このところ、腸内細菌の話をしてきました。抗生剤を長期間使っている人の中に、腸内細菌層が乱れてくる方がいます。こうした人では、抗生剤を使わなければならない状態の腸の病気があるので、腸の回復力が弱いという背景があります。特に問題になっているのが、クロストリジウムデフィシャル菌Clostridium defficileの感染症です。
 
クロストリジウム菌は、病原性を発揮し、かつ、抗生剤に耐性なので、治療には難渋します。下痢、腹痛、血便、潰瘍、穿孔などに悩まされ、時には命取りになる病気です。その治療として、ユニークな治療法が、今年のネーチャーに載っていましたので、紹介します。ネーチャーネディシン2011年2月号150頁
 
びっくりするかもしれませんが、治療方法は、他人の腸内細菌、つまり便ですが・・を移植するという方法です。
もっと、平たく言うと、他人の便を、患者さんの腸内に置いていくという処置をします。他人の便中の腸内細菌を移植することにより、悪玉菌を減らし、患者さんの腸内細菌を、元のバランスの良い状態にもどそうとするものです。
 
ネーチャー誌のレポーターPalmer氏の記事は、ニューヨークにあるアルバートアインシュタイン病院の胃腸器科長のBrandts先生の紹介から始まります。Brandts先生の診療を受けた、60歳の女性患者さんは、長年、クロストリジウム菌の起こす慢性腸炎に悩まされていました。
 
2000年から、Brandts先生は、腸内細菌をリカバーさせる治療経験がありました。そして、この治療を、彼女に勧めます。他人の便抽出物を彼女の腸にいれるという提案です。そして、便のドーナーとして、常に一緒にいる彼女の夫が、感染症などの点からは、感染症が持ちこまれるリスクが低いと判断されました。夫は、妻への便の提供に同意しました。
 
Brandts先生は、この検体を生理食塩水でうすめて、それを乳液状としました。予め彼女の腸の洗浄を行い、次に夫の便由来物質200ccの量を、10cmごとに彼女の大腸においていきました。処置は、10分位で、完了しました。
その6時間後、
彼女は、「今まで数年間で、こんな快適な状態になったことはなかった!」とBrandts先生に告げたそうです。その後は、彼女の腸内細菌は元にもどり、慢性腸炎から開放されたというのがメインストリーです。
 
この治療について、米国では賛否両論がおきました。ワシントン大学の医師は、他人の体液を他の人に移すと同じことで、感染症などのリスクがあり、治療法として問題があると言いました。他にも、反対する人は多くいました。
 
しかし、この治療法は、その後も200名を超える症例が報告され、成功したとの報告が多いそうです。41名の成功例の報告などがパブメド(米国図書館医学論文検索ファイル)にあります。2009年には、オランダでプラセボ(偽物質)との比較試験も行われたそうです。
 
あまりきれいな話題ではないのですが、人の健康がどのように保たれているのかを、考えさせられる事例ではないかと思います。おいおい、このブログでも、症例報告、総論などを紹介していきます。
 
実は、こうした腸内細菌回復法は、以前から試みられていたそうです。1958年、コロラド大学で、4人に便浣腸療法が行われ、1981年には、ジョージア大学でも、同様の処置が行われました。200例のクロストリジウム腸炎患者に行われ、治療成績は、良かったそうです。
 
確かに、昔から命を救うために、感染症の危険を覚悟で輸血などがされていました。輸血よりは、他人の物質を腸内に入れる方がリスクは少ないような気がします。昔は、抗生剤の種類が少なかったので、抗生剤関連の腸炎は少なかったと思いますが、死亡率の高い腸炎が蔓延していましたし、結核などの不治の腸炎などがありました。こうした病気の進展を、腸内細菌は抑えていたのでしょう。
 
その後、この便移植療法は、治療の対象が拡大されました。学会発表では、健康な痩身者から、糖尿病やメタボ肥満の人に便の移植がされ、良い成績をあげたと、ネーチャー記事に書かれています。
 
このところ、腸内細菌の話しをしてきました。腸内細菌の難しさは、培養できない名無しの細菌がたくさん住みついている事実があるからでした。そして、病原性がないと考えられていた細菌が、実は、腸内環境の条件が変わることにより、毒性を増すことを紹介しました。
 
細菌と人は、共生関係にあるものの、それは免疫が正常の時に良い関係が保てるのですが、人の免疫が低下した時は、菌は障害を与えるようになります。人と菌は相互関係だからです。さらに、人と菌とのかかわり合いについては、まだ、わからないことが多くあり、医学常識が変わって行くのです。以前は病原性がないだろうと考えていた菌が、実はあるに変わります。今回、紹介するのは、嚢胞性線維症と診断された遺伝子異常の病気の話しです。
 
日本には少ないのですが、嚢胞性線維症という白人に多い病気があります。肺に粘調な痰がたまり、慢性の肺炎症をおこしてきます。この病気の人は、気管支拡張症や肺炎の頻度が高くなり、肺に常に細菌の感染をかかえることになります。今回はカナダの成績です。American Journal of respiratory and critical care medicine2011;183:635
 
