(この「愛着の話」は精神科医の岡田尊司氏を中心に、各専門家の文献を、内容はそのままに、私が読みやすい文章に書き換えたものです)
(前回の続き)
以下に、愛着障害の子どもに見られがちな症状を、「1感情面」から「6道徳面・倫理観」まで挙げました。(ヘネシー2004)それらの症状について、お子さんの様子を思い浮かべながら、ご覧ください。
1 感情面
・孤独感、疎外感を持っている。
・一度泣き出したら、なかなか自分からは泣き止むことができない。
・いつもイライラしていて感情を抑制できない。
・かんしゃくを起こしやすい。
・人からムラっ気があるとか怒りっぽいと見られる。
・未来に絶望を感じている。
・心から楽しんだり、喜んだりできない。
・生活パターンの変化に適応できずパニックを起こしやすい。
2 行動面
・過度の刺激を求める。(例 危険なことをしてみる。)
・反社会的行動が目立つ。(例 社会のルールや決まりを破る。)
・衝動や欲求不満に自制がきかない。
・愛そうとする親や権威のある人に攻撃的・挑発的である。
・破壊的行動をよくする。
・自分のしたことに責任を持たず、他人に責任を転嫁する。
・他虐的で、動物や自分より弱いものに残酷である。
・多動である。
・自虐的で、自傷行為をする。
・食べ物を隠してためる。暴食、過度の偏食、じっと座って食べられない。
3 思考面
・自分自身、人間関係、人生に否定的な考えを持っている。
・自分に自信がない。
・新しいことやリスクが多いことには挑戦できない。
・年齢相応な考え方ができない。
・因果関係が分からないため、常識が通用しない。
・忍耐力や集中力が低く、学習障害が起きることもある。
・パターンに固執し、柔軟な考え方ができない。
4 人間関係
・人を信頼しない。
・見ず知らずの人に愛嬌を振りまきまとわりつく。
・人から情愛や愛情を受け入れず、自分も与えない。
・倫理観の欠如から良心が育っていない。
・平気で他虐行為を行う。
・自分の間違いや問題を人のせいにして責める。
・人の目を見ない、見られるのを嫌がる。
・不適当な感情反応を起こすので、同年配の友達ができない。
・他人の感情を把握せず、共感や同情ができない。
5 身体面
・年齢相応な身体の発達が未熟で、小柄な子が多い。
・触られるのを激しく嫌がる。
・痛みに対して普通以上に忍耐強い。
・自分に不注意で自傷的なので、けがをしやすい。
・非衛生的になりがち。
6 道徳面、倫理観
・自分を悪い子だと思っている。
・人を愛することができないと思っている。
・自画像を描くと悪魔の絵を描く。
・有名な悪人や犯罪者にあこがれる。
・後悔や自責の念がなく、自分を社会の規範の外にいる存在だと思っている。
いかがでしたか。どなたでも、一つくらいは当てはまるものがあったのではないでしょうか。なお、これらの症状がひとつでもあてはまったからといって、すぐに「うちの子は愛着障害だ」などと思う必要はありません。例えば、「かんしゃくを起こしやすい」といった場合、幼児は自分の欲求に歯止めをかける前頭葉が未熟なので、かんしゃくを起こすのは当たり前なのです。
ただ、その頻度が多すぎる、様子が明らかに度を超えている、親が何度注意しても言うことを聞かないといった場合には「愛着7」の支援を大切にしてください。愛着は生後の“環境”によってつくられたものなので、同じように“環境”が変われば愛着も変化します。愛着形成は今からでもやり直しが効きくのです。
また、ここで挙げる愛着障害の典型的な症状も、愛着の絆の安定の度合いによって軽度から重度まで様々です。ですから、もし愛着障害かどうか気がかりな子どもがいたら、乳児期の養育の仕方を振り返って、それまでのご自分の養育の仕方が、「回避型」「抵抗/両価型」「混乱型」のうち、当てはまるパターンがあるかどうかを考えて頂くと分かりやすいのではないかと思います。
余談になりますが、「愛着障害」は発達障害ととてもよく似た症状を見せることもありますが、「愛着障害」とは生まれてからの環境、つまり親による養育の仕方によって生まれるものであって、先天性の身体障害や知的障害や発達障害等とは異なるものです。ですから、「障害」という呼び方は本来適切ではないと私は思います。そこで、以後この「愛着の話」では「愛着障害」ではなく「愛着不全」という呼び方で示したいと思います。
環境による後天的な症状ですから、今は症状が重くても、これからの養育の仕方を見直すことで症状を改善することは十分可能です。この「愛着の話」は、そのための具体的な養育方法を提案するためのお話なのです。