「あの週末」 | Stadiums and Arenas

Stadiums and Arenas

スポーツ観戦が趣味の筆者が、これまで訪れたスタジアム・アリーナの印象を綴るブログです。


2023年5月1日。時刻は20時半を過ぎたころ。狭い浦和駒場体育館に詰め合わせた空間で、溜息と歓声が混ざり合う。

B3リーグ・プレーオフ準決勝、さいたまブロンコスベルテックス静岡。B2リーグへの昇格をかけた大一番は、アウェイチームに軍配。旧体制時も含めて恐らくチーム史上最大の試合に挑んだブロンコスでしたが、悲願にはあと一歩及びませんでした。

2022-23シーズンのB3リーグレギュラーステージを4月9日に終えたブロンコスは、4月14日からプレーオフ1回戦トライフープ岡山との対戦を2連勝で突破。他のチームはプレーオフ1回戦を翌週末に戦い、その結果準決勝の相手がベルテックスに決定しました。

ブロンコスは、他のチームよりも1週間早くプレーオフを開始して、しかもそれに連勝したことで、準決勝までに2週間の準備期間ができました。対戦相手のベルテックスは、プレーオフ1回戦で東京ユナイテッドBCに、最終的に勝利はしたものの2試合連続でビハインドを背負った時間も長く、実力的には格下の相手に苦戦。ずば抜けた能力のあるスター選手がいるわけではない中で、組織力を磨き上げてチーム全体で勝ち切るスタイル。だが、攻撃力という意味では明確に不安材料を抱えていました。ブロンコスが得意とする、ハイスコアの打ち合いになれば勝てる。むしろ、得点力のある鹿児島レブナイズ横浜エクセレンスとの対戦になった方が、打ち合いになったときに負けかねないと思っていたので、ブロンコスが置かれていた状況は、申し分ないように思われました。

ですが、その中で、4月28日に行われた第1戦、ブロンコスは前半で得点が伸び悩んだことでこの試合を落としてしまいます。得点力に不安があるベルテックスからすれば、勝つにはこれしかないというロースコアの戦い。そして、その次の第2戦と第3戦を、会場で観戦することになりました。

負ければ終わりという状況で迎えた第2戦は、窒息しそうな重い空気が漂う、これぞプレーオフという緊張感でした。その中で、第1クオーターにしっかりと20点以上取りきること。前半で40点以上取ることができれば、恐らくベルテックスにそれを覆す攻撃力はないだろうと踏んでいました。そしてその中で、ブロンコスは試合序盤に一時わずかなリードを許したものの、その後一時的に21-5とするロケットスタートを切り、一気に優位に立つことに成功します。ベンチスタートながら17得点を挙げた山崎玲緒選手の鋭いドライブが相手のゴール下の守備を切り裂き、主戦ポイントガードの加藤崇都選手もそれに負けじと活躍を見せる。アウトサイドからは、グラント・シットン選手がロングシュートを決めまくり、主役が大車輪の活躍。その後もベルテックスに追いすがられましたが、この試合は相手のフリースローがことごとく外れる幸運にも恵まれ、ビハインドを背負うことはありませんでした。


第2戦のティップオフ

そうして迎えた、運命の第3戦。

第1クオーターは悪くありませんでした。試合開始直後に相手に走られたものの、その後追い上げて、クオーター残り3分の時点で18-10とリード。得点力の低い相手に対して、相手が追い付けないくらい点差をつけたいブロンコスからすれば、理想的なスタートでした。

ですが、この時点でレギュラーステージからよく見られていたブロンコスの悪いところもすでに見えはじめていました。得点源の加藤選手とシットン選手が、残り5分を切ったところでファウル2つ。退場を避けるために流れのいい時間帯でこの2人をベンチに下げざるを得なくなりました。守備で相手に1対1で激しく詰めよったものの、勢い余ってファウルになる。相手がインサイドで体を張ってくると、激しい肉弾戦に苛立った外国出身選手達が、審判に文句を言い始めて、その中でファウルを献上してしまう。心なしか、それで苛立ったことで攻撃時にも悪影響が出ているような。結局、残り3分の時点で18点を決めていたにもかかわらず、20点台に乗せることができずに、クオーターの終わりでは18-16にまで詰め寄られてしまいました。

それでもリードでクオーターを終えてはいたのですが、またもクオーター開始のタイミングで相手に走られてしまい、このクオーターではテクニカルファウルもとられるなど、ファウルでみすみす相手にチャンスを与えてしまう悪い流れが続いてしまいました。最終的には、得点力がそれほど高くない相手に23点取られ、37-39で前半を終えることに。

後半に入っても、ファウルでみすみす相手に流れを渡してしまう流れが止まりませんでした。このクオーターでは、アンスポーツマンライクファウルや3ポイントショットにファウルを与えて、一時は11点のビハインドを背負うことに。クオーター後半に追い上げて54-55でクオーターを終えたものの、得点力に不安のあったベルテックスからすれば勝つにはこういう展開しかないという流れでした。

第4クオーターは、文字通りB2昇格がかかる10分となったことで、とにかく激戦となりました。とにかく、局面ごとのぶつかり合いが激しい。ただ、勝利の可能性が芽生えてきたベルテックスが、ここにきて強烈な気迫を見せ、得点を途切れさせませんでした。

試合の流れが大きくベルテックス側に傾いたのは、本当に終盤になってからでした。試合時間残り1:13、70-72のスコアで、ベルテックスのケニー・ローソン・ジュニア選手が3ポイントを沈め、5点差に。タイムアウトを取った後に、ブロンコスはシットン選手が2点を決める。ホームとアウェイのブースターの嬌声と悲鳴が交互に挙がった後。

試合を決めたのは、次のプレーでベルテックスの山田安斗夢選手が沈めた、3ポイントシュートでした。残り時間44秒で6点差をつける一撃が、ブロンコスを奈落の底へと突き落とす。その後はファウルゲームに持ち込み、シットン選手が2連続で3ポイントを決めるなど、最後まであきらめませんでしたが、相手はフリースローをまったく外さず。試合の一番重要なタイミングで驚異的な集中力を見せたベルテックスに、凱歌が上がりました。


第3戦の後。私も虚脱感があったので、あまりいい写真ではないです(苦笑)

ベルテックスは、シーズンを通じて築き上げてきた組織的な守備に加えて、ブロンコスがシーズン中見せ続けてきた、ファウルがかさんで自滅する悪癖を誘発させ、相手の強みを殺していました。この大一番でその戦い方を貫徹させたファクンド・ミュラーHCと、作戦を完遂した選手達に、脱帽するしかありません。

今でもあの体育館で座っていた時の空気が、緊張が、忘れられない。2試合だけしか見れませんでしたが、凄い経験でした。窒息しそうな緊張感も。歓喜と悲鳴が渦になる瞬間も。「でも、こっちの方がいいチームだったんだよ」という負け惜しみが止まらなくなるのも。なんだか久しぶりでした。


3位決定シリーズ・第1試合開始前のハドル

そして、「あの週末」の翌週に行われた横浜エクセレンスとのB3リーグ3位決定シリーズも見に行きました。このシリーズは、本来であればレギュラーシーズン上位のブロンコスのホーム開催のはずでしたが、ブロンコスが開場を見つけられなかったことから、ホーム開催権を相手に譲渡したため、横浜武道館で開催されました。

第1試合は、暴れ馬の上で過ごしたようなシーズンにふさわしい内容だったと言えるのかもしれません。第1クオーターは12-26と大量ビハインドを背負いながら、次のクオーターで30点取って、3点差に縮めてしまう。その後は一進一退の展開が続き、終盤まで明確にリードを維持した時間帯がなかったものの、残り4分で一気に突き放し、96-90で勝ってしまいました。第1クオーターが12点だった試合で、96点も取るなんて…。勝った試合ではありましたが、「なんなのこのチーム」としばらく開いた口が塞がりませんでした。

しかしながら、第2試合と第3試合は、ともに相手に大量得点を許して連敗し、結局シリーズを勝ち切ることはできませんでした。インサイドの競り合いに意外と不安があった中で、さらにクリークモア選手が欠場すると、守備がくずれてしまいましたね。

楽しかった、素晴らしいシーズンだった。だからこそ、明確な成果が残ってほしかった。けど、勝って終わることはできなかった。終わってしまったのが寂しい限りですが、チームに携わったすべての方々にはまずはゆっくり休んでほしいと思います。お疲れさまです、ありがとうございました!

メインページ