【今回の記事】

【記事の概要】
   80代の親と50代の子どもが身を寄せる世帯が社会から孤立してしまう「8050(はちまるごーまる)問題」―。全国で表面化する中、札幌市内のアパートの一室でも1月、2人暮らしの母親(82)と娘(52)とみられる遺体が見つかった。は長年引きこもり状態だったという。道警は母親が先に亡くなり、一人になった娘は誰にも気付かれずに衰弱死したとみている。専門家は「支援策を整えなければ同様の孤立死が増え続ける」と訴える。
 近所の住民によると、母親は夫と死別後の1990年ごろに娘とアパートに入居した。当時、収入は年金だけで生活保護や福祉サービスは受けていなかった。娘は高校卒業後、就職したものの、人間関係に悩んで退職し、引きこもり状態になったという。
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【感想】
   全国で急増する「8050問題」。現在では、引きこもり70万人、予備軍155万人と言われます。
   基本的に親は子供よりも先に死にます。親がいなくなった後に、子供が社会に出れない状態にあれば、今回の事例のような事態に陥ることも十分考えられます。

   今回の記事での娘さんは高校卒業後、就職したものの、人間関係に悩んで退職し、引きこもり状態になったということです。この問題の原因が、この娘さんの人間関係能力の不備(個人的因子)にあったのか、職場の同僚による嫌がらせ等(環境的因子)にあったのかは分かりません。しかし一般的には、“人間関係能力”の発達に最も影響を与えるのは、母子の「愛着(愛の絆)」です。そのことは、以下の記事で精神科医の岡田氏の考えを分かりやすくお話ししています。
つまり、乳児期(特に1歳半まで)に母親との間に「愛着(愛の絆)」を形成できなかった子供は、成人後も人間関係能力が低くなるのです。
中でも、母親からあまり世話をしてもらえなかった子供は、成人後に対人関係を避ける「回避型の人格を持った大人なるリスクを。また、親から過干渉を受けて出来なかった時に過度に厳しく叱られた子供は、他人の評価ばかりを気にする「不安型」の人格を持った大人になるリスクをそれぞれ負います。いずれも、母親を「安全基地」と認識できない為に陥る人格で、望ましい人間関係を阻害する要因です。
   これらのことから、一般論として、乳児期(特に1歳半まで)に母親との間に「愛着(愛の絆)」を形成できるかどうかが、成人後の職場集団に馴染めるか馴染めないかに大きく関わってくると言えるのです。すなわち、将来どのような職場環境に置かれるかは分かりませんが、“個人的因子”としては、特に1歳半までに母親が子供の側にいて、「安心7支援」のような愛情行為で接している事で、将来の社会集団生活に有利に働く可能性が高くなることは間違いないのです。

   また、引きこもりは別のケースによっても生まれます。私は以前、次のような記事を投稿していました。これこそが、「8050問題」、つまり“大人の引きこもり”を生んだ最大の要因です。
この中で私は、ノンフィクション・ライターの黒川氏の情報と、愛着研究の第一人者である岡田氏の指摘を基に、次のように結論づけています(以下の結論に至る過程は上記記事参照)。
「高度経済成長(1954年から1973年)当時、子供に社会のルールを教え、社会へのデビューをさせるべき父親が仕事で家を不在にし、逆に子供を受容する本能を持った母親に子育てを全て任せてしまったことが、子どもを部屋にひきこもらせてしまう結果を招いたと言えそうです。」
   ではなぜ、母親による養育で引きこもりが生まれたのでしょう?精神科医の岡田氏は、「父親が仕事で子育てにあまり関われないという状況になった時に、母親によって行われがちな『何やってるの!』『ちゃんとしなさい!』『早くしなさい!』等の子供に対する否定的支配的な養育態度によって、子供が母親への怒りを溜め込み、母親との『愛着』不全に陥る」ということを指摘しています。その子供達が中学生くらいになり、体も大人とあまり変わらないくらいに成長すると、それまで叱られ続けてきたことに対する怒りを、今度は逆に親に向かってぶつけるようになり、「うるせえ!学校なんか行かねえ!」と、面倒くさい学校への登校までを拒否するようになるケースが多く見られます。そうなった時点では、もう親の手には負えない状況になっているのです。
   つまり母親は、厳しく叱れば自分の言う通りに行動していた小学生だった頃の我が子に“油断”し過ぎていたのです。母親の知らないうちに、自身の否定的、支配的な養育によって子供の怒りが溜まっていっていることに気づくこともなく…。しかし、その怒りが引きこもりという行動に表われているうちは、まだ“まし”なのかもしれません。場合によっては、親への殺意を芽生えさせるケースさえあるのです。
   この否定的、支配的な養育がもたらす問題も、結局は、子供が母親を「安全基地」と認識できず、不満や怒りを癒す場を失ったために起きる問題です。子供にとって、「安全基地」としての母親が持つ“子供を受容する機能どれ程大切かが分かります。
   更に、この“子供に対する否定的支配的な養育”は、精神科医の岡田氏が「どこの家庭でも行われている」と危惧するもの。それだけに8050問題」はどの家庭で起こってもおかしくない問題なのです。
   しかし、だからと言って、小学校時代から、いつも子供の言動に迎合し甘やかす必要は全くありません。「注意」と「受容(共感)」の“量”と“順番”に気をつけてさえいれば、先の「安心7支援」の愛情行為で接することで、毅然とした態度で子供を叱ることもできるのです。