嚢胞性線維症では、肺に常に菌が住みつくようになります。おなじみの病原菌、肺炎球菌、インフルエンザ菌が住みつきます。さらに、黄色ブ菌、そして、最後は緑膿菌が住みつきますが、この菌が増殖する人では、生命予後が悪くなります。緑膿菌は、抗生剤に耐性のことが多く、この菌にすみつかれてしまうと命取りです。嚢胞性線維症では、かなり長期にわたり、菌と人との戦いが続くことになります。肺の殺菌能の低下により、気管支や肺胞に菌が定着してしまいます。菌と人の免疫細胞は、常にせめぎ合っているのですが、健康人ではたやすく、菌の封じ込めができる作業ですが、嚢胞性線維症の人では難しいです。健康人では、痰はでませんし、肺は、マクロファージが多く、外気とつながっていても、無菌状態を保てます。
 
嚢胞性線維症では、肺の免疫機能の低下する結果、痰から多種の菌が培養されます。健康人で、病原性を発揮する菌は、嚢胞性線維症の人では、さらに危ないです。それでは、明らかな病原菌でなく、嚢胞性線維症の痰に住みつく他の菌は、どう考えたらよいのでしょうか?意外に思うかもしれませんが、実は、まだ、こうしたことが、あまりわかっているのではないのです。
 
Stenotrophomonas maltophilia(S. maltophilia)が、そんなよくわからない動向の菌です。嚢胞性線維症の人692人を調べました。S. maltophiliaが持続的に培養される人、時に培養される人、培養されない人の3群にわけました。そして、692人を8年追跡しました。すると、S. maltophiliaが持続的に培養される人では、血清の抗体価が高くなりました。
 
菌が増殖体制に入ると、生体は抗体を増やします。抗体は、本来、感染の制御するために、生体が作る物質ですが、逆に過剰な反応を呼び込み、嚢胞性線維症を悪化させることがあります。S. maltophilia菌の持続的保有者は。肺機能が低下していく速度が早く(肺が壊れていく)、又、入院を要する急性増悪の機会も多くなる事がしめされました。これは、S. maltophiliaが嚢胞性線維症では、病原性を発揮していることを示すものです。
 
人の菌のかかわりあいは相互関係であることが、重要なポイントです。今後も、人間と菌との共生関係を維持させていくには、何十万年と引き継がれてきた人の免疫機能を、失わないことが大事ではないかと思います。病原体と戦うことの機会が少なくなってしまった現代、人が病原体と緊張状態を強いられなくて済む分、免疫細胞がアレルギー反応を起こす方向に廻ってしまいそうです。
 
 
血管性浮腫(Hereditary angioedema、HAEと略)という病気をしっていますか?皮膚や粘膜に急激に局所性浮腫をきたす深在型のじんま疹で、血管神経性浮腫、クインケ浮腫、などと呼ばれています。ウキペディアの写真のような浮腫をくりかえす病気です。わかりやすい写真がのっていましたので、紹介します。
 
浮腫は、12-36時間続き、2-5日間続く。このあたりの出現期間も、蕁麻疹との違いが出ます。http://en.wikipedia.org/wiki/Angioedema
 
蕁麻疹と似てして、しばしば同時に皮膚に現れます。血管性浮腫の方が、皮膚の表皮より深い部分で、血管成分が漏れ出るので、神経の関与が大きいと考えれてきたが、証明が難しい。蕁麻疹では、かゆみがあるが、痛みを伴うことは無く、一方、血管性浮腫は痛みを伴うことが、時にある。顔面の広範囲に現れることがあり、苦痛を伴う。

血管性浮腫は、原因となる薬剤や、原因不明のものが多いが、中には遺伝性のもの(C1-INH、C1(補体第一成分)エステラーゼ抑制物質)の遺伝子異常があり、これは検査で診断可能になる場合がある(保険診療による検査が可能)。
 
遺伝性血管性浮腫は常染色体優性遺伝で家族性に発生する。遺伝性のものは、SERPING1遺伝子異常で、2種のタイプがあり、1型は、C1-inhibitor(C1-INH)の低下、2型は機能異常によるもので、外傷、小手術摘出。抗原との接触、誘発されることが少なくない。なぜ、このようなイベントがおきるのかというと、動物には、補体と呼ばれる重要な機能物質があり、C1r、C1s、C1q という成分がC1複合体をつくると、補体が活性化してくる。補体は、ブラディキニン を増やす。この物質が、血管の漏れやすさをつくり、血管内容物質が、血管外に出てしまう。補体は、細胞を溶かす力があり、細菌などを溶かす。
 
腸管で、浮腫のイベントが起きると、原因不明の急性腹症として、回復手術となることがある。
ごくまれだが、食物アレルギーで、喉頭浮腫となり致死的に至る時もある。
 
薬剤との関連においても、注意する。
血圧をさげるACE阻害剤は、ブラディキニンの働きを壊すACE(体内酵素)の働きを抑制するので、この薬をきっかけに、浮腫がおきることがある。
• ①INHC1(esterase)inhibitor(C1-INH)の欠損
• ②染色体5のHageman(XII)因子の遺伝子異常
• ③遺伝子異常のはっきりしないものもある
• 血管性浮腫が年間12-20回起きる。反復性が特徴なので、思い当たる人は医療機関で検査をうけるのが良い。

