前回、ウキペディアでのエストロゲン受容体の記載を紹介しました。

ウキペディアでのエストロゲン受容体の記載は以下のようです。
その後、1986年にERをコードする遺伝子配列が分かり、1993年にER遺伝子のノックアウトマウスが作成された。1996年に第二のERタンパク質であるERβがラットの前立腺から発見され、その解釈は複雑さを増した。研究が進むと、ERαとERβの間にはDNA結合ドメインの相同性もなく、組織分布も異なることが分かり、それぞれ異なった機能を有していることが示されている。
 
難しい科学事実の記述ですが、すべての記載内容が理解できなくても、エストロゲンが、時代と共に、人々の努力により、少しづつ解明され、その認識が変化してきた経過を知ってほしいと思います。つまり、人類にとって未知だったことが、その後に科学的事実が積み重ねられ、エストロゲンとは何ものなのかが、見えてきたということです。そして見えてくるごとに、認識が変化していったという事実です。もちろん、全貌が解明されたわけではないのですが、少しづつわかってくることにより、初期の誤解が修正されていきます。科学的事実に関しては、全くわからなかった初期の時代より、解明が進んだ時点の方が、誤解や先走りが増えてしまうものなのです。女性ホルモンも、今だ、多くの誤解に満ちた物質であると思います。
 
昔は、病気にしろ、体の不快な症状にしろ、ほとんど説明がつかず、原因がわからずの状態で、診断できない状態でした。科学的事実が無い時代には、権力のある医者の言うことで、病名や治療が決めれました。だから、流派・学派などが存在したのだと思います。そして、専門家の言うことは、皆、違っていました。
 
人類が、測定可能な物質を、動物や人体から、“もの”として取り出せるようになってから、病気の理解が飛躍的に進みました。インスリンなども、動物の膵臓から“もの”として、とりだせたため、糖尿病が解明されました。女性の月経の周期は、性ホルモンの血中レベルで、完全に説明がつくようになったのです。しかし、ホルモンのように蛋白質としてとりだせるようになると、今度は、血液レベルの測定価と、理論とが合わなくなることが次第にふえていきました。
 
生命現象には、“もの”として簡単に測定できないものはたくさんあります。例えば、“もの”でない生命現象、細胞そのものの現象、体の局所で短時間の消える反応、電気的反応には、アプローチができませんでした。ホルモンと月経症状との関係のように、単純に血液レベルで説明がつくような体の現象は、むしろ、まれなのです。
たとえば、アレルギー現象をおこす抗体のIgEが発見された当初、喘息などのアレルギーの病気を、すべてIgEで説明しようとする時代があったのですが、結局、IgEのみでは、アレルギーの症状は説明できなかったのです。今でも、アレルギー反応にIgEは重要ですが、同じくらい他の免疫反応も重要なのです。
 
 
エストロゲンの場合で、考えてみましょう。
動物モデルや、人の血液から精製して、エストロゲンを取り出せるようになってから、その機能がわかるようになりました。実験材料としての“もの”が、人体から取り出せるようになると、その物質に関する医学知識は、飛躍的に進むわけです。そして、ウキディアにあるように、エストロゲン発見後、しばらく後に受容体が発見されました。これで、当時の研究者は、エストロゲンの作用がすべてわかったような気がしたと思います。しかし、動物実験でも、病気との関係でも、理屈に合わない事実が出てきました。その一部は、1996年に、β受容体が発見され、従来のエストロゲン作用では説明できなかったことの説明がつくようになりました。その後には、α、β受容体が、核のなかで遺伝子転写因子として働く以外、細胞膜にも存在し、遺伝子転写ではなく、細胞を機能させる別の働きがあることが見いだされてきました。脳細胞は、エストロゲンの作用によりシナップス伝達が変化するのです。
 
エストロゲンは、女性の生殖機能に密接にかかわりますが、生殖可能年齢(初潮から閉経まで)には、その他のさまざまな物質が兼ね備わって、妊娠を可能にし、女性の性生活をささえます。この時期は、エストロゲンが、がん増殖因子として働かないように、さまざまに阻止因子が働いています。正常女性に“正常たらしめる”機序を解明するのは、なかなか難しいことです。エストロゲンは、凝固を更新させますが、血液の凝固異常の人や、自己免疫疾患のある人(特に高りん脂質抗体の高い人)では、妊娠は血栓を誘発させ、脳梗塞など危険なイベントが起きやすくなります。習慣性流産の人の一部が、この自己抗体によるものであろうと思われています。これも、こうした測定法が確率して、わかってきたことです。測定法の精度問題や、予後との関係は、実際の症例の経験を積み重ねないと、妊娠是非の議論の答えは出てきません。そうした医学的事実が固まるまでは、医師も患者も悩み続けるしかありません。誰も答えを持っていないのです。
 
女性が、体調が悪いと感じ始める閉経期と、血中ホルモンが低下する時期が一致するために、女性ホルモン低下するから、こうした症状が起きるのではないかと、長く信じられてきました。そして、偽薬との比較試験なども試みられましたが、メンタルとの関係については、はっきりした成果が得られませんでした。それでも、現在も、女性ホルモンの低下と精神症状の関係は、常識とみなされ、その根拠は示されないまま、宣伝に使われています(このブログ下の宣伝にもでるかも・・・)。
 
どんな病気も、医師も患者も苦しい経験を経て、治療や方針が選ばれてきます。そして、治療は常に、流動的です。人の病気は、その時の医学レベルを持って、理解するしかありません。最初は、答えが無いが、時の経過と共に治療がわかってくるのは、すべての病気で言えます。病気の説明がつかない時は、未解明であることを認めざるをえませんし、その時の医学のレベルを超えて、すばらしい治療薬を思いつくことはできません。
 
エストロゲンと言う物質は、時代と共にその認識が変化してきました。今度も、脳細胞やがん細胞にどのように作用しているのか、わかってくると思います。そして、女性のメンタルにどのように影響するのかに関しては、過去の認識を見直して、科学的な根拠に基づく事実を、女性自身から発信していくことが大事と思います。