PikuminのCancer Staging Manual -6ページ目

PikuminのCancer Staging Manual

がんのステージングは治療や予後判定において極めて大事なものです。

昔々、『医』の国に王子が生まれました。顕微鏡を抱いて生まれてきた王子は『病理医』と名付けられました。はじめての誕生日には盛大な誕生会が催され、多くの人たちが招かれました。3人の善き魔女が招かれましたが、不吉な悪い魔女は呼ばれませんでした。


宴はすすみ、いよいよ3人の善き魔女達が王子に祝福を与えます。
一の善き魔女は『この王子はちっぽけなものから多くのことを知ることが出来る』、

二の善き魔女は『この王子の言うことは医の国において最も価値のある金言と見なされる』と予言しました。
その時、悪い魔女が突然現れました。

『よくも呼ばなかったね。お礼に私からも祝福をあげるよ。この王子は見えたものから多くの知識と予言を皆に与える。ただし、対物レンズの中しか見えない』と呪いをかけました。

人々はその呪いの意味に恐怖を覚えました。
最後に三の善き魔女が言いました。

『まだ私の祝福が残っています。この王子は対物レンズの中のものしか判らなくなるが、外のことが判らなくてもつとめを果たせるような言葉をしゃべるようになる』


こうして、病理医は顕微鏡の中のことしか見えなくなり、

『提出標本を全割しましたが、切片上悪性所見は見られません』とか、

『この標本の中の細菌はH.Pyloriかもしれない可能性がある』とか、

『核腫大を示す扁平上皮細胞の浸潤増生があり、扁平上皮癌を疑う』とか、

『上部消化管内視鏡で採取されたこの材料は胃粘膜に矛盾しない』とか、

様々な病理医話法を生み出して視野が狭いことを補うようになった。


顕微鏡の中だけに興味があって医療に興味がない病理医なんていませんから、勿論これはおとぎ話にすぎません。・・・・と言うオチが正しいことを希望します

さて、AJCCに書いてあるcTNM決定のタイミングとUICC の重鎮病理医W-eの考えが違うのは前述の通り。

書くのをサボっていましたが、その後の展開はこうです。


AJCCの記載とWittekindの返答に矛盾があることを彼に指摘すると


『AJCCと小さな矛盾があろうが、大きな食い違いがあろうが気にするな』という大変素晴らしい回答をいただきました。


説明できない大きな問題であることにやっと気がついてくれたようですが、面子の問題もあるので致し方ありません。


UICC-TNMの精度調査では専門家同士でもTNMの解釈が分かれるケースが5%あるそうです。

この場合は、事象の側ではなく、解釈者であるW-d先生が5%の方に入ってしまったケースだと思いますが・・・いずれにしても困ったことです。


何にしても関係者がここを見たら・・・見ているに違いありませんが


*AJCC-Staging manualに明記された規則と真っ向から矛盾するルールが世界につながる国際ルールであるなんてあり得ない→ASCOで発表できませんよ。

*出版されていない(出版物に書けない)E-mailを根拠に国際ルールはこうだと主張することは害悪だ。

と是非認識してください。

UICC-TNM Faqを見ていたら、見つけてしまったこんなの


2.12.2 How do you classify prostate tumour extension into the bladder in a
prostatectomy specimen?
Invasion of the bladder is classified as T4/pT4.

見つけてしまいました。



よわりました。

世界中で、microscopicな膀胱頸部進展は判定が難しいし、予後impactも低いのでTには入れないと信じられていたはず。

WHOの本にもそう書いてあるし、supplementのどこかにも、microscopic confirmation is not enough for bladder neck invasion (T4/pT4)と書かれていた(・・・とおもうんだがここにはもってない)。肉眼的な浸潤が必要だったはず。


