益々親の“怒り”は増すという悪循環が生じます。


   そもそも「怒り」や「焦り」という感情は、自分にとって“想定外”の事を子供がした時に沸き起こるものです。つまり、「子供というものは、まだまだ未熟であり、失敗して当たり前の生き物なのだ」と“想定”していれば、仮に子供が何かの失敗をしても「やっぱり失敗したか…」と“想定内”の事態として捉えることができ、“怒り”は起こりません。更に、「同じ失敗をあと2回繰り返したら叱ればいい。しかし子供は叱られたくないから2回のうちに必ず直すはずだという“見通し”が立っていれば、焦りも怒りも起きません。


   つまり「怒りのコントロール」において大切なことは、

「深呼吸等をして6秒間さえ我慢すれば怒りはおさまるはずだ

「子供は失敗するものだ。失敗しても同じ失敗をあと2回繰り返した時に叱ればいい。しかし子供は叱られたくないから2回のうちに必ず直すはずだ

という“見通し”が立つかどうか、と言えると思います。見通しが立っていれば、事態は“想定内”でおさまる場合が殆どです。

   特に、子供に関わることで言えば、「本来子供は失敗する生き物だ」という子供の「ありのままの姿」を受け止める親の姿勢が、子供の緊張を解き、より良い自分に向かって直そうという気持ちを生じさせると思います。そうすることで、親の“怒り”も緩和するに違いありません。

   失敗せずにいつも親の期待通りにできる子供は、子供の“偽りの姿”です。その姿を演じ続けているといつか「いい子症候群」に陥ります。失敗もする自分の“ありのままの姿”を大人に受け止めてもらえる子供こそが、真に子供らしく健やかに育っていく事が出来るのです。