株式のチャートを見た事がある人はわかるが、景気はその企業の成績が特に変わらなくても、株価が急激に変動する場合がある。


そう考えると、株価は企業の利益や配当の予想だけで決まるのではなく、投資家たちの群集心理にも影響されることになる。



この原理は「ケインズの美人投票」と呼ばれる。



ある美人投票のコンテストでは、100人の女性の中から最も美人と思う人6人に投票し、集計の結果と自分の投票が近かった者に賞品が贈られる。


この場合投票者は、自分が美人だと思う人ではなく、他の投票者が美人だと思うであろう人に投票した方が当たる確率が高い。


これを株に当てはめると、どの企業の業績が良いかだけでなく、「どの企業にみんなが投資心理をそそられそうか」を考えて投資する事になる。



そこまで群集心理を極めていれば儲かる事ができるかもしれない?








景気低迷により売上が落ちた時、ライバル社との値下げ競争に踏み切ってしまった事でさらに収益が圧迫されてしまう例はよく見かける。


安売り競争は泥沼化しやすいのに「囚人のジレンマ」という心理によって、同じ事が起こってしまう。


例えば2人の共犯者が逮捕され、別々で取り調べを受けた際、



・2人とも黙秘と貫くと両方とも懲役2年になる。


・片方が自白すると、自白した方が懲役1年となるが、自白しない方は懲役5年になる。


・逆に共犯者の方だけが自白し、おまえが罪を認めなければ共犯者は懲役1年で、おまえが懲役5年だ。


・2人とも自白したら、両方とも懲役3年だ。



という条件を提示される。


この場合、最後の選択肢は一番可能性が低く思える。わざわざ自白して懲役が2年から3年にのびる事を選ぶ者はいないだろう。



しかし、「相手が黙秘して自分も黙秘すれば懲役2年だが、相手を裏切れば懲役1年で済む。」


「相手がもし裏切って、自分が黙秘していると懲役5年になってしまうが、自分も自白すれば懲役3年で済む」


そう考えてしまい、どちらにしても自白した方が有利になると思い、結局両方とも自白して懲役3年となってしまう。


こうして安売り競争は双方にとってマイナスだと分かってていても、自分が下げなかったらもっと打撃を受けると考え、泥沼化してしまう。






例えば外食産業の場合、材料費が変動すれば価格も調整する必要があるのだが、メニューの変更にも費用がかかる。



これをメニューコストと言う。



店や会社にとって、メニューコストが価格変更によって得られる利益よりも大きい場合、価格変更を据え置く時がある。



これが価格の硬直をもたらす原因となり、「需要と供給のバランスで決まる」はずの価格が理論通りに決まらなくなる。



ここで重要なのは、メニューコストを回避したために価格が調整されないという事は、大きな社会的損失を招くということだ。



この社会的損失に比べれば、メニューコストは経済学的に見ると小さいものである。






ケインズ理論の間違いが指摘される中、入れ替わりに脚光を浴びつつあったのがヨーゼフ・シュンペーター。








シュンペーターは資本主義の本質はイノベーションにあると論じた。それも単なる革新ではなく、「創造的破壊」を以て進化すると唱えた。また、起業者(entrepreneur)という言葉を初めて使ったことでも有名である。起業者が生産要素を組み合わせて、全く新しい「新結合」を創造して実行する事がシュンペーターの論じたイノベーションであり、これが中心的な概念となる。








しかし企業が巨大化・官僚化されると創造的破壊が避けられていく予測がつく事と、発展により知識人が増えると社会を合理的にコントロールしようとすることから「資本主義はその成功によって没落する」と唱えた。








資本主義の永続性には疑問符が付き、社会主義は望ましくはないが避けられないという考え方は、第二次世界大戦での大失敗をもってしても未だ完全に否定できないのか。













ダニエル・カーネマンがノーベル経済学賞を受賞したのは2002年のこと。「人間は効用を最大化させようと努力する」という仮定が誤っている事を、行動実験により実証した。



得をする可能性が損をする可能性を上回っても、人は変化よりも現状維持を選択する傾向があり、必ずしも効用を最大化させるわけではないという。政治の政策変更が進みにくい事や、パソコンを初期設定のまま使う人が多くいるなどが例としてある。転職に踏み切れない心理もそうだ。



これを「現状維持バイアス」という。



また、同じ金額でも失った時と得た時を比べると、失った時の方が金額自体の価値が大きく感じられるという。



現状維持バイアスに気づいていないと効用を最大化する行動が薄れ、的確な判断ができない事もあるので、意識的に取り払う必要がある。





合理的に自己利益を最大限に追求する欲求は、目の前にある衝動を超えられないという事も実証されている。もしくは長期的な目標達成よりも、現在手に入る利益に引かれるとも言われる。



これは「現在志向バイアス」と呼ばれる。



実際の実験で、10kgの米を1週間後にもらうか、5kgの米を今もらうかを選択させると、95%が後者を選んだ。しかし、1年後に5kgの米か、1年と1週間後に10kgかという選択にすると、結果は逆になり誰もが追加の1週間を待つと答える。合理的に考えれば、どちらの選択にせよより多くの米をもらうために長い期間を待つ事で一致するはずなのだが、あてはまらない。



その原因は、経済人ではなく、日常的な経験を前提にしているからだ。



このような心理学と経済学を融合させた学問は「行動経済学」と呼ばれ、08年の金融危機以降は大きな注目を集めており、バブルや利益相反、ドミノ倒しのような急激な破綻の連鎖を回避できる統一理論ができるかが期待されている。