ネイチャー最新号にPTSD(post-traumatic stress disorder;直訳は外傷後ストレス症候群、日本語では心的という文字がつくことが多いです)と、エストロゲンとの関係が載っていました。英文サマリーだけの情報ですが、このブログで紹介します。以下に、http://www.natureasia.com/japan/nature/updates/index.php?i=81974
に日本語情報があります。しかし、ここには、エストロゲンの影響については、あまり書いてありません。いづれにしろ、この記事の用語と日本語がむずかしいですが、脳へのエストロゲンの作用は、現在、研究途上であることをお知らせしたいです。
 
アデニル酸シクラーゼ(アデニリルシクラーゼ)は、全身の臓器にあり、細胞が生きるためのエネルギーを作り出す物質です。ATPをAMP (cAMP) とピロリン酸へ分解する酵素です。cAMPは、セカンドメッセンジャーと呼ばれ、多くの細胞膜受容体を操作することができ、細胞のシグナル伝達に重要な分子です。9種類のアデニル酸シクラーゼが哺乳類で知られています。このアデニル酸シクラーゼ活性化ペプチドという物質は、脳の視床下部に多く、食欲などの生命現象をささえています。脳の扁桃体などにも発現し、ストレスからくるメンタルなトラブルの調整に働いていると考えれていますが、詳細は未だ不明です。
 
エストロゲンは脳内の伝達物質として機能しているわけですから、メンタルヘルスに働いています、今回の論文では、女性でPTDSが発症しやすいことと、エストロゲとの関係が言及されています。PTSDの女性では、下垂体性アデニル酸シクラーゼ活性化ペプチド受容体遺伝子にに異常があるとの研究です。
 
人生でうけるイベントにおいて、ストレスの感じ方は、男女で異なります。極端な例では、男性は戦場で高揚感を味わう動物であり、女性にはそれがないということがあげられます。脳内エストロゲンのストレスへの役割は、複雑であろうと思います。
下垂体性アデニル酸シクラーゼ活性化ペプチド(PACAP)は、細胞がうけるストレスを修復する作用をもつのですが、今回のネーチャーの記事は、この物質が、実際の人の脳で、ストレスの処理と関係するかどうか調べた研究です。
 
重症のPTSDの女性では、血中の下垂体性アデニル酸シクラーゼ活性化ペプチド(PACAP)が高いという結果が得られました。そのペプチドの遺伝子ADCYAP1と、受容体PAC1遺伝子ADCYAP1R1の塩基配列を調べて、1塩基置換(スニップ)をさがしました。
 
その結果、ADCYAP1R1遺伝子の中の、エストロゲンと反応する部分に1塩基置換(スニップ)がある人では、PTDSになりやすいことがわかりました。そして、その関連は、女性にのみ見られた現象でした。アデニル酸シクラーゼ活性化ペプチド(PACAP)の受容体遺伝子のメチル化が、PTSDと関連しました。(注;遺伝子のメチル化は、遺伝子を働きにくくする)。

恐怖の程度と、人の脳内の受容体遺伝子のメッセンジャーRNA量との相関がありました
(注:どのように測定したかは、サマリーには書いてありません)。
動物のPTDSモデルにおいて、恐怖ストレスをかけたり、エストロゲンを補うことにより、ADCYAP1R1 mRNAの増加を誘導できました。
 
結論 PACAP受容体遺伝子に、スニップのある女性では、ストレス対抗ができにくく、PTSDになりやすいことが示されました。人の脳では、PACAP–PAC1の回路の混乱が、PTSDの発症に関連しているようです。この回路には、エストロゲンが関与していて、PACAP受容体遺伝子変異についての今後の研究が待たれます。

以上がサマリーです。PACAPという物質が、PTSDの発症と関係し、その遺伝子異常をもつ女性に、重症のPTDSがおこりやすいと言いたいようです。
人の妊娠中は、エストロゲンが大量に分泌され、女性の妊娠ストレスに対抗できる脳をつくると考えられてきましたが、他の物質との相互作用がないと、そうした方向へは働かないのかもしれません。一般的に、恐れを感じやすいのは、女性の特性とされているので、そこにエストロゲンが関係しているかもしれせん。そして、エストロゲンの女性脳への作用は、他の因子次第で変化するのかもしれません。
1941年、毛細血管拡張性運動失調症という病気が発見され、この病気を持つ人は、白血病、がんを、若い時期に発症することがわかりました。1971年には、この患者由来の細胞が放射線感受性と染色体不安定性を示すことが分かりました。つまり、この辺りから、染色体が次世代細胞に、正確にDNAを2分割できないことが、がん化と関係することが見え始めました。
 
