影 | あさひのブログ
チャン・イーモウ(張藝謀)監督の最新作。

「影」(2018年 邦題「SHADOW/影武者」 監督/張藝謀 主演/鄧超)
115分

日本語版はまだありません。[2019.6追記。日本語版作られました]

古代中国に似た架空の国の物語。

――とある小さな国・沛はまだ若い君主が治めていた。長年いがみ合っている隣国・炎とは休戦協定を結び束の間の平安の時が流れていた。だがある日大都督の子虞が王に無断で国境の城・境州へ出向き、境州を守る楊蒼に一騎打ちの約束を取り付けて来たと言う。休戦状態にあるのに相手国の将軍に戦いを挑むとは戦争を仕掛けているに他ならない!沛王は憤慨し子虞を罷免し、妹公主の青萍を楊蒼の息子・楊平に嫁がせることで和平を維持しようと考えた。

子虞はなぜ楊蒼に挑戦状を叩きつけたのか…それはかつて沛国のものであった境州を取り戻すため。子虞が炎軍との戦いで敗れたため境州を奪われたのだ、これは雪辱を晴らすためだ。そして戦いに赴く子虞は子虞ではなかった…彼に瓜二つの"影子"、身代わりなのだった。かつての戦いで重傷を負い戦えない体になった子虞は境州奪回のため主君をも騙して地下に潜伏し、自分の影子を鍛え大都督を演じさせているのだった。この秘密を知っているのは彼以外には妻の小艾だけだった――

[ここからネタバレ------
境州へ交渉に行った魯大臣が戻ってきたが、楊蒼は息子には既に炎国公主を娶る話が決まっており、青萍を妾としてならもらってやると答えたと言う。子虞の部下である田将軍は憤慨し、婚姻など結ばず一気に攻めたて境州を奪回すべきだと主張するが、あくまで和平を維持しようとする沛王は怒り田将軍をも罷免した。このままでは朝廷は真っ二つに分かれ国が危ういと悟った青萍は自ら妾になると申し出た。
田将軍は尊敬するかつての上司・子虞に誘われ彼の家の地下へと案内された。そこにいたのは本物の子虞…事情を知った田将軍は必ずや境州を奪回すると誓う。

子虞は影子に楊家の槍術を封じる技術を日々特訓させる。影子はやっとその技を習得できたが、名だたる将軍である楊蒼に勝てるとは到底思えなかった。自分はただの囮だ、一騎打ちで勝とうが敗けようが、死のうが生き残ろうが、自分を操る人々は何ら気にはしないのだ…。
一騎打ちの前夜、影子は眠れず身を縮こませ震えていた。そこへ小艾がそっと寄り添い彼を抱きしめる。…だがその姿を子虞が壁の隙間から覗いていた。

影子は境州城へ赴き楊蒼に約束通りの一騎打ちを挑む。楊蒼は沛国の謀ではないかと警戒し、息子の楊平に城の防衛を任せ戦いの場に臨んだ。一合目は影子が取ったが二合目は楊蒼に取られた。
その頃、田将軍は部下らを率いて地下水道から境州城内へ潜入し奇襲をかける。城内に敵が現れたとの報せに楊平は兵を率いて急ぐ。
一騎打ちは三合目、子虞が特訓に特訓を重ねた技で楊蒼を捉えたと思ったが、状況の変化に柔軟に応じる楊家槍術は甘くはなかった、楊蒼に足を斬られ影子は倒れた。楊蒼はそれでも見事だったと子虞(影子)を賞賛するが、影子は立ち上がり今度は生死をかけた戦いを挑む。
敵は城壁に掲げる楊家の旗を狙っている。楊平は父から授けられた技で旗を死守する。田将軍の部下らに交じって戦っていた青萍も切られ倒れるが、近寄って来た楊平の首に短刀を突き立てたところで力尽きた。
田将軍が楊家の旗を切り倒し境州は陥落したと宣言する。一騎打ちで影子を追い詰めていた楊蒼はその声に思わず振り向く。やはりこれは罠だったのか!楊蒼は猛然と襲い掛かかる。影子は首を締め上げられるが楊蒼が手にする刃を振り払った時に刃がしなり楊蒼の首を掻き切った。

影子は幼い頃のかすかな記憶を頼りに境州の生家へとたどり着いた。だがそこには胸に短刀を突き立てられ息絶えた母の姿…その時突然黒装束の男らが襲い掛かって来た。子虞が口封じに遣ったに違いなかった。だが一人の男が現れ黒装束らを葬る。彼は沛王から命じられて来たと言う。

