「わたし」が生まれた理由(わけ)
人間は非常に未熟な状態で生まれるため、
親の愛を勝ち取ることなしには 生きていけない。
だから 子供たちは、親に愛され(承認され)ようと 必死だ。
兄弟がいれば、競争も生まれるだろう。
このときが、人間にとって初めての試練となる。
そのとき、人と人との基礎的な関係性が 上手く築かれるか、どうか?
適切な関係がつくられず、愛着障害を抱え込んでしまうこともあるだろう。
次いで 身体的に生きて行くため、生計をたてるための必要条件として、
社会人として経済的に自立するために 他者から承認されなければならず、
それが 自我を確立しなくてはならない理由であった。
その目的のために、自我が生みだされたのだ。
その過程では 他者との比較・競争が強制されることが多く、
そのため、自我は 個体の生存のために
常に 他者より優位に立とうとし、競争に勝とうとしてしまう。
自我( 「わたし」という感覚)は、
肉体としての個体が 自立して 「生き延びる」 ための機能であり、
その機能に名づけられた概念であり、
それゆえに 実体のない 仮想現実【無我】である。
それは、生き延びるために備わった「◯◯みたいな感覚」に過ぎない。
ただ そんな風に感じているだけだ。
「そんな風に」というのは、
他者や世界全体から切り離され 孤立した「わたし」 という「感じ」 のことである。
「わたし」は 世界から切り離されているように感じているかも知れないが、
それは真実ではなく、非リアルな「感じ方:考え方:思い込み」 に過ぎない。
それは ただ「感じ」ているだけで、リアルな事実ではない。
リアルな現実は、「縁起ネットワーク」 という形をしていて
「すべて」 がつながって存在しているのだが、
わたしたちは なかなかそれに気づけない。
思考【想】が 対象を意味づけ、 それに執着するサンカーラ【行】が 主体を求めて、
「わたし」という感覚【識】を 生みだした。
この 「想→行→識」 というシステムによって「わたし」が生まれた理由(わけ)は、
生き延びるためであった。
生き延びるためには、親や 他者からの承認が必要だった。
「承認」 されるために 比較や競争が生まれ、
さらに 「縦の関係」 までもが創りだされてしまった。
その「縦の関係」 は「わたし」 を 世界から切り離して孤立させ、
「苦悩」 の感情【瞋】を引きだしてしまうのだ。
自己否定と 承認欲求に駆り立てられ 足るを知らずに努力し続ける自我は、
この地球上で ホモ・サピエンスという種が大躍進する原動力となった。
それは 鳥の翼・象の長い鼻のような 大発明であった。
すべての生物は
種の進化(適応)のために その身体構造を変化させるしかなかったのに、
人類だけが 「想」 の蓄積と その内容を変化させることで「進化」 できるようになった。
これが 短期間での飛躍的な適応(非解剖レベルでの進化)を可能にした仕組みである。
「想」の内容の違いは、個体の特異性(多様性)を高めることにもなった。
人類においては、種しゅの在り様が様々に異なるのと同様に、
その種の違いに相当するほど 個人が 様々に異なっている。
個々人の思い込みは それぞれ 様々であり みんな違っているので、
合意を得ることが とても難しい。
だから、その多様性は 種全体としての適応性を保証するものであったが、
同時に 社会という集団を維持するのを 著しく困難にした。
それ故に、群れを拡大した社会という機能的な集団内において、
承認欲求に基づくわたしという感覚が、
その秩序を維持するための 必須の機能ともなったのだ。
人類は 他者の欲求を尊重するという承認欲求によって、
他者との折り合いをつけることになった。
だから、人間だけが「わたしという感覚」を持っているのだろう。
「わたしという感覚」は、
社会の秩序を 不安定にするとともに、同時に 安定化させる要因ともなった。
しかし、 自分は孤立していると感じる「わたし」 という感覚 に囚われ 暴走し続け、
常に 他者を敵として認識し、不信感と警戒心を拭い去ることができなければ、
いつも 不安の中にいて「苦悩」という代償・副作用を抱え込むしかない。
そして いつの間にか、他者だけでなく 自分自身までも敵にしてしまう。
いつも 他者と自分を比較し、絶えず 優越感か 同等感か 劣等感を感じ、
優越感:傲慢のときは 心地よく【貪】 同等のときは まあいいかと思い、
劣等感のときは 慘め・怒り・うつ【瞋】になる。
これが、縦の関係である。これでは、本当の意味で 心休まるとき(平穏)がない。
「わたし(識)」とは、
もともと人類進化の戦略であり、「社会で生きていく」ための機能であった。
十二縁起の 10:有(サバイバル)のために → 11:「わたし(識)」 が生まれた とは、
このことを表現している。
(最終改訂:2022年12月10日)