1994-2008年に、PETあるいはfMRIを用いて、人の条件付け恐怖について論文発表された研究46編をまとめてレビューした論文