(この「愛着の話」は精神科医の岡田尊司氏を中心に、各専門家の文献を、内容はそのままに、私が読みやすい文章に書き換えたものです)

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前回からの続きです)
 更に「父性」の特徴として、子どもにとっての「ブレーキ役」があります。これもある研究によって導き出されたことですが、父親が、子どもがやりたいことは早くから認めてもいいと考える家庭と、あまり早く認めないほうがよいと考える家庭とで比べると、後者の父親の子どもの方が、その後、成績もよく、よく努力する傾向が見られ、非行に走るリスクも少なかったそうです。その一方で、母親がどう考えているかは、あまり関係なかったそうです。また、「子どもの心のコーチング」の著者である菅原裕子氏も、自分がやるべき責任を教える等のいわゆる「しつけ」を子どもに身に着けさせるのは父親の役目であるという趣旨のことを述べています。(菅原2007)このことから、父親が子どもに世の中の常識や厳しさを教えるという役割が、母親と比べていかに重要かが分かります。これが父性の3つめの役割です。
 岡田氏は、父親が不在である場合、子どもが非行に走るリスクが増加すると指摘しています(岡田2015)。それを裏付けるように、平成22年の犯罪統計から、少年犯罪のピークである15歳での犯罪率を見ると、母子家庭の場合、父親と母親が揃っている家庭と比べると約5倍高いという調査結果が残されているそうです。つまり、母親の存在は重要ですが、母親だけでは子どもの成長に困難を抱えやすいのです。父親を失ったり、父親不在の状況で育ったりした青年では、うつや自殺、薬物やアルコール依存、十代の妊娠、家出、学業からのドロップアウト、心身症、精神障害などのリスクが上がることも分かっています。また菅原氏は、「母親子どもを自分の体の一部として認識しているため、子どもが不快な思いをしているのを冷静に見守ることができない。その分父親が、自分と子どもを別の存在と捉え、子どものすべきこと責任をきちんと教えなければならない。」という旨を述べています。(菅原2007
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ちなみに、先の遠藤氏らによると、祖母の場合は、母親ほどではないが、乳児の探索行動や遊びの際の安全基地として十分に機能する、と指摘されています。(遠藤ら2005祖母は、どちらかというと、母親よりの存在なのです。やはり、父親の代わりにはなれません。
   子どもに安全基地を提供するのは母親の仕事ですが、その後、子どもを①外界へと導くことで母子分離を達成し、子どもと②遊んだり、③世の中のルールや常識について正しい方向に導いたりするのは父親の仕事なのです。
   人間とは生物学的に「母性」「父性」の両者がそれぞれの役割果たし合って、初めて適切な子育てができるように作られている生き物のです。そういう意味で、離婚によって、家事はもちろんのこと、子どもの養育からしつけまで母親がすべてこなすのは大変な作業であり、どこかに無理が生じるでしょう。そのためにも、先に「子どもの前での夫婦間の不仲」で述べたように、子どもの前で母親が父親の悪口を言うと、子どもは父親に対する威厳感じなくなるので、子どものしつけ上、大変思わしくありません。もちろん、その逆も然りです。