• 薬剤との関係があったのは、 ピル(ピルを飲んでいる時のみ症状のでる人もいる)妊娠、HRT(ホルモン補充療法)などが要注意。
昨日、AIEC菌(adherent-invasive Escherichia coli)の話しをしました。医学誌Gastroenterology慢性腸炎特集号で、著者Chassaingらは、論文上で次のように述べています。
 
慢性腸炎の原因菌が単一であるとの考えは捨てなければならない。本来、健康な人の腸内細菌は、多様でなければならない。そうした究極のバランスが崩れてDisbiosis(繁殖様式破綻)の状態となった時、腸管に、自然及び獲得免疫の異常が起きてくる。異常な菌の増殖状態は、クローン病や潰瘍性大腸炎の結果なのか、原因なのかはわからない。腸内細菌が毒性を増強させてしまうと、慢性腸炎が起きている。従って、生体側の殺菌能に欠損する因子をみつけて、それを補強する作業が必要である。あるいは、腸内細菌の毒性の実態をみつけて、生体側が、排除することをめざさなければならない。
 
生体側の易感染性の原因として、NOD2の遺伝子異常を紹介しました。しかし、これはヨーロッパ系アメリカ人では、因子としてあるものの、アフリカ系アメリカ人では、関連が少なく、日本人、アジア人では、関連がみられないそうです。
 
ATG16L1, Xpb1、IRGMなどのその他の遺伝子異常も、慢性腸炎の原因候補としてあがっています。いずれにしろ、腸内細菌のコントロールがうまくできないという問題を抱えると、慢性腸炎が起きてくるのでしょう。
 
さまざまな防御能のわずかな低下から、次第に腸内のDisbiosisが進行性になってしまうようです。自然に備わる抗菌ペプチドのデフェンシン蛋白の働きの低下も、大分、前から指摘されています。また、病原体を検出するための蛋白Cタイプレクチンの働きの異常の指摘もあります。
 
又、生体側が作るIgA抗体も、腸の均衡状態を保つために大事な要素です。IgAは分泌型の抗体で、腸管粘液にも多量に含まれています。腸内菌が、IgA産生を促します。IgA産生を効率よく促す細菌は、バクテロイデス、一方、あまり得意でないのは乳酸菌類です。
 
雑多な腸内細菌にあふれる腸管は、多数多様であることが必要で、その結果、究極の均衡状態を保てているらしいのです。ある種類の菌は、腸管の免疫を刺激し、別の菌は免疫反応を抑え込むと言った具合に、菌同志でせめぎ合っている状態のようです。そのため、腸内バランスに関与する必須因子量の一角が崩れると、病気の発症につながるようです。
 
その他にも、AIEC菌は、いろいろな戦略を持っています。菌体の表面に小液胞をもっていて、AIEC菌が腸管上皮内に侵入すると、菌の小液胞は、上皮細胞のER((小胞体)ストレスを起こさせます。すると、上皮細胞の抵抗力が低下して、AIEC菌が上皮細胞内に入り込み、増殖しやすくなります。頼みのマクロファージも、殺菌力を低下させています。
 
腸管上皮細胞表面のCEACEM6蛋白は、AIEC菌に足場を提供してしまうのですが、ストレスをうけた腸管上皮細胞は、細胞表面に、ますます、腸内細菌のための足場を提供してしまうようです。
腸には膨大な数のリンパ組織があり、これはパイエルパッチと呼ばれますが、この部分の表面の上皮細胞は扁平化していて、すぐ下には多数のリンパ球が集まり、リンパろ胞を形成しています。AIEC菌は、長い糸状突起をもっていて、パイエルパッチ(リンパ節)からはずれないように接着することができます。そして、侵入のチャンスをうかがいます。
 
NOD2欠損のマウスをつくると、このマウスでは、M細胞が増えます。M細胞の下には、多数のリンパ球が寄りあっていますので、これらは混乱状態に陥ります。本来、腸管内に侵入する危険物を見分けるための構造であるパイエルバッチですが、一部の腸内細菌の増殖の侵入の入り口を与えてしまうようです。
 
CEACEM6蛋白をつくる遺伝子をつぶしたマウスでは、腸炎が起きてきます。

このように、遺伝子をつぶした動物モデルの作成をしたり、菌の特性を根掘り葉掘り調べ、患者さんの協力をあおいだ生検材料を密に調べる努力を続けて、クローン病や慢性腸炎の病因究明の努力が続けられています。
 
昨日、adherent-invasive Escherichia coli(AIECと略)の日本語訳を、接着性侵襲性大腸菌としましたが、これが正解かはわかりません。Adherentの本来の訳は、信奉者とか支持者とか辞書にありました。医学辞書では癒着性とかがあります。つまり、粘膜表面にくっついている生存するタイプの大腸菌なのだと思います。一般医師の間では、この菌名は、まだ十分に浸透してないと思います(どなたか、この菌について知識のある方がいらしたら教えてください)。
 
