【今回の記事】

【記事の概要】
(ある母親の手記)
   私の仕事復帰のため、長女は生後10ヶ月から保育園へ入園しました。育児休暇の制度があるので最長1歳6ヵ月になるまでは仕事を休むことも出来たのですが、繁忙期に入り会社から相談を受けたことと、私自身も復帰したいという気持ちが強かったのでそう決断しました。
   主人とはしっかり相談をし、2人で決断しました。主人は私の仕事がしたいという気持ちを応援すると言ってくれたのですが、主人のお義母さんから「こんなに小さい子どもを保育園に入園させるなんてかわいそうだ」と言われて反対されてしまいました。
   もう、その時には入園が決まっていたので、お義母さんには保育園へ入れることを納得していただくしかありませんでした。(その後)娘は保育園へ入園し、私は時短勤務で仕事に復帰しました。
   娘は人見知りがはじまった時期でもあり、保育園へ送っていくと泣いていやがります。その度お義母さんの言葉を思い出し、私が間違っているのかもしれない娘にかわいそうなことをしているのかもしれないと悩みました。
   もしかしたら、お義母さんに言われたことだけでなく、私自身の気持ちの中にも私の都合で子供に寂しい思いをさせていると感じていたのかもしれません。
   そんな私の気持ちに気がつき、話を聞いてくださり、支えてくださったのは娘の面倒を見てくれている乳児クラスの保育士さんでした。保育園へ送っていくと激しく泣く娘は、私との間に絆が出来ているからこそ離れるのが嫌で泣いてしまうということで、保育園が嫌なわけではないと説明してくださいました。また、乳児期から保育園へ入ることで、早く集団生活に慣れることができるなどプラス面があることなどもお話してくださいました。
   3ヶ月もすると、保育士さんと娘の間にも絆が出来たようで、激しく泣くこともなくなり、登園できるようになりました。そんな娘も今は年長になり、楽しく保育園へ通っています。
    乳児期に子どもと少しでも長い時間を一緒に過ごしてあげることは素敵な事ですが、保育園で過ごすことも、子どもにとっていい経験になったのではないかなと思いました。

【感想】
「生後10ヶ月」と言うと、臨界期(終了時期)が1歳半と言われている愛着形成さえ十分にできていない時期です。本来であれば、愛着形成によって母子の間に「愛着(愛の絆)」ができた後にようやく目の前にするハードルが、2、3歳の頃に迎える「母子分離」です。1歳半迄に母との「愛着(愛の絆)」が十分出来ていても、「母子分離」には子どもは不安を覚えるのですが、その「愛着(愛の絆)」さえ出来ていない段階に早くも母親と引き離されることになると、その時に子供が受けるストレスは想像を絶するものがあると思います。しかも8〜10ヶ月頃に見られる“人見知りは、まだ信頼できない人には近づかないほうが安全」という子どもの自己防衛(泣く事で自分の拒否意識を分かってもらう)能力の現れなのですが、その自己防衛行為さえ許されず、まだ信頼できない保育士強引に引き渡されるのですから、ある意味残酷な仕打ちと言えるかも知れません。

   この「愛着」を形成すべき時期に、子どもは何か困ったことがある時には泣いて母親を呼びます。その時に母親が駆けつけて問題を解決してやる経験を繰り返すことで「愛着」が形成されるのです。
   しかし、なかなかお母さんが来てくれないと、そのことに対する不安や怒りをぶちまける「抵抗」の段階に入ります。一般的には、保育園への送りの時に子供が泣き叫んで“母親の後追い”をするのは、「愛着形成」の次の段階の「母子分離」に対する不安感の為に泣く事が多いと思うのですが、記事中の生後10ヶ月という愛着形成真っ只中の時期に泣いていたのは、自分をおいて仕事に行こうとする母親に対して不安や怒りをぶちまける「抵抗」の症状であったと考えられます。
   それでもお母さんが来てくれないと、自分がお母さんから見捨てられたと思い、打ちひしがれる「絶望」の段階に移ります。
   更に時間が経つにつれ、お母さんを求める気持ちはほとんど無くなっていき、お母さんの姿が心から消えていく「脱愛着」に陥ります(詳細は「愛着の話 No.10 〜親から適切な養育を受けなかった赤ん坊の悲劇〜 ①」参照)。