Faqを出した人が見逃したか忘れてたに違いない。

膀胱鏡像で浸潤が確認されたような症例はprostectomyされるわけないから、手術標本で膀胱に浸潤している可能性がみてとれてもpT4にはならない。


弱ったこと書いてるな・・・っておもっていたら、第7版から膀胱頚進展はT3a/pT3a。これならmicroscopic infiltrationを入れても臨床的な齟齬がおきないバランスのとれた程度のTだ。

いずれにしても間違った第6版への注釈は、第7版にとっても邪魔だから早く直さないと>UICC

UICC/AJCC-TNM 7版からT2aN0M0→StageI, T2b,cN0M0→StageIIとわかれちゃった。


これまではT2ならすべてStageIIなので皆大して気にしていなかったT2の亜分類だが、これからは気をつけなきゃいけない。

そのときにじゃまになるのが、General ruleにあるmultiplicityの定義だ。

乳癌など大抵の臓器では、複数の癌結節がある場合最も進んだTに相当する結節のTがTとして採用される。

一方、肝臓の様に多発すること自身がTファクターである臓器もある。

卵巣のように両側にある場合、そのことがpTの因子となると規定されている臓器もある。

肺のように転移か同時多発かの鑑別の上Tを決定する臓器もある。

前立腺は、T2a:片葉の1/2以下、T2b:片葉以下、T2c:両葉とされている。


前立腺に関しては、乳腺や肝臓や卵巣のように、General ruleにおいて触れられていないのが混乱の元。


ここではっきり書いておくと、一つの腫瘍が両葉に浸潤していなくても、両葉に腫瘍が存在していればそれだけでT2cだ。

一つの腫瘍が両葉に浸潤してはじめてT2cという考え方もある。これはindex tumor (予後をindexする腫瘍)の大きさでTを決めたいという考えからきたものだ。

気持ちは分かるが、(1)前立腺の癌結節が本当に1つの腫瘍か、接しているだけか、単に近くにある関係ない腫瘍なのか・・・なんて簡単に分かるわけがない。(2)T2は腫瘍量が予後に反映するという考えに基づく分類だが、index tumorにこだわると、前立腺に多い多発結節性腫瘍の腫瘍量をpTが反映できない。

という2つの理由で、却下。UICC-TNMには反映されていない。TNMは専門家のためのものではなく、みんなのものだから、すごく難しいindex tumorなんてものの診断が要求されてはいけないのだ。


TNMの本にも、pT2c: bilateral diseaseと書かれているので、両側に癌がある場合は素直にT2cとすべきだ。

General ruleは大事だが、部位特異的ルールがしばしばそれを裏切る。General ruleを書いている人は必ずしも私ほどTNMに詳しいわけではないので漏れが出ても仕方ない。


ところで、UICC-TNM Faqを見ていたら、こんなのを見つけてしまった。


2.12.2 How do you classify prostate tumour extension into the bladder in a
prostatectomy specimen?
Invasion of the bladder is classified as T4/pT4.


げ、これまでは前立腺癌の前立腺全摘で取られるような範囲の部分はpT2だったはず。

prostatectomyでとれた膀胱までT4にしてどうする?というか、前立腺全摘標本でどう前立腺と膀胱を分ける。

この件に関しては次号を待て

(1)~(8)の並び順を変えました


胃癌取り扱い規約が今大変なことになっています。

リンパ節の規定が、これまでの解剖学的な転移場所を重視したものから、予後を重視したUICC-TNM型になったり、これまでGroupI, II, III, IV, Vとギリシャ数字だった生検の分類が1-5のアラビア数字になったり
そういった大きな変化があるから・・・・ではない。
そんなことは<font size=0.1>くらい小さな問題だ。
胃癌取扱い規約 14版/著者不明
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使い物にならない理由はなにか?