細胞分裂の時に、形成される器官(動原体、紡錘体など)を構成する蛋白などに異常が起きることが、がん化を発生させるとする研究があります。がん化の根源にせまる機序かもしれないと期待されていますが、解決は難しく、現在も議論が続いています。遺伝子の変化は、がん化の重要ポイントですが、どの時点で起きる遺伝子のイベントがその後のがん細胞の増殖に影響するのか、いまだ、手探りの状態が続いています。
 
細胞が分裂し、2個の正常細胞となると、2倍体細胞が2個できますが、がん細胞では、染色体がうまく配れず、例えば、1倍体や3倍体に分かれてしまうミスが起きます。分裂後の娘細胞に、均等にDNAを配れないことが、がんの発症の根源ではないかの議論は、現在まで、ずーと続いてきました。1998年のネーチャーには、すでに数10年前から、細胞分裂時の異常が、がん発症の根源になるうるのかの議論が続いているとありました。がん細胞では、染色体の数が、正常細胞(22n+XX or XY)とは、違ってしまう変化が起きることは、案外、しられていないのではないでしょうか?
 
染色体や遺伝子の不安定性には2種類あり、DNA塩基の欠失や挿入といった、塩基配列を細かく調べてみつかる異常と、もうひとつは染色体の数の異常など、ダイナミックな大きな染色体異常があります。ERの陽性がんは、陰性がんと比べると予後が良いとかは、すでにかなり知られた知識のようです。ER陰性の中にもかなり予後の良い乳がんがみつかってきており、遺伝子の検索が進むほどに、従来知識を超える知見が増えてきますので、予後は悪いかもしれないがんでも希望を持ちたいものです。
 
細胞分裂を進行させるサイクリンと呼ばれる蛋白酵素や、細胞分裂の時に現れる動原体関連蛋白の構造異常などが、その後にがん化の染色体異常を起こす原因候補として、挙げられています。つまり、こうした蛋白質がうまく働けないと、染色体が均等に引っ張られていかないために、染色体が等分されないのです。この染色体の異常は、がん化を防ぐp53などの異常につながります。蛋白キナーゼの構造を持つATM蛋白は、DNAの傷を感知してがん抑制蛋白p53をリン酸化して、p53が活躍できるようにします。
 
染色体異常をひき起こす共通の機序が、がん細胞に内在しているのか?“なぜ、がんは起きるか?それはどの時点か?””最初のステップが重要なのか?あるいは違うのか?”は興味深いですね。がん化時点の発見に期待していきたいです。細胞分裂に関連する特定蛋白が、がんの性状や予後と関連するとなれば、治療のターゲットは広がります。今後も、がん化の根源解明は、多くの人が待ち望むものと思います。
昨日の追加です。
細胞分裂の時には、できあがる二つの娘細胞に、親細胞の染色体を均一に配れないミスがおきてしまうことがあります。具体的には、染色体数の異常、形の異常(染色体の一部が飛んでしまったり、短腕と長腕の長さ比の違いが起きたりなど)が起き、遺伝子にも欠失、転座などがおきます。3倍体以上の染色体をもつ細胞が生じてしまいます(こうした細胞は生存力が低いです)。がん細胞・固形腫瘍では、こうした細胞分裂の際の異常が高頻度で起きています。これを総称して染色体不安定性と呼びます。
今は、がん細胞の遺伝子検査を行い、治療の選択や予後の判定に用いたりすることが、盛んに行われるようになりました。染色体の不安定性などの程度を評価し、悪性度や患者の予後との関係などが調べられています。遺伝子検査から予後の予測をする際、がん細胞の遺伝子検索が発展途上である現段階では、判定に用いるマーカーの選択には慎重であるべきと言われています。PubMed 21270189
 
エストロゲン受容体ER陽性と、陰性の乳がんでは、乳がん細胞の染色体の不安定と予後との関係は異なるとの論文がありました。ER陽性の場合は、染色体の不安定性が高い乳がんを持つ患者では、予後が悪く、一方、ER陰性乳がんでは、不安定性が高いと予後は良いとの結果でした。がん細胞の生存に、ERの影響が強く働いていると考えて良いのかもしれません。
 
