さて、愛着が子どもに育む最も大切なものは何でしょうか。それは、将来にわたって人間社会の中で生きていく能力、いわば社会適応能力、それが俗にいう「社会性」と捉えることができます。愛着は、更にその中でも最も大切な「人間関係能力」を育みます。愛着を形成するということは、「自分が危機に陥った時に救ってくれる人がいる」という他者への信頼感を子どもが獲得するということです。この「他者を信頼できる気持ち」、それこそが人間関係能力の根幹をなすものです。ほったらかしにされたり虐待を受けたりした子どもがどうして、人を信頼できる大人になることができるでしょうか。
   この人間関係能力が育まれないと、どんなことになるか具体的に考えてみましょう。
   恨みや怨恨による殺傷事件はもちろんのこと、登校拒否や家庭内暴力も、それぞれ、学校の友達や担任の先生、そして家族との人間関係がうまくいかないために生まれる現象です。昨今は、単なる家庭内暴力にとどまらず、家族内で殺人事件が起きるという、昔では考えられない事態が幾れいもおきています。家族内の人間関係が想像以上に問題をはらんでいる現れです。
  また、思春期は、最も人間関係が不安定になる時期です。友達の言動が気に入らず、いじめの加害者になったり、逆に、他者の反応を気にしすぎて人間関係に不安を抱えながら生活していると、他者にははっきりと「いや」という意思表示ができず、いじめの被害者になったりすることもあります。また、友人関係や家族内の人間関係がうまくいかず、その寂しさを埋めるために毎日スマホにおぼれ、時にはネットを通じて全く知らないあかの他人との繋がりで対人的な寂しさを紛らわし、その結果、事件に巻き込まれる場合もあります。
(次回へ続く)