なんと、胃癌取り扱い規約14版では術中所見を『cTNM』にしてしまったのです。

手術所見をcTNMに入れちゃったら大変。


例えば、induction chemotherapyの治験を考えてみましょう。

Induction chemotherapyというのは術前化学療法のことです。neoadjuvant chemotherapyとも言われます。

もし、貴方がある程度進行したがんになったときに、A先生に『まず、化学療法して腫瘍を縮めてから手術しましょう』といわれたとします。

なるほど、化学療法して縮めてから手術したら、完全切除出来る可能性が高くなりそうだ。よし!とおもいました。しかし、治療法を決める前にセカンドオピニオンも聞いてみましょう。

するとB先生は『いやいや、化学療法しているうちに腫瘍が大きくなって手術のタイミングを逃すかもしれないし、術前の腫瘍が大きいときに使ってしまうより、まず切ってから維持療法で化学療法した方が良いよ』といいました。

こまってサードオピニオンを聞いたら・・・

C先生は『いや、これは切らずに集学的治療で勝負しよう』といいました。


さて貴方はどうします?


そりゃ方針を決める前に、どの方法が一番確率が高いのか過去の研究の成果を知りたいでしょう。根拠が欲しい。その根拠となるのが治療研究・治験です。EBMってやつです。


癌取り扱い規約は、こういう治験のために評価方法を統一するという目的があります。

この治験のためには、同じ程度の病期の人の治療成績を比べる必要があります。

例えばcStageIIIの人が対象だとしましょう。

今までは、今でも大抵のがん取り扱い規約および世界中の施設で、臨床的に治療方針を決めたときのTNMでstageを決めてきました。

ですから、この治験では化学療法をしてから胃を切る人も、胃を切ってから化学療法する人も、放射線化学療法を受ける人も、同じ時点(治療法を割り振りした時点)でcStageを決めます。


ところが!

胃癌取り扱い規約14版という大変な代物では、手術所見までcTNMと新たに決めてしまいました。

胃癌取り扱い規約に従う限り、化学療法してから胃を切る人と放射線化学療法を受ける人は治療をはじめる時のcStageで、胃を切ってから化学療法するひとは手術が終わった時点のcStageで、matchingすることにあります。

当然、前者には開けてみないとわからない進行例が混じっています。後者は前者より遙かにstageが確実です。当然両者のStageIIIは違う質のものです。

これを比較しても公平な比較にならないのは皆さんおわかりでしょう。

胃癌取り扱い規約14版を作った人たちを除いて。

(さすがに化学療法後のStageをcTNMにしろとはいわないとおもう・・・たぶん)


しかし、ご安心ください。

現在使い物にならない取り扱い規約の運用について検討中だそうです。

次の例は


貴方がちょっと進んだ胃癌になったとしましょう。




どこの病院にかかろうか・・・当然治療成績のいい病院がいいですよね?勿論治療前の見立てがいい病院がいいですね。


しかし、もし胃癌取り扱い規約14版がそこに入り込んできたらもう訳がわからなくなります。



治療成績を比べるには同じ程度進んだ癌の治療成績を比較する必要があります。(他にも年齢とかその他の健康状態とかいろいろ要因がありますが・・・)


そこで頼りになるのはcTNM/cStageです。pTNMはもっとも確実なstageですが、手術した症例のことしかわかりません。診断から治療法の決定に到る病院のトータルな能力をみれるのはcTNMです。


ですから、全がん協生存率調査でも、pTNMではなくcTNMで比較します。




ところが、胃癌取り扱い規約14版では手術所見までcTNMの対象です。術前診断がいい加減でも手術所見があればcTNMはすごく正確になります。


ですから、胃癌取り扱い規約14版を使えば、見かけ上cTNMは正確になるのですが、治療は手術だけではありません。手術するしない、化学療法するしないなど、治療法の決定に必要な診断の精度は計算に入りません。手術した症例の多い施設の方がcTNMが正確になるでしょう。


開けてからinopeと判断する病院の方が、術前化学療法などをする病院より遙かにcTNMが正確と言うことになります・・・たとえ診断精度が低くても、cTNMが正確・・・