別の論文です。染色体の不安定性を評価するCIN70という数値があります。この数値を用いて、2125の乳がん細胞において、不安定染色体をチェックした成績です。
ER陰性、基底細胞フェノタイプの乳がんにおいて、染色体不安定性の強い乳がん細胞の方が、中等度の不安定をもつ乳がん細胞より、患者の予後が良いという結果が得られました。PMID: 21270108 Cancer Res. 2011 Jan 26

別の論文です、313のリンパ節転移のない乳がんの遺伝子を調べたところ、ER(エストロゲン受容体)陽性の乳がんでは、染色体不安定の高い乳がんの患者で予後が悪く、それ以外の乳がんでは、結果はまちまちでした。ER陰性の乳がん細胞では、ER以外の要因からの影響が強いようでした。
このブログでは、体の中でがんの発生を防ぐ働きがあることを話してきました。

p53は、遺伝子の守護神といわれ、染色体の安定性を保つ役割があります。異常な遺伝子を持つがん細胞が増えないよう、遺伝子コピーのミスをチェックしています。こうした期待を裏切って、不死の能力を獲得していくのが、がん細胞でしたね。誰でも、がんになるかもしれないのですが、がんになったら、運命論的な心境となり、“治療に失敗された!“などと考えないようにしたいです。落ち込みから早く抜け出し、ゆったりとした境地で、免疫力を高めるためにも、がんとは何かを、普段から考えて行きたいです。
 
元々、がん細胞では、染色体の不安定性がましています。がん細胞自身の遺伝子は、正常細胞と比べると、染色体構造が崩れていて、次の細胞にDNAのコピーを正確に伝えることができにくくなっています。がん細胞に、さらなる遺伝子異常が積み重なることがあります。このように染色体が不安定であることは、がん細胞に見られる特徴です。一般的に、染色体が不安定であるほど、悪性度が高いと考えられてきました。しかし、一方で、遺伝子がかなり狂ってしまうと、細胞として働きにくくなることがあり、がん細胞が環境に適応できなくなり、生命力が低下します。がん細胞が次世代細胞に命をつなぐには不利になるのです。顔付きを変えたがん細胞は、正常細胞を押しのけて増え始めたとしても、さらなる生き残る生命力がないと、免疫力や抗がん薬によって、がん細胞はつぶされてしまいます。つまり、がんの増殖がとまれば、患者にとっては、悪性度が低いがんということになります。
 
実際に、動物モデルにがん細胞を作る研究において、腫瘍の染色体の不安定性を増してあげると、がん細胞の生存が低下することがわかっています。
 
がん細胞が生存に適さない顔つきになっていく時、そのがん細胞の持ち主、つまり患者ですが、病気の経過や予後が良くなるわけですが、こうした事実から、どのようなことを考えますか? がん細胞の遺伝子を操作して、生命力を低下させ、治療につなげるなどのアイデアが浮かぶかもしれません。
しかし、多くの方は、治療の成果は難しいものだという感想であると思います。

がん細胞の生命力は動いていきます。動いている鳥を撃ち落とせないからと、嘆いてもしかたないわけです。
がん細胞が、治療にどのように反撃するのか、薬はどれがよいか、人の免疫力は高いのか?など、不確実な要素がたくさんです。元々、人の反応の多様性を考えれば、治療の成果を予想するのは、至難な技でしょう。
個々の人で異なる治療成果、人間の知恵である医学の限界を思えば、運命論的な心境にならざるをえません。がんと言われたショックから少し落ち着いてくれば、がんとは何者なのかを知れば知るほど、運命論をうけいれられるのだと思います。
 
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学とみ子は、日常医療現場でしばしばおきる、診療上の問題点を小説に書きました。まもなく、小説「女性ホルモンという神話“が文芸社から発売になります。
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医療現場のトラブルは大事な問題と思いますが、こうした読み物が、どの位に人々に受け入れられるものなのか知りたいのです。世の中の価値観は多様ですし、興味の無い方が大半かもしれません。主人公が診療経験から学んだことを、長く世に問い続けたいと思っています。
 
