【今回の記事】

【記事の概要】
ニート」や「ひきこもり」と聞いて、若者を思い浮かべる時代は過ぎ去った。今やそれらの半分40歳オーバー。その現象は、今後、家庭だけではなく、地域社会、そして国をも蝕んでいくという。ノンフィクション・ライター、黒川祥子さんによる現場レポート。

   高度経済成長期にあった昭和40年代、山を切り開いて造成された、首都圏近郊の高級住宅地。瀟洒な一戸建てが規則正しく並ぶ街並みに、異様な雰囲気を放つ一角があった。目に飛び込んでくるのは、鬱蒼(うっそう)と茂った黒い塊のような樹木だ。手入れされていない枝が野放図に広がり、家の前の道を飲み込むばかりに垂れ下がって、人も車も迂回しないと通れない。門から玄関に至るアプローチには、家から吐き出されたゴミが幾重にも分厚く積み重なり、今にも道路にせり出さんばかりだ。外から計り知れない家の中には、手がつけられないほどゴミが堆積していると、数年前に訪問した民生委員は言う。
 地域住民が近付くことすら避けるこの家には
50歳無職の兄と、この4月まで県職員だった47歳の弟が暮らしている。兄は30年近くひきこもり弟は軒下で暮らし、駅のトイレで身体を洗って、着替えをして出勤するという生活を送っていたが、勤務先でトラブルが絶えず解雇となった。
 2人は食料買い出しの時にだけ、外に出る。兄は髪が長く、その髪も洗髪していないため固まった状態で、悪臭を放ち、生気がない様子で歩いている弟は兄と対照的に住民に罵声を浴びせ、ビニール傘の先端で突こうとするなど攻撃的な行動を繰り返し、トラブルの元凶となっている。2人だけの生活がいつから始まったのかは定かではないが、近隣住民の話を総合すると、30年ほど前と推察される。
 住人は語る。「お父さんが生きている間は、まだ普通の家だった。お父さんが亡くなって、お母さんが2人を置いて出て行ってからだね、こんなゴミ屋敷になったのは」
 かつてその家では、大手企業のサラリーマンである父と専業主婦の母、子ども2人という、典型的な“良き家庭”が営まれていた。一億総中流の時代に、より上の裕福な家庭として、マイホームを建て希望に満ちた暮らしを始めた家族がなぜ、このような場所に行き着いてしまったのだろう。
   ところで、40歳以上のひきこもりは実際、どれ位いるのだろう。山形県のひきこもり調査(13年)を元に推計すると、40歳以上のひきこもりは、全国に70万人近くも潜在していることがうかがえる。
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 長くひきこもりの支援を続けている、神奈川県逗子市のNPO法人「遊悠楽舎(ゆうゆうがくしゃ)」代表、明石紀久男氏は日本各地の支援施設を視察して確信したことがある。
ひきこもりの中高年齢化はもはや、全国どこにでも見られる現象です。都市とか地方とか関係なく、日本全国にそういう親子がいる」
 私自身、デビュー作『「ひきこもり」たちの夜が明けるとき』(03年)執筆時から、家族の問題としてこのテーマに関心を抱いてきた。当時の取材で、支援対象が、10代の不登校児を中心としたひきこもりから、そこから更に10年ひきこもっていた20代後半の
ひきこもりへとシフトする「潮目」をまざまざと見たものだ。
 あれから20年、あの頃ひきこもりだった若者達が、今や40代、50代に達している。彼らの親は、主に高度経済成長期にサラリーマンとして過ごし、給与は右肩上がり経済的に裕福でひきこもりの子を抱え込むことができていた。しかし親が高齢となって、自身の病気や経済問題で立ち行かなくなり、外へSOSを発することで、中高年ひきこもりの存在がようやく、明るみに出ることとなったのだ。

【感想】
   なぜ40歳以上のひきこもりがこんなに存在するようになったのでしょうか?
   今回は、ノンフィクション・ライターの黒川氏の情報と、愛着研究の第一人者である岡田氏の指摘を基に、敢えてその背景について考えてみたいと思います。なぜなら、その要因を明らかにしなければ、この現象は今後も続く可能性が高いと思われるからです。正に「温故知新(昔の問題点を調べ、今後の生活に活かす)」と言えるでしょう。

   さて、黒川氏の指摘によれば、親が高度経済成長期にサラリーマンとして過ごし、給与も右肩上がりだった裕福な家庭は、既に10代のひきこもりの子供達を抱え込んでいたのです。
   父親は外に出て企業戦士として仕事に没頭し、子育てに関しては専業主婦である母親に全てを任せていたと言う生活スタイルは、この家庭に限らず、当時はどの家庭にも見られていたものです。
   子育てを任せられた当時の母親達は、子供たちに対して否定的・支配的な養育を施していた、と精神科医の岡田氏は指摘しています。そんな養育を受けた子供たちは当然母親に対して反抗的な態度をとるようになります。本来ならばそうなる前に、子供に“人間社会のルールを教える”働きを持つ「父性」の持ち主である父親の出番であったはずですが、当時の父親たちは子育てに口を出す時間もなければ、そんな考えさえありませんでした。その結果、特に思春期の反抗期の態度に苦しんだ母親は、本能的に持っている“子供の受容”と言う「母性」が邪魔をして、子供達に対してそれ以上の要求をする事が出来なくなるのです。その結果子供は登校を拒否し部屋に閉じこもるようになります。そこまで問題が大きくなった時にようやく父親が登場したとしても、厳格で威圧的な接し方しか出来なかった当時の父親の養育態度に対して、子供は益々反発して部屋のドアを更に頑なに閉める事になるのです。

   つまり、高度経済成長当時、子供に社会のルールを教え“社会へのデビュー”をさせるべき父親が仕事で家を不在にし、逆に子供を受容する本能を持った母親に子育てを全て任せてしまったことが、子どもを部屋にひきこもらせてしまう結果を招いたと言えそうです。

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   今回の考察によって、子供をひきこもりにしない為には、「父性」と「母性」のそれぞれの役割の違いを理解して、それぞれが子供の養育に当たる事が必要だという事が推測されました。

   しかし昨今、“一人親家庭”が多く存在する中では、普通に生活していれば、父子家庭では父親は無意識のうちに社会のルールを教える「父性」の働きを色濃く子供の養育に反映させるでしょうし、母子家庭では反対に母親がやはり無意識のうちに子供を受容する「母性」の働きを色濃く養育に反映させるでしょう。ちなみに、平成二十二年の犯罪統計から、少年犯罪のピークである十五歳で見ると、母親のみで育てる場合、父親のみで育てる場合に比べ、非行のリスク五倍程度に増加すると言う結果が得られたそうですが、この背景にも、「父性」と「母性」それぞれが持つ働きの違いがあると言えそうです。
   それだけに、“一人親家庭”が多いという現実を考えれば、自分が本能的に持っている“性”の働きと、自分が本来持っていない“性”の働きとをバランスよく機能させるという“努力”が求められます。とても難しい作業だとは思いますが、我が子をひきこもりにしない為には、何としても乗り越えなければならないハードルだと言えるでしょう。

   因みに、既にお子さんが引きこもりの状態になっているご家庭の場合には、子供が今の状態から立ち直るために、ご家族に配慮して頂きたいことがあります。その事については以下の投稿記事をご参照ください。