となると、赤pikuminをかけてもいいですが、手術したらひらく前にStageIIやIIIだと思っていた症例が実はもっと進行していたIIIやIVだったというケースの方がその逆より圧倒的に多いので、cStageIII胃癌の予後でA病院とB病院を比較しようと思ても、とりあえず開けてみてビックリするという方針を選んだうっかり病院の方が予後がよくなってしまう。


これでは診療の質ではなくて手術の割合を比較しているだけのことです。質の低い術前診断をした方が治療成績がよくなると言う逆現現象さえ起こりかねません。


役に立ちません。




しかし、ご安心ください。


現在使い物にならない取り扱い規約の運用について検討中だそうです。

さて何故こんなことになってしまったのでしょう


AJCC Cancer Staging Manualを見てましょう。

AJCCはAmerican Joint Committee on Cancer, URLはhttp://www.cancerstaging.org/

アメリカはマニュアルの国なので、UICCのショボイ本よりはAJCCのstaging
mannual方が遙かに詳しく具体的で使いやすく記載されています。 その意気込みはアドレスを見てもわかりますね。
私も普段こっちを使っています。

AJCCとUICCは共同でUICC-TNMを作っています。
AJCCに記載があってUICCにないとき、UICC help deskに『あれはAJCCのことで
UICCには関係ないのか?』問い合わせると、『いや、同じだ』と返事が返ってき
ます。


AJCC staging manual 7th総論の4pにcTNMについてこう書いています。

”Clinical staging includes any information obtained about the extent of
cancer before initiation of definitive treatment (surgery, systemic or
radiation therapy, active surveillance or palliative care)”

訳『臨床ステージは、手術・化学療法・放射線療法・経過観察・対処療法など治療決定前に得られた全ての癌の進展度に関する情報を用いて決められる』


またその次には
”Clinical stage is the extent of disease defined by diagnostic study
before information is available from surgical resection or initiation of
neoadjuvant chemotherapy.”

訳『臨床ステージは外科切除による情報が得られる前や術前化学療法をはじめる前に行われた検査で決められた癌の進行度である』
と書かれています。

どう読んでも手術が始まったらcTNMには加えられないとしか考えられません。


さらにそのあとには、術中所見をcTNMに加えてもいい状況が具体的に書かれています。
”On occasion, information obtained at the time of surgery may be
classified as clincal such as when liver metastases that are identified
clinically but not biopsied during a surgical resection of an abdominal
tumor,”
訳『場合によっては、外科切除時の所見を臨床ステージに加えてもよい。例えば、
腹腔腫瘍の切除の場合、臨床的に見つかっていたが、生検で診断されていなかっ
た肝転移に関する所見などだ』

これは『時によっては』『手術が始まったあとの所見をcTNMに加えてもいいよ』
ってことですが、その例としてあげられているのは、『術前に見つかってて転移
かもしれないと思っていた腫瘍に関する術中所見』です。
決して手術所見全部入れて言い訳じゃなくて、極限られた納得できなくもない条
件がついての話だ。しかも、『時によっては、メイビー』です。mustじゃない。


さらに、部位別の記載部分も見てみましょう。胃は特別ルールがあるかもしれませんから。

AJCC cancer staging manual 7th 119p 、臓器別・胃のpartに胃癌のcTNMの決め方が書かれています。

”Clinical staging
Designated as cTNM, clinical staging is based on evidence of extent of
disease acquired before definitive treatment is instituted.”

『臨床病期の決め方

臨床病期(cTNMと表記)は決定した治療が施行される前に得られたがんの進展度に基づいて決める』

あからさまに術中所見をcTNMに加えてはいけないと書いてある。ま、あたりまえだが・・・


世界中で臨床医も、疫学者も、医療政策者も、胃癌取り扱い規約にかいてあるような、そんなcTNMは使っていない。

14版は世界と繋がるものにするはずだったのに、逆にどこにも繋がらないものになってしまった。

何故こんなことになったのか?だれが胃のTNMを殺したのか?


次号解決編