この小説に書きたかったのは、医師と患者の信頼関係です。慢性の病気、難治な病気では、医師と患者が信頼関係を続けるためには、双方的に努力が大事です。治らない病気に対し、患者は怒り、医師は落ち込むわけですが、両者がそうした感情をむき出しにしては、治療は成り立ちません。私がこの小説に書いた病気は、命取りな病気ではありません。しかし、主人公にとっては、日常的に悩まされる大きな問題です。彼女の不快な症状は、薬に抵抗し、やがて、主人公は医療不信に陥ります。医療不信には、さまざまな誤解や思いこみがあります。こうした、よくある医療現場の出来事を、主人公がどのようにのりこえていくのかを書きたかったのです。これは、日頃から私が大事と感じることなのです。
 
主人公は、40歳をすぎた独身女性で、名前は栄子です。真面目で、仕事に一生懸命です。高卒後、尊敬する男性が社長を務める建築会社に勤務します。しかし、バブル崩壊に呑み込まれ、会社も社長も理想をうしないます。そして、栄子のはつらつとした若い日はあっという間にすぎて行き、会社における彼女の存在感は低下していきます。栄子は、恋愛のみならず、笑顔にも自信を失っていきます。栄子は、自らの将来に不安を感じ始めた頃、不快な体の症状が起きてきます。そしていろいろ考えた末、栄子は、その症状の治療を、若く美しい女医に託します。当初、栄子は、この女医に憧れを感じ、治療効果を感じます。しかし、次第に、主治医の治療薬や診断に納得できなくなり、同時に治療効果も低下します。栄子は自らの存在に自信喪失しながらも、希望を捨てない、将来の展望を持ちたいと願います。しかし、同時に、「誰か!私の症状を助けてほしい!」と、漠然とした何かにすがろうとします。
 
主治医は、病気の診断や治療薬の根拠を、説明してくれていないと、栄子は感じています。栄子が勉強をした医学知識をぶつけても、主治医の女医は相手にしないのです。そして、ついに栄子は、納得できる治療を求めて、行動変容を起こします。そして、次のことに気付くのです。
 
患者自身で、自分の病気を勉強することの重要性
患者から、要望を医師に告げることの重要性
最後は、患者自身で考えて、後悔しないこと
前回、ウキペディアでのエストロゲン受容体の記載を紹介しました。

ウキペディアでのエストロゲン受容体の記載は以下のようです。
その後、1986年にERをコードする遺伝子配列が分かり、1993年にER遺伝子のノックアウトマウスが作成された。1996年に第二のERタンパク質であるERβがラットの前立腺から発見され、その解釈は複雑さを増した。研究が進むと、ERαとERβの間にはDNA結合ドメインの相同性もなく、組織分布も異なることが分かり、それぞれ異なった機能を有していることが示されている。
 
難しい科学事実の記述ですが、すべての記載内容が理解できなくても、エストロゲンが、時代と共に、人々の努力により、少しづつ解明され、その認識が変化してきた経過を知ってほしいと思います。つまり、人類にとって未知だったことが、その後に科学的事実が積み重ねられ、エストロゲンとは何ものなのかが、見えてきたということです。そして見えてくるごとに、認識が変化していったという事実です。もちろん、全貌が解明されたわけではないのですが、少しづつわかってくることにより、初期の誤解が修正されていきます。科学的事実に関しては、全くわからなかった初期の時代より、解明が進んだ時点の方が、誤解や先走りが増えてしまうものなのです。女性ホルモンも、今だ、多くの誤解に満ちた物質であると思います。
 
昔は、病気にしろ、体の不快な症状にしろ、ほとんど説明がつかず、原因がわからずの状態で、診断できない状態でした。科学的事実が無い時代には、権力のある医者の言うことで、病名や治療が決めれました。だから、流派・学派などが存在したのだと思います。そして、専門家の言うことは、皆、違っていました。
 
人類が、測定可能な物質を、動物や人体から、“もの”として取り出せるようになってから、病気の理解が飛躍的に進みました。インスリンなども、動物の膵臓から“もの”として、とりだせたため、糖尿病が解明されました。女性の月経の周期は、性ホルモンの血中レベルで、完全に説明がつくようになったのです。しかし、ホルモンのように蛋白質としてとりだせるようになると、今度は、血液レベルの測定価と、理論とが合わなくなることが次第にふえていきました。
 