   しかし、現実には、朝に母親から引き離された後は、保育士さんたちが自分のピンチを救ってくれます。その事によって、子どもの「抵抗」の症状は和らぐでしょう。しかし、「愛着」は“生みの親”ではなく、最も多く子育てに関わった“育ての親”に対して形成されるので、複数のスタッフが入れ替わり立ち替わり世話をする保育園の環境では、誰か特定の保育士に対して「愛着」を形成するという事は起こりにくいと考えられます。しかも母親は、自分を置いて仕事に行ってしまう。という事は、自分を最も世話してくれ、愛着を形成する対象としての「特定の人」の存在が得られにくくなります。

   しかし私は決して保育園への通園を否定しているものではありません。先日も、「通園に対して迷いを持たず、“”ではなく“”で育児効果を高めるべき」という旨の投稿をしました(「赤ちゃんを保育園に預ける親が知っておくべきこと 〜保育園のデメリットとその克服の仕方〜」参照)。限られた時間の中でも、質の高い養育をしよう」、そういう母親の努力があって初めて赤ちゃんは自分の母親に対して愛着を形成していくのです。記事中のお母さんも「娘にかわいそうなことをしているのかもしれない」等と悩みながら、より良い育児を努力なさったからこそ、年長になった娘さんは楽しく保育園へ通うことが出来ているのだと思います。
   しかし、逆に家での母親の努力が無ければ、保育園でも家でも「特定の人」は存在せず、誰に対しても「愛着」を形成しない「回避型」の愛着パターンを持つ子どもに育つでしょう。記事中の乳児クラスの保育士さんは乳児期から保育園へ入ることで、早く集団生活に慣れることができる」とアドバイスしてくださいましたが、残念ながら愛着を形成する前の乳児期の子供はそんなに強い存在ではありません。「集団生活に慣れる」以前に、“愛着不全(障害)”に陥り、「回避型」の反社会的な言動を見せるようになる危険があります。

   また、記事中のお母さんは、最長1歳6ヵ月になるまでは仕事を休む事ができる育児休暇の制度があるにも関わらず、生後10ヶ月から保育園への入園を決めました。その判断材料は次の2つでした。
・繁忙期に入り会社から相談を受けたこと
・母親自身も早く復帰したいという気持ちが強かった
この中に“子どものため”と言う判断材料はありません。つまり、“会社の都合”と“母親の希望”という大人の事情によって、子どもは「愛着」を形成しにくい環境に追いやられたのです。
   しかし、このお母さんに非はありません。何故なら、精神科医の岡田氏も危惧しているように、これまで紹介したような愛着形成に関する情報が現時点で世の中に知れ渡っていないからです。そのことが一番の弊害なのです。その弊害を克服する為に、岡田氏は愛着に関する様々な書籍を出版しています。また私も微力ではありますが、その岡田氏の考えを1人でも多くの方に知っていただく為にこのブログを開設しています。
乳児期に子供の中で何が起きているのか?」「子供は何の課題をいつ頃までに達成出来ればいいのか?」等についての情報を大人が手にする事が出来れば、「いつまで育児休暇を取ればいいか?」等の答えが見えてくるはずです。

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   なお、「愛着形成」「母親という『安全基地』」「特定の人」「母子分離」等の詳細については、テーマ別記事の中の「愛着の話」の「No.12」までの中で詳しく紹介しています。なお、この「愛着の話」は、特に岡田氏の書籍で述べられている事をできるだけ原本に忠実に且つ分かりやすく綴ったものです。ご参照頂ければ幸いです。