今後、この病因説の正当性が積み重なれば、多くの人がこの大腸菌の存在を知ることになると思います。一方で、クローン病の原因に、もっと有力な別の病因論が出てくると、この菌の知名度は後退してしまうかもしれません。
 
クローン病では、以前から、何かの腸内感染症に引き続き、発症することが指摘されていました。慢性炎症を起こしている原因菌が、AIEC菌である患者さんはいるでしょう。クローン病のすべてではないにしろ、AIEC菌が増殖してしまうことが、慢性腸炎の原因になります。
 
昨日、別のMAP病因説を紹介しましたが、そのMAP感染症(Mycobacterium avium subsp paratuberculosis (MAPと略)を契機に、クローン病が発症してしまった患者さんもいるでしょう。国や生活環境で、腸内菌とのかかわり合いは違ってきます。世界中で病気の症状は類似していても、そこに至る過程が同じであるかはわかりません。私たちは、出来上がった病気の結果しか、見ることができません。
 
昨日、提供した図を再度、下図でみてみましょう。腸の粘膜の一番上は、腸管上皮細胞(緑で示す部分、ひとつひとつの細胞が一層で並んでいる)で囲まれています。この細胞が、腸の内腔に入ってくる多量の食物、病原体などの危険性をみわけます。腸管上皮細胞は、細菌を感じ取るセンサー装置(CEACEM6蛋白で緑のコイル状で図示)を、細胞膜の上に表出しています。
 
上皮細胞は、センサー装置であるCEACEM6蛋白をつくり、AIEC菌((紫で、鞭毛をもっている)の侵入を見張ります。今回、話題になっている大腸菌AIEC菌は、CEACEM6蛋白を足場にして、上皮細胞に結合します。上皮細胞は、菌が自らの表面に貼りついても、それは見逃します。しかし、菌がそれ以上に細胞内部に入り込もうとすると、反応します。腸内細菌はあくまで、腸管の内腔内で増えるだけで、腸管上皮をつきやぶって腸の生体側に入り込まないのです。
 
上皮細胞は、菌が貼りつくための足場をつくってあげていて、ここに菌が結合状態するだけなら、菌と上皮細胞は、仲良くしていることができます。健康人では、菌の数も少なく、平和が待たれます(腸の炎症は起きない)。しかし、上皮細胞は、監視の目をおこたっているわけではなく、この菌(図では紫色)が内側の黄色い部分(固有層)に入ろうとすると、拒絶反応を起こしてきます。

腸内を遊走している白血球の仲間の細胞は、呑み込み処理に長けたマクロファージ(呑食細胞、図では3個のオレンジの細胞)となっています。腸内の菌が増加傾向を示すと、それを感じ取ったマクロファージが、この菌を飲みこみ処理します。大腸菌が生体内侵入しても、すぐマクロファージにつかまって、処理されてしまいます。
 
菌が腸管内で増殖体制に入ると、それを感知した生体側は、センサーであるCEACEM6蛋白を多数、上皮細胞の表面に出するようになります。生体側は、見張りを強化させたつもりでも、このタイプの大腸菌AIEC(図では紫色)は、見張りのためのCEACEM6蛋白を利用して、逆に、これを足がかりに細胞内に入り込んでしまいます。
 
戦場で、敵の武器を奪って、自らの武器とするわけですが、こうした搾取的なせめぎ合いは、生物間の生存競争では、しばしば見られます。
 
クローン病の人では、腸管マクロファージの殺菌機能が低く、AIEC菌(図では紫色)が増えてしまいます。そして、粘膜上皮からさらに体内側の固有層(黄色い部分)に入り込みます。殺菌能の低下したマクロファージに呑み込まれた菌は、マクロファージ内で生き延び、増殖体制に入ることができるようになります。
 
こうした状態になると、腸管粘膜細胞はパニックになり、侵入菌に対し激しい免疫反応をおこします。腸管内に、さらなる白血球を呼び込んで、血管を膨らませ、炎症を増大させます。腸内に戦争を抱え込んだ患者さんは、発熱、腹痛、血便、体重減少、腸の潰瘍、穿孔など、クローン病の重症化へと向かっていきます。腸の炎症の悪循環が治まらなくなってしまうのです。
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弱毒の大腸菌は、腸管の免疫物質を横取りして、増殖に利用して、病気を起こしていくことにご注目ください。
 
以上、現時点で、最も可能性が高いと思われるクローン病の病因説の一つを紹介しました。
 
食と健康に関しては、未解決な問題が多く、従って、健康に良い食品があるのかの結論はありません。遺伝子背景の違いがある各個人において、健康維持に貢献する食品は、各個人で異なるでしょう。ですから、健康のよいとされる食品、サプリなどの情報にふりまわされないようにしましょう。
 