沛国宮殿では境州奪回の祝宴が開かれていた。そこへ体中傷だらけでぼろぼろになった子虞(影子)が姿を現した。同刻、沛王の命を受けた兵士らが子虞の屋敷を襲う。地下室を暴き本物の子虞に襲い掛かる…。
沛王は影子と小艾、そして魯大臣を残して皆に退室を命じる。そして魯大臣が楊家と組んでいたと突きつけその場で切り殺した。沛王は影子にも剣を突きつける。「お前は沛国の役に立つ人間だ、実によく似ている…。」沛王のその言葉に小艾は驚愕する。
沛王は影子にこれからはお前が本当の子虞として、この国の歴史に名を刻むといいと言う。そこへ兵士が本物の子虞の首を入れた箱を持ってきた。沛王は満足げに箱を開けるが、中は空っぽだった!その時、兵士が沛王を背中からひと突きにした。それは兵士に扮した子虞だったのだ…。
子虞は剣を影子に渡し、母の仇を打てと言う。境州の母を殺したのは実は沛王だと。子虞に罪を擦り付けて影子を離反させようとしていたのだと。影子は剣を取ると沛王の前に立つ。だが影子は剣を逆手に握り子虞を刺し殺した。そしてまだ息のある沛王を子虞の隣に並べると心臓を突き刺し、その剣の柄を子虞に握らせた。

影子は外で待つ朝臣らに、沛王が暗殺され自分がその暗殺者を仕留めたと宣言した。(終)
-----ここまで]

前半は眠く後半は不快さしか残らない。最後まで見たのは、名だたる監督がこのままでは終わらんだろう、それなりのオチはつけるだろうと無駄な期待をしてしまったため。

これは「HERO」のような映像美を見せる系統の映画。でもあんまりきれいじゃない。
彩度を落としてモノクロに近くしてて、昔の日本のサムライ映画みたいなわびさびを出したいのかもしれない。それでも着物の柄やアクセサリー、宮殿のセットとかは現代的センスも取り入れ金かかってていかにも芸術的。アクションも動きの美しさについてよく練られた作品だけど、「HERO」が好きな人に勧められるかというとやっぱり何か違う。

この作品が、どーうしてもアーティスティックな目線から見ることができない大きな要因が、それこそ「グレート・ウォール」を継承するような馬鹿げた戦術の連発なわけよ。いくら見栄えを良くするためとはいえ、あまりに無意味無能すぎるヘンテコリンな武器や戦術に失笑。まだ「グレート・ウォール」はファンタジーの部類に入るし低年齢層向けだから許されるとして、今作は明らかに玄人向けなのにその設定はおふざけが過ぎる。ここを普通に剣や槍での戦いに収めておけばまだ見るに耐えられただろうに…。チーン
そんなわけで最初の1時間で呆れて脱落する人が多いだろうけど、終盤はそれなりに人間ドラマとして作られていてここはまだ評価に値するものではある。結局期待されてる分の興行収入も得ないといけないしでも芸術家として自分の撮りたいものもあるしって、この監督迷いまくってるんじゃないかと思う仕上がり。

子虞と影子(役名は「境州」)の二役を演じるのがチャウ・シンチー監督の「人魚姫」でも主演をつとめていたデン・チャオ(鄧超)。しかし子虞と影子は同一人物とは思えないんだけど…。子虞は頬がこけてて輪郭が違うし目も落ちくぼんでて、顔がはっきり見えないのもあるけどとても"瓜二つ"とは言えない違いよう。両人とも上半身を晒すシーンがあるけど影子はあきらかに筋肉ついてていい体してるけど子虞はやせ細ってて全然体格違うし!最初に子虞のシーンだけ撮ってその後体鍛えてから影子のシーン撮ったのかしら。それともCG処理??
ともかく影子はいかにも主人公らしいキャラでこれといって印象に残らないけど、子虞が、引くくらい濃ゆいキャラでむしろこっちの方が好きというか、グッジョブ。
そして沛王を演じるチェン・カイ(鄭愷)がやたら恰好良い。時代劇らしからぬ自由奔放な若き王というキャラクターも親しみやすい。
登場人物が非常に少なく女性は二人だけで、でもそこはしっかりとお目々の大きい美女を配してて手堅い。でもスン・リー(孫儷)演じるヒロインはセクシー要員のはずなのに、どうも色気がないしキスシーンは気持ち悪いしでこれどうなんだろう?

この脚本の元となったのは「大明帝国・朱元璋」「さらば復讐の狼たちよ」などで知られる脚本家チュー・スージン(朱蘇進)の「三国荊州」という戯曲。「三国荊州」は三国時代の呉国を舞台にした物語で、今作の子虞が周瑜、沛王が孫権、楊蒼が関羽、楊平が関平に相当する役柄らしい。昨今中国では歴史ものドラマの審査が厳しく、フィクション(史実に忠実でない)だと当局から上映の許可がおりないそうで、苦肉の策として架空の国に設定しなおしたようだ。