生命現象には、“もの”として簡単に測定できないものはたくさんあります。例えば、“もの”でない生命現象、細胞そのものの現象、体の局所で短時間の消える反応、電気的反応には、アプローチができませんでした。ホルモンと月経症状との関係のように、単純に血液レベルで説明がつくような体の現象は、むしろ、まれなのです。
たとえば、アレルギー現象をおこす抗体のIgEが発見された当初、喘息などのアレルギーの病気を、すべてIgEで説明しようとする時代があったのですが、結局、IgEのみでは、アレルギーの症状は説明できなかったのです。今でも、アレルギー反応にIgEは重要ですが、同じくらい他の免疫反応も重要なのです。
 
 
エストロゲンの場合で、考えてみましょう。
動物モデルや、人の血液から精製して、エストロゲンを取り出せるようになってから、その機能がわかるようになりました。実験材料としての“もの”が、人体から取り出せるようになると、その物質に関する医学知識は、飛躍的に進むわけです。そして、ウキディアにあるように、エストロゲン発見後、しばらく後に受容体が発見されました。これで、当時の研究者は、エストロゲンの作用がすべてわかったような気がしたと思います。しかし、動物実験でも、病気との関係でも、理屈に合わない事実が出てきました。その一部は、1996年に、β受容体が発見され、従来のエストロゲン作用では説明できなかったことの説明がつくようになりました。その後には、α、β受容体が、核のなかで遺伝子転写因子として働く以外、細胞膜にも存在し、遺伝子転写ではなく、細胞を機能させる別の働きがあることが見いだされてきました。脳細胞は、エストロゲンの作用によりシナップス伝達が変化するのです。
 
エストロゲンは、女性の生殖機能に密接にかかわりますが、生殖可能年齢(初潮から閉経まで)には、その他のさまざまな物質が兼ね備わって、妊娠を可能にし、女性の性生活をささえます。この時期は、エストロゲンが、がん増殖因子として働かないように、さまざまに阻止因子が働いています。正常女性に“正常たらしめる”機序を解明するのは、なかなか難しいことです。エストロゲンは、凝固を更新させますが、血液の凝固異常の人や、自己免疫疾患のある人(特に高りん脂質抗体の高い人)では、妊娠は血栓を誘発させ、脳梗塞など危険なイベントが起きやすくなります。習慣性流産の人の一部が、この自己抗体によるものであろうと思われています。これも、こうした測定法が確率して、わかってきたことです。測定法の精度問題や、予後との関係は、実際の症例の経験を積み重ねないと、妊娠是非の議論の答えは出てきません。そうした医学的事実が固まるまでは、医師も患者も悩み続けるしかありません。誰も答えを持っていないのです。
 
女性が、体調が悪いと感じ始める閉経期と、血中ホルモンが低下する時期が一致するために、女性ホルモン低下するから、こうした症状が起きるのではないかと、長く信じられてきました。そして、偽薬との比較試験なども試みられましたが、メンタルとの関係については、はっきりした成果が得られませんでした。それでも、現在も、女性ホルモンの低下と精神症状の関係は、常識とみなされ、その根拠は示されないまま、宣伝に使われています(このブログ下の宣伝にもでるかも・・・)。
 
どんな病気も、医師も患者も苦しい経験を経て、治療や方針が選ばれてきます。そして、治療は常に、流動的です。人の病気は、その時の医学レベルを持って、理解するしかありません。最初は、答えが無いが、時の経過と共に治療がわかってくるのは、すべての病気で言えます。病気の説明がつかない時は、未解明であることを認めざるをえませんし、その時の医学のレベルを超えて、すばらしい治療薬を思いつくことはできません。
 
エストロゲンと言う物質は、時代と共にその認識が変化してきました。今度も、脳細胞やがん細胞にどのように作用しているのか、わかってくると思います。そして、女性のメンタルにどのように影響するのかに関しては、過去の認識を見直して、科学的な根拠に基づく事実を、女性自身から発信していくことが大事と思います。
 