クローン病を考える時のまとめ
1) 病気に至る因子が複数で存在する。腸を守るしくみは、複数で相補的なので、クローン病の人も希望を持つこと。腸と脳は類似物質で動くので、一緒に元気になれる。
2) 腸内免疫の寛容の破たんが、病気の元になる。
3) 無菌ではない腸の病気は、原因究明が難しい。今後の研究に、ご期待ください。
 
gooには、わかりやすい組織図があります。腸の仕組みを勉強するには、組織図を学ぶことがとても役に立ちます。
http://health.goo.ne.jp/medical/mame/karada/jin028.html
 
昨日、紹介したGastroenterology慢性腸炎特集号 に、クローン病の原因解明に関する学説が紹介されていますので、もう少しこの病気に関する情報を提供してみます。
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%AF%E3%83%AD%E3%83%BC%E3%83%B3%E7%97%85
 
現在も、多くの原因不明の難病がありますが、慢性腸炎もそうした病気の一つです。慢性腸炎の代表的な病気は、潰瘍性大腸炎、クローン病ですが、厚労省は、原因不明の難病に指定しています。
 
ウキベディアのクローン病の説明は、次のような病因説が紹介されています。
1)遺伝子異常が背景にある。
クローン病のかかりやすさは特にNod2 (IBD1) の機能欠損多型やHLAの多型により影響を受けるが、日本人ではNod2との関わりは明確ではない。
2)2007年、リバプール大学のJon Rhodes教授らが、結核菌の仲間の菌Mycobacterium avium subsp paratuberculosis (MAPと略)が、クローン病を引きおこしている可能性があることを発表した。
 
今回、このブログで紹介する今年の専門誌Gastroenterology特集号の報告は、日本語ウキベディアに記載された後と思われますので、クローン病に関する記述は異なっています。Gastroenterology特集号では、MAP原因説は、確証はないと否定的でした。(医学界にも、激しい競争がありますね)
 
原因不明である難病を有効に治療するには、まず、原因の究明が先決です。今回、Gastroenterology慢性腸炎特集号には、現時点での慢性腸炎の発症機序が書かれています。人の難病の究明には、多くの因子を考慮しなければならないということを教えてくれます。つまり、ひとつの難病の解明は、他の難病を解明するヒントを提供することが多いです。クローン病を例に、病因を組み合わせていくことを学びましょう。柔軟に多方向に考えをめぐらす必要があります。
 
一般的に、原因不明な病気が目の前にある場合、まず、病原体さがしから始まります。細菌であれば、抗生剤が効くことがありますので、試しにいろいろな抗生剤をためしてみたりします。クローン病の場合は、抗生剤が効いたようでもあり、効かないようでもあり、はっきりしない・・・というのが現状です。さらに、研究者は、次のように考えを展開させていきました。
 
病原性が無いと考えていた細菌(あるいはウイルス)が、実は病原性を発揮しているのではないか?
特定の遺伝子背景のある人に発症しやすい。免疫細胞になんらかの遺伝子異常があり、病原体の増殖を許してしまうのか?。特定の弱毒の腸内細菌が増えているのか?
第一ヒット、第二ヒット、第三ヒットと、腸内イベントが続くと発症してくるのか?

遺伝子異常に関しては、ウキベディア同様に、関与が指摘されています。その代表はNOD2遺伝子異常です。双子の一方が発症すると、もう一方も発症する確率を一致率といいます。遺伝子が同一である一卵性双生児では一致率が高く、遺伝子の異なる二卵性双生児では一致率が低下する場合は、病気の発症に、遺伝子が影響していると推定できます。
 
クローン病では、一卵性双生児の一致率が30%、二卵性双生児では3.6%、一方、潰瘍性大腸炎では、一卵性双生児で一致率15%、二卵性双生児3.9%です。

正常人では病原性が低い腸内細菌が住みつこうとしても、殺菌されてしまいます。ところが、遺伝子異常がある免疫細胞では、弱毒菌を殺菌できなくなります。
 
NOD2遺伝子からつくられるタンパク質は、免疫細胞が細菌を殺菌する時に働きます。この遺伝子異常をペア(一方は父、一方母からもらった染色体遺伝子異常がペア)であると、クローン病の発症が17倍に上昇し、シングルの遺伝子異常を持つと2.4倍に上昇するとの数値が示されています。
 
さて、クローン病の発症は、小腸を中心に多発性に腸に潰瘍を生じてくる病気ですが、若い働き盛りに多い病気です。その原因菌として、adherent-invasive Escherichia coli(AIECと略、英語の直訳では接着性侵襲性大腸菌)が推定されています。この菌が、クローン病では増えるのが、病気の原因ではないか?とのことです。この菌が、回腸(小腸)で増えますが、患者の回腸から36.4%、健康者では6%に検出されました。
この菌が、どのように病気を関係するかの学説は次のブログに書きます。
 
まず、図を先に載せます。これは、腸の粘膜の断面図です。青い部分は、上皮細胞で、黄色の部分は、粘膜の固有層と呼ばれる部分で、体の内部になります。腸管上皮細胞の外側に、紫色の腸内細菌がいます。鞭毛をもっていて、活発に動いています。ふつうは、腸内細菌は、外にいて、粘膜の内部には入ってこれません。上皮細胞は、青い色のコイル状のセンサーを突き出して、見張っているので、菌を内部に入れないのです。それが、破たんしていまうと、慢性腸炎が起きてきます。
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人の腸管は、腸内に常在する細菌によって、免疫的均衡が保たれているという話を、以前(2月12日)にしました。それについて、又、考えてみます。ソースは、Gastroentrology 2011;140の慢性腸炎の特集号です。
 
セグメント菌と呼ばれる細菌の発見により、腸管免疫の知識が前に進みました。腸内細菌は、腸の免疫活動が行き過ぎないように抑え込む働きがあることは、すでに書きました。
 
現在、多くの人を悩ませている慢性腸炎(クローン病、潰瘍性大腸炎など)は、免疫的均衡がくずれた時に、発症してきます。これらの病気は、腸管内腔の常在細菌が、病原性を発揮してしまうのではないかと考えられています。健康人の腸管の上皮細胞は、常に腸管内に侵入してくる細菌を見張っていますが、病気が起きてくると、健康時はみのがしていた常在細菌に対しても敏感になり、その細菌を呼び込む受容体を増やしてしまいます。すると、炎症細胞(白血球)などを腸管内に呼び込んでしまい、腸管の発赤、腫脹、などが起こり、腸は炎症状態となります。慢性腸炎が起きると、下痢、発熱、体重減少などが起きてくるようになります。重症な場合では、腸管の穿孔などがおきてしまいます。
 
それでは、人の腸内に膨大な量で存在し、私たちの腸の健康を左右している腸内細菌は、どのような生活史をもっているのでしょうか?今まで、この知識が深まらなかった原因としては、人類は、腸管にどの種類の菌がどの位にいるのかをしることができなかったからでした。
 
私たちの腸管には、まだ、名前のつけられていない未知の菌が多数にいるのです。細菌の16SリボゾーマルRNAの解析から、腸内ののぞき見ができるようになりました。
 
母親の子宮内は無菌と考えられていて、赤ちゃんは生まれてくるときに、母親の産道で最初の菌を得ると考えられています。分娩時には膣の細菌層は、非妊娠時と異なっています。出産時の母親は、赤ちゃんの腸管に役立つような菌の種類を膣内で増加させています。ここにも、人の常在菌の共生関係があります(生物がお互いに助け合うしくみ)。
 
膣の細菌層は、母親の生活環境を反映しますので、赤ちゃんが母親と同じ菌層を獲得することが大事です。母親からさずかった膣由来の細菌は、赤ちゃんの皮膚、口で増えて、赤ちゃんの初回の便中には、すでにこの菌が検出できます。
 
ところが、衛生状態が悪い生活環境で母親が妊娠期間を過ごし、出産時は衛生状態の良い社会に移動すると、子どもに免疫異常が生じやすくなります。
 
帝王切開でうまれてくる赤ちゃんの腸内細菌と、経産道(自然分娩)で生まれてくる赤ちゃんの腸内細菌の種類は異なっています。その後も、赤ちゃんが生下時に母親からもらった細菌が赤ちゃんの腸管内に影響を与え続けます。特に、自然分娩では、母親の産道でもらった菌はその後も赤ちゃんの主要な構成菌となります。
 
一方、帝王切開では、母親からの菌でなく、赤ちゃんが最初に触れた女性の菌が増えるとデータがあります。帝王切開の赤ちゃんでは、MRSA(メトシリン耐性ブドウ球菌)の感染症が増えやすくなります。
 
その後、子どもの成長時には、腸内細菌は移り変わって行き、古い菌種は、新しい菌種に入れ替わっています。また、食事の影響も大いに受けます。生活環境からの影響が出てきます。
 
人種により腸に構造的な違いがあるため、腸管のひだの深みの程度などで、繁殖しやすい菌層は変わって行きます。
 
一卵生双生児では、二卵性双生児より、腸内細菌の類似性が高い事より、遺伝子も影響をあたえるだろうと考えられています。
 
成人になっても、菌の入れ替わりは続きますが、その速度は、小児よりゆっくりになります。そして、最後は、加齢につれ、若い成人の腸内細菌から、老人用の腸内細菌に変わって行きます。
 
しかし、多種類の腸内細菌が変化していく様子の全貌はまだ明らかでありません。腸内細菌が、人の病気とどのようにかかわるかは、研究途上です。
 
5月31日のブログに、ストレス時の、視床下部-下垂体-副腎系が活性化することを説明しました。略してHPA axis(HPA軸)と呼ばれるしくみは、生命現象に必須です。
 
この時上昇する代表的ステロイドは、コルチゾールと呼ばれて、副腎皮質から分泌されます。ストレスを感じた動物は、コルチゾールが上昇します。ストレスの程度を数値として評価したい時には、ステロイド物質の測定が利用されています。巷で、ステロイドが恐いと言われる理由は、薬として投与された外来性のステロイドは、生存に必須の物質であるステロイドを産生する能力を、我々から奪ってしまうからです。
 
5月31日のブログでは、男女で恐怖時のステロイドホルモンに対する反応が異なることを紹介しました。男性では、ステロイドは恐怖を忘れ勇敢になるように作用するのに対し、女性はその逆でした。女性は男性と比べ、低レベルのコルチコトロピン放出因子(CRF)に反応し、さらにストレスが強くなっても、コルチコトロピン放出因子(CRF)が、ストレスを治める方向へ対応していくことができにくいのです。コルチコトロピン放出因子(CRF)は、最終ターゲットは、副腎でコルチゾール(ステロイド)を増加させます。
 
さて、恐怖実験の時に、このコルチゾール(ステロイド)を人工的に体内に入れると、恐怖の程度はどのように影響されるのでしょうか?
 
今回、紹介するのは、コルチゾール30mg、あるいはプラセボ(偽薬)を静脈内投与した後、恐怖の条件付けへの影響をみました。条件付けをした後に、fMRIや、皮膚伝動速度を用いてテストを行いました。コルチゾールとプラセボ(偽薬)間で、fMRIと皮膚伝動速度を比較したものです。
 
この実験でも、男性は、コルチゾールを入れた後では、恐怖感が低下したのに対し、女性は、そうした調整は無く、むしろ恐怖感は上昇したという結果が得られました。ステロイド物質である、女性ホルモンは、今回の実験には使われていませんが、コルチゾールと同様の作用になる可能性が考えられます。
PMID: 19683399 Psychoneuroendocrinology. 2010 Jan;35(1):33-46

人体実験は、20人の男性と、19人の女性において、恐怖の条件付けを行い、条件付けを覚えさせた後、テストに移りました。
条件付けの方法は、決まった数値を示し、その後に電気刺激を加えました。他の数値では電気刺激は無いようにしました。脳の活性化の評価には、観察、fMRI、皮膚伝動速度を用いました。
 
皮膚伝動速度で評価すると、男性では、コルチゾール静脈内投与により、条件付け反応が低下し、女性では上昇しました(男性は恐怖を感じにくくなり、女性は恐怖に対して反応を強めた)。
fMRI では、 CS+(条件付けに電気刺激を付けた数値を出す) と CS-(電気刺激のない数値を出す)を比べると, 島皮質「insula 、海馬hippocampus、視床 thalamusで活動性の差がでました。
コルチゾール投与により、男性は、CS+とCS-間で、脳の活性化の違いが縮小しましたが、女性では増強されました。扁桃体の活性化は、プラセボ投与時のみで起こり、コルチゾール投与時にはマスクされました。以上の結果は、男女で恐怖の感じ方に及ぼすコルチゾールの作用は、性差が大きいことを示唆するものでした。
昨日、条件付け記憶について書きました。恐怖の脳が、どの部分で反応するかについて、fMRIで検討した結果でした。人の恐怖刺激は、扁桃体で感じています。恐怖時は、多くの報告で、皮膚伝動速度にも、変化が観察されています。
 
それでは、恐怖ではなく、性的刺激の場合は、どうなのでしょうか?性的刺激の条件付け実験の論文です。結果は、予想されるように、条件付け性的刺激に関しては、男性が脳の広範で反応し、大脳の関与が大きいようです。ソースは、J Sex Med2009;6:3071 PubMed19656273
 
 
 
今回の論文の人体実験のやり方ですが、条件付け刺激として、特定の数字を被検者に表示します(CS+)。8秒間の数値表示に引き続いて性的刺激の強い写真を見せます(US)。他の数値が表示される時は、次に普通の写真となり性的写真はでません。このようにして、男女20人づつに特定数値の条件付けを行います。次に、数字のみを出してテストをします。この時の脳の変化をfMRIや被検者の様子観察を行い、数値に反応するかを評価します。
 
テストの時には、男女とも、数値に対し反応する人と、数値のみでは反応しない人がいました。この違いは、fMRIの所見にも差がでました。fMRIに差が出た脳部位は、線条体、眼窩前頭皮質、後頭葉皮質でした。つまり、数値のみに反応する人は、大脳皮質に関与の差がありました。
男性では、女性と比べると、扁桃体、視床、脳幹部位に反応が強くでました。男性は、女性より広範の脳部位に反応が高まっていました。
 
皮膚伝動速度の測定においては、条件付けによる違いがでませんでした。

予想をするという脳作業は、条件付けに大事な促進力となるものでした。
 
1994-2008年に、PETあるいはfMRIを用いて、人の条件付け恐怖について論文発表された研究46編をまとめてレビューした論文PLOPOne2009;6:e-5865を紹介します。この論文では、恐怖条件を負荷した時に、人の脳内活性化はどの部位か?についての研究結果を、各論文間で比較しています。
 
条件付けとは、本来、無関係な刺激を二つ組み合わせて、1回目は普通の刺激、2回目に不快な刺激を与えて、関連を覚えさせます。すると、次は、最初の刺激のみで、人に不快(恐怖)な感情を作り出すことを言います。人の条件付けには、第一の刺激として、音、図、画像、動画などを用い、次に、不快な刺激を続けます。
 
不快な刺激として、多く用いられるのが電気ショック(64編中23)で、他の刺激としては、大きな音、不快な音、突風、ビデオなどを用いて悪口(言葉)を浴びせる、怒った顔をするなど、被験者に不快や恐怖を起こさせる手段を用います。1回目の刺激と、2回目の不快な刺激との間隔は、短い方が有効で、やや時間を伸ばしていくと、条件付けの成功率が低下していきます。
 
学術的な用語の使い方としては、ペアで人の感情を条件付ける場合、一回目の刺激をCS(conditioned stimulation)と呼び、後の2回目の刺激は、US(unconditioned stimulation)と呼びます。恐怖の条件付けには、US刺激が不快や恐怖を植え付けるものであることが必要です。
 
実際の人体実験のやり方ですが、例えば、番号の1がでると、手に電気ショックがおき、2の番号の時には、何も起こらないようにします。すると、人は、1の番号を見たときのみ、反応を起こします。この時に、fMRIなどを用いると、脳の活性化の変化を画像化できます。他には、皮膚伝動装置を用いても、心の動揺を評価することができます。
 
人の条件付け反応には、消退(Extinction)という現象が起きます。これは、最初、不快な条件付け刺激を続けた後、不快な刺激がない状態をくりかえされると、恐怖が消えていくことを言います。恐怖を克服する時には、大事な脳の機能です。
 
多数の研究から、条件付けにかかわる脳部位は、扁桃体、ACC、前頭葉皮質、島、運動感覚皮質であることがわかりました。、痛み刺激、聴覚刺激、臭覚(不快な臭い)、などの刺激の種類のこだわらず、人が恐怖や不快を感じると、ACC, 大脳皮質、扁桃体、前頭葉の一部の活性化が認められました。ACC、島皮質は、大脳皮質の内側に存在し、さらにその内側にある扁桃体を結ぶ介在部位に存在し、恐怖の神経処理の仲介として、働いています。

それぞれの脳部位については、以下を参照してください。大脳皮質から、だんだん、古い脳へと移行します。
Anterior cingulate cortex(ACC)は、前帯状皮質と呼ばれる部位
ウキペディアで表示されているACCの部位 ここは、外側からみえる大脳皮質(知的活動)と、大脳辺縁系(記憶、恐怖の処理)を結ぶ中継地点です。
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%89%8D%E5%B8%AF%E7%8A%B6%E7%9A%AE%E8%B3%AA
 
扁桃体は、恐怖を獲得するだけでなく、恐怖への慣れを生じさせたり、消退(Extinction)させる時にも、活性化が起こります。
 
海馬は、恐怖の克服のために重要と思われます。海馬やVMPFC(皮質)は、恐怖の消退の維持に機能しているだろうと想定されているようです。

恐怖の条件付けには、個人差があります。俗に、恐がりの人と、そうでない人の違いです。
又、人の痛みや苦痛の感じ方にも、個人差があります。
これらの研究を通じて得られた別の知見としては、電気ショックなどの刺激に対する痛み、不快感には、個人差が大きいことでした。つまり、弱い刺激でも、強く痛みを訴える人がいる一方で、かなりの刺激まで、不快感の無い人がいることでした。そのため、電気刺激の程度を、検査人ごとに変える必要があったようです。
 
多くの精力的な研究から、不安を感じやすい人は、扁桃体と島が活性化しやすい人であり、それを調節しているのは、大脳の前頭葉皮質、前帯状皮質であり、この脳の各部位が相互に活性化し、神経細胞間にサーキット(電気)が廻っている様子が、画像的に証明されました。神経シナプスを介して、刺激しあったり、抑制しあったりしているものと思われます。
 
恐怖の条件付けに関する脳機能に関して、もうひとつ別の、論文を紹介します。この論文も、多数の論文をレビューしたものです。Am J Psychiatry 163;10.2007
 
この論文は、恐怖をfMRIで調べた過去の複数論文の結果を評価したものです。メタアナリシスと呼びます。

対象は、恐怖に関連する病気(PTSD外傷後ストレス症候群、社会不安、恐怖症)を持つ人たちと、健康人たちでした。この人たちに、恐怖の条件付けを行い、画像を評価しました。
 
この論文の結果によると、健康人と比較すると、恐怖症の人は、脳内で活性する部位は、健康人と共通して、扁桃体、島などでしたが、その活性化の程度は強くなっていました。
 
画像的に特異的だったことは、PTSDの人の恐怖時の画像でした。
PTSDでは、扁桃体での活性化は増強していましたが、ACCの背側など、大脳皮質に低反応の部分が認められたことでした。PTSDの人では、前帯状皮質の背側やrostral(くちばし状)部分で活性が低下し、従って、扁桃体が活性しても、同時に活性化するはずの前頭葉、ACCでの活性化を伴っておらず、脳内アンバランスがおきていました。
 
この結果より、PTSDでは、大脳皮質による緩和や修飾活動が低下していることを示していて、脳内の活性化のアンバランスが、画像的に見てとれました。つまり、より病的な所見とみなせるのではないかと想定されました。
 
一方、他の社会不安症や恐怖症の人では、恐怖の活性化が高まった状態であり、これは健康人でも観察される所見で、低活性化となる部位は乏しかったです。つまり、島皮質や、ACC皮質での低活性化は、他の恐怖症では、観察されませんでした。