強豪国の仲間入りを果たすために | Stadiums and Arenas

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スポーツ観戦が趣味の筆者が、これまで訪れたスタジアム・アリーナの印象を綴るブログです。




上:2023年5月20日のリーグワン決勝戦会場で試合前に展示されていた優勝トロフィー
下:試合の様子

先週末に国立競技場で行われた、2022-23シーズンのリーグワン優勝決定戦を、現地で見てきました。

結果は、クボタスピアーズ船橋・東京ベイが、埼玉パナソニックワイルドナイツの連覇を阻止するという結末に。年間王者の座を争う大一番の緊張からか、空気の重苦しい試合でした。ワイルドナイツは、流れが来ないときにじっと我慢して、チャンスと見るや点を取りまくって勝ってしまう強さがあるチームのはずなのですが、今日は大事なところでのハンドリングエラーが多かったです。ただ、スピアーズはモール、スクラム、ブレイクダウンで劣勢に立たされることがほとんどなく、ラインアウトも強力でした。ラグビーの試合では接点で優勢になるチームが有利になりますので、ワイルドナイツの自滅ではなかったとも思っています。

昨季2021-22シーズンに開幕したリーグワンでしたが、開幕年には1度も試合を見に行けず。そのため、2022-23シーズンは絶対に見に行くと心に決めていたのですが、全部で4試合を見に行くことができました。その締めくくりに緊張感のある試合を見ることができました。

そして、ここから日本ラグビー界は、今年の秋にフランスで開催されるワールドカップに向かっていくことになります。

2019年の地元開催のワールドカップでベスト8に入り、日本国内で強烈なラグビー熱が巻き起こった後、さらにラグビーを盛り上げていこうと頑張っていた矢先にコロナ禍が発生。ワールドカップの後には、国内大会のプロ化を進めようと動いていたのですが、コロナ禍の行動制限で完全に気勢をそがれる形になってしまい、結局新しいプロリーグ「リーグワン」が始まったのは2021-22シーズンになってからとなってしまいました。

運が悪かった、と言えなくもなかったのですが、Bリーグがコロナ禍になってもバスケ熱を消すわけにはいかないという意志の強さを見せ、コロナ禍でもたくましく立ち回ったのに対し、ラグビー界はどうにもそのようなリーダーシップが弱かった感も否めませんでした。しかも、トップリーグ所属選手の禁止薬物所有・使用という、言語道断の事件で気勢をそがれたところもありました。気が付いたら、リーグワンが開幕した頃にはラグビーに対する注目は失われていき、新リーグも苦難の船出を余儀なくされることになりました。

そしてその間、ラグビー日本代表の成績も伸び悩みました。南アフリカ代表を撃破する大番狂わせを演じた2015年ラグビーワールドカップから、地元開催の2019年の間、日本代表はティア1と呼ばれる国と何度かテストマッチの機会がありましたが、一度も勝てませんでした。2019年のワールドカップではアイルランドとスコットランドを撃破したものの、やはりその後今日まで、またもティア1に勝利することはできませんでした。

4年に1回行われるワールドカップでは、大会の半年前から合宿を行い、個々の能力で劣る部分を補えるだけの組織力を醸成することができるので、ティア1に勝利することもできた。でも、準備時間が限られる、シーズンの合間のテストマッチでティア1に挑むと、勝てない。ティア1は、今年からハイパフォーマンス・ユニオンと呼ばれることになりましたが、テストマッチで勝てるようになるには、それらの国々と伍して戦える選手個々の実力が必要となってくるという現実を、まざまざと見せつけられました。

とはいえ、リーグワンが開幕して2年目のシーズンが終わった今、ラグビー界がいい方向に変わり始めている。そういう兆しが見え始めているようにも思えます。

まずは何といっても、ここリーグワンに所属するチーム同士の競争が激しくなったこと。今年は、これまでタイトルを獲得したことがなかったクボタスピアーズ船橋・東京ベイが、リーグ戦で2位に浮上。プレーオフでも東京サントリーサンゴリアス埼玉パナソニックワイルドナイツの2強を撃破して、年間王者の座を手中に収めました。その他にも、これまで中位から下が定位置だった横浜キヤノンイーグルスが躍進し、3位決定戦でサンゴリアスに勝利しています。プレーオフを逃したチームも、上位のチームの足をすくうこともありました。

また、下位で残留争いに巻き込まれたチームと、2部のチームとの入替戦も、このレベルの戦いにしては競争の質は高かったと思います。もちろん当事者やファンの方々は胃が痛くなったとは思いますが。

リーグワンが開幕して、日本のラグビー界を取り巻く環境が流動的になった中、これまであまりタイトルに縁がなかったチームが優勝を伺うようになる。環境の変化をいい形で生かす意欲的なチームがいくつも出てきたおかげで、今年はとても楽しいシーズンを過ごすことができました。

そもそも、ラグビー界を取り巻く環境という意味では、日本のラグビー界は世界でも屈指の高水準にあると思います。ラグビーは、伝統的に上流階級を中心に発展したスポーツで、名誉と気品を重んじるラグビー界の姿勢は、プライドが高くとっつきにくいととらえられてしまうことも少なからずあり、またラグビーが英語圏の中で伝統的に上流階級を中心に発展してきたスポーツということもあって、強豪国でも社会全体のサポートが得られている国はほとんどありません。1国だけでプロリーグを形成することができているのは、日本を除けばイングランドとフランスぐらいで、他の国は多国間リーグを行わないと競争が保てない状態になっています。集客数だって、決して多くない。

それと比べれば、日本は1国でプロリーグが形成できるくらいラグビー界にお金がある。平均集客数も、5000人以下と聞くと日本国内の他のスポーツに比べて不安になることは事実ですが、ラグビーの集客数なんて、他の国でもそんなものというところが多い。そういった意味で、日本が強豪国と比べて大きく劣っているというわけではありません。だからこそ、海外のスター選手が日本でプレーしに来てくれるわけです。

インフラという意味でも、熊谷、秩父宮、花園と、2万人以上が収容できるラグビー専用(あるいは優先)のスタジアムが国内に3つもある国なんて、他にそんなにない。

このような環境が、リーグワンの開幕によってようやく生かされ始めたのか、今年はジュニア・ジャパンが、直近の国際大会でフィジー、サモア、トンガ相手に善戦してもいます。日本は、フル代表であればこれらの国々に互角に戦えるものの、育成年代ではコテンパンにやられることが多かったので、若年層の育成がまったく行き届いていなかった状況がある程度状況が改善されているのかなと。結論は、6月に行われるU20チャンピオンシップ次第ではあるのですが。

ともかく、ラグビー界を取り巻く流れは、全体的に良くなっている気がします。2019年の自国開催ワールドカップの後、コロナ禍のせいでつかむことができなかったラグビー界のさらなる盛り上げのチャンスも、来るかもしれません。

秋のワールドカップでいいパフォーマンスが出れば、もう1回ラグビー熱を再燃させるための起爆剤になるかと思います。前回大会が素晴らしかったので、それを上回るインパクトを残すのはかなり大変なのですが、ここまでのいい流れを何とかつないで、いい方向へとつながればいいなと思っています。

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