 
エストロゲンの情報を提供してきました。学とみ子も学びながら、この問題を提起しています。
エストロゲンに興味をもつ仲間をつのりたいです。
 
日本のウキベディアに“エストロゲン”の項目にアクセスしても、あまり書いてありません。むしろ、エストロゲン受容体でアクセスした方が、勉強できます。専門家と思われる方が記事をかいてくれたと思います。但し、極めて専門的用語の連なりであり、この記述を理解をするには、そこそこの基礎知識は必要です。
日本語として文章に無駄がなく、優雅な記述なので、学術的な記載に興味ある方は、とりあえずアクセスしてみてください。
独学でも、勉強をつづけていると、あなたも理解できるようになります。
 
この記事の中でも、エストロゲンはがん促進因子であると書かれています。
ウキベディアの”エストロゲン受容体”から引用の一部です。
 
エストロゲンは子宮や卵巣、乳腺、前立腺、肺、脳などの形態形成に関与していることが報告されている一方、ノックアウトマウスの解析も行われており、ER(エストロゲン受容体)は生存および胎生期における生殖器の形成に必ずしも必要ではないことが分かっている。エストロゲンはがん細胞の増殖を促進する作用を有しており、乳癌や子宮癌の患者の組織においては健常人と比較してERの発現が上昇していることが報告されている。そのため、乳癌の患者では抗エストロゲン療法が行われ、ER拮抗薬であるタモキシフェンやエストロゲンの生合成に関与する酵素であるアロマターゼの阻害薬などが用いられる。
 
エストロゲンについて、英語のウキベディアサイトに”estrogen”でアクセスすると、もっと多くの情報にふれることができます。この情報によると、エストロゲンは、ギリシャ語に起源をもち、”エストロ”は、性欲を表し、”ゲン”は、generate(元とか生みだすという意味)を表すとあります。
 
エストロゲンは、女性に多量に存在すると、乳房の増大、子宮内膜を厚くする、脂肪を増やす、膣の分泌を増加させると、女性の性生活をサポートする作用を発揮します。その他にも、出産可能年齢の女性では、血小板を凝集させる、プラスミノーゲンを増加させる、アンチトロンビンIIIを増加させるなど凝固系に傾かせますが、若い女性では、他の物質の拮抗作用により、凝固は防がれているのでしょう。
 
とにかく、生殖可能な正常女性のエストロゲンは、すごく高くなるのですから、他の臓器への影響が過剰にならないように、いろいろに調節されていると思います。
脂質代謝にも影響を与えることは有名で、HDLを上げるのですが、中性脂肪もあげてしまいます。

実は、この英語の記載には、エストロゲンが女性のメンタルに良い影響があるらしいとの記述があり、根拠の論文として、2種の論文が引用されています。
 
しかし、いずれの論文も看護学の論文で、内容も厳密な臨床試験の結果を載せているわけではありません。
サマリーは、こんな内容です。両論文とも、具体的なエビデンスは書いてありません。少なくとも、無料で読めるサマリーの範囲では、従来言われてきたことが書かれているだけです。以下にサマリーの訳をのせます。
 
1)ANS Adv Nurs Sci. 2005 ;28(4):364-75
過去30年にわたる論文では、生殖可能期間の女性の健康維持と、エストロゲンの関係が指摘されてきた。女性ホルモンの突然の低下は、気分の障害と関係する。女性のホルモンレベルを回復させると、産後や、閉経を契機としたうつ症状が回復すると言われている。PMID: 16292022
著者注 黒字の部分は、noteという動詞がつかわれて、日本語では、訳しにくいです。
noteは、日本語も同じ言葉で、心にとめるとかいう意味です。
 
2)Biol Res Nurs. 2007 Oct;9(2):147-60.
女性のうつ状態にエストロゲンを投与することの治療効果は、あいまいなままとなっている。私たちは、今後の精度の高い臨床研究の必要性を再度訴えたい。
学とみ子は、エストロゲンが、細胞を動かす多様で多彩な物質であるという説明をしてきました。
そして、生涯を通じて人を支える物質でもあります。http://gakutomiko.web.fc2.com/

エストロゲンは、アロマターゼと呼ばれる酵素により、男性ホルモンであるアンドロゲンから作られます。アロマターゼは、別名をCYP19とよばれ、これを作る遺伝子は、細胞核の染色体の15番、q21.2領域と呼ばれる場所にあります。エストロゲンは、多くの臓器の必須の物質で、そのエストロゲン生産のためのアロマターゼ遺伝子は、体の多くの臓器の細胞で発現されています。アロマターゼが過剰に産生されると、男女で女性化が起きてきます。男性であれば、低身長、女子乳房、精巣機能不全となり、女性であれば、早発乳房(思春期前に乳房肥大)、子宮疾患を起こしてきます。
 
性腺、骨、脳、血管、脂肪組織、皮膚、肝臓、胎盤では、それぞれの局所で、アロマターゼが作られますが、DNA上のアロマターゼ遺伝子部分は各臓器共同部分ですが、遺伝子転写に影響を与えるプロモーター部分は、複数で存在し、各臓器ごとに異なっるプロモーターを使用します。プロモーターとは、遺伝子転写そのものを行う部分ではなく、遺伝子発現レベルに影響を与える部分です。どの部分のプロモーターが使われるかで、アロマターゼ量や働きが異なったり、アロマターゼ量に影響を与える転写因子が異なってきます。エストロゲンが適正に作られるよう、微妙な調節をプロモーターが行っているわけです。各臓器ごとに、使われるプロモーターが異なるため、エストロゲンの働き方が違ってくるのです。
 
乳がん局所では、エストロゲン活性が高まっていますが、アロマターゼ活性もたかまっています。そして、乳がんのそばの脂肪組織でも、正常の脂肪組織よりアロマターゼ活性が高まっています。がん細胞には、正常細胞とは異なるプロモーター部分が使われるため、アロマターゼの調節が難しくなるわけです。正常の乳房では、プロモーター1.4 と呼ばれる部分が使われますが、乳がんではプロモーター1.3 と II と呼ばれる部分が使われます。つまり、がんの部分は、がんが拡大するのに、ふさわしいエストロゲン環境が用意されていると考えられます。これは、生体にとってはとても不利なことです。
 
エストロゲンの活性を抑えることは、乳がんの治療薬となるのですが、他にも、アロマターゼ活性を抑える薬剤があります。プロスタグランジンは、アロマターゼ活性をあげます。プロスタグランジンとは、COXと呼ばれる体内酵素が作用して作られる物質で、私たちが熱のある時、炎症が起きている時、この物質がつくれます。プロスタグランジン産生を抑える物質は、解熱、鎮痛剤として使われます。COX-2阻害剤により、アロマターゼ活性が抑えられます。
 
エストロゲン阻害剤は、乳がんの治療薬となっていることからも、明らかなように、エストロゲンは、細胞をふやしていくのが主要な働きなのです。同時に細胞の働きを高める機能因子でもあります。脳では、エストロゲン受容体の作用が次第に解明されてきています。このように、全身に発現し作用する物質であるために、どのような環境でどの位産生されるべきかは、厳密なコントロールをうけているはずです。生体は、エストロゲンが働き過ぎて細胞増殖をやりすぎないよう、がんにならないように、きめ細かにコントロールされています。こうした働きの全貌は、まだ明らかではないですが、正常細胞は、プロモーターを使い分けて、アロマターゼの暴走を抑えていると思われます。それが、狂ってしまうのが、がん細胞で、アロマターゼ産生も狂ってきてしまいます。
 
そう考えると、閉経後に、人工的なエストロゲンの導入することは、アロマターゼの微妙な調整作業を狂わすものであり、がんと言う予期せぬ結果をもたらすわけです。アロマターゼ・エストロゲン遺伝子は、全身臓器に発現し、組織を新鮮に保ち、機能低下を防ぐ役割を担っているわけですから、関与する多くの体内物質の協力のバランスを壊さないようにすることが大事なのでしょう。
 
日本人の多くが、ホルモンは怖いと信じているのも、自然からの啓示なのでしょう。
腸管免疫の記述中ですが、話題が変わってすみません。お知らせしたい乳がんに関する図をご紹介します。
 
AACR (American Association for Cancer Research is to prevent and cure cancer)と呼ばれる組織は、1907年に設立され,この米国最大にして最古のがん対策の専門組織として活動しており、プレスリリースをしています。 ここでは、論文を引用して、ホルモン補充療法の減少後の、乳がんの低下をしっかり啓発しています。欧米では、この治療をしていた女性が多いので、啓発発動にも力が入っているようです。
 
WHIによるホルモン補充療法との関係についても、プレスリリースされていますので、英語圏の女性たちは、情報にアクセスするのが容易です。外国のプレスリリースは、論文内容に加えて、専門家の名前、役職をしっかり載せて、彼らのコメントを一緒に載せる手法をとるので、一般の人でも理解しやすい形になります。
 
日本の場合は、記事を書く新聞記者は、どんなに英語が堪能でも、しばしば現場の医療の背景を十分に知らないわけですから、専門家にコメントを求めることになります。しかし、コメントする学者の見解で、ずいぶんと記事の印象は変わってしまいます。日本では、他の診療科への批判がなされることが少ないですから、ホルモン補充療法がはっきりだめという書き方はしていない記事が多いです。
 
前回のブログで紹介したBCSC (The Breast Cancer Surveillance Consortium)では、米国における240万回以上のマンモフラフィーを分析しています。
ここのホームページで、ホルモン補充療法後に、浸潤性乳がんが減ったことをグラフで紹介しています。
図1
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http://breastscreening.cancer.gov/data/chars_cases.html オリジナルの図はこちらです。
だいたいの傾向を、グラフでも示しましたので、参考にしてください。このサイトは英語ですが、日本語訳のサービスが利用できます。しかし、日本語訳では大事なところがわかりません。やさしい文章は、完璧に訳してくれるのですが、専門的な記述になると、意味が通じません。残念なことですが、もっと良い翻訳機の今後に期待したいです。
 
Tehillah Menes, M.D(MDは医学博士の略)Elmhurst Hospital Center, New York,のコメントを紹介しています。最近の傾向として、非典型の管状肥大が減った。乳管上皮細胞の非典型的な肥大は、前がん状態と言えるもので、肥大のない上皮細胞に比べ、3-5倍の確率でがんに移行する。非典型の乳管過形成に、癌組織が混入していても、全体として悪性度は低い。つまり、Menes,らは、最初から侵潤性の高いがんと、それ以外の乳がんとは、発生してくる経過が異なるのではないかと考えられると言った。
1999年には、乳管の異型過形成の変化があるものは、10000マンモフラフィーに5.5回あったが、2005年には2.4回 に減った。異型過形成にがん状態も共存する人は、2003年が最も多く、10000マンモフラフィーに4.3回 から、2005年には 3.3回まで減少した。
 
カルフォルニア大学の医学疫学部門のKarla Kerlikowske, 教授は、ホルモン補充療法が、このように関連していることは予想しなかったと、コメントした。
 
 
日本の乳がんにかんするホームページには、乳がんのリスクの高い女性については、以下のような記載になっています。
避妊薬のピルや女性ホルモン、副腎ホルモン剤を常用している人(引用文)
これだと、他の病気で副腎ホルモン剤を治療に必須として使う場合と、ホルモン補充療法が並列的にならんでいます。学とみ子は、この違いに注目する必要を感じます。つまり、副腎ホルモンは中止にすると死亡につながる治療であるのに対して、ホルモン補充療法はQOL改善のために使う薬である違いがあります。乳がんリスクを考えれば、ホルモン補充療法を止めた方が良いとのメッセージに欠けるような気がします。
日本産婦人科学会は、ホルモン補充療法を有効な治療と位置づけています(但し、治療の選択は、本人にゆだねられています)
 
ホルモン補充療法は、患者さん本人が希望する場合に行う治療ですが、副腎ホルモン療法は、一般的に医師の指導により行われるものです。ですから、ホルモン補充療法を希望する女性に向けて、後で後悔をしないように、情報提供をしたいのです。
男性の方も、学とみ子の考え方に賛同してくださる方は、啓発にご協力ください。

 

補遺
乳房は、母乳をつくる小葉と、母乳を乳首まで運ぶ乳管から構成されます。乳がんは、乳房の乳管上皮細胞(壁の内部を覆っている細胞)から発生します。異型過形成は、異型小葉過形成とあわせて異型乳管過形成 (atypical hyperplasia)と呼ばれ、1層にならぶ上皮細胞が増殖してくるのです。そして、この上皮細胞が正常の姿をせず、ややがん細胞に似た顔つきに変化しつつあると、がんに進行する可能性が高まります。
がん細胞が小葉や乳管内にとどまっているがんを「非浸潤性乳管がん」、血液やリンパ管などから外に出て周囲に広がったがんを「浸潤性乳管がん」と呼びます。
これに関しては、日本の乳がん情報ホームページに、わかりやすい絵がのっています。http://www.nyugan-kenshin.jp/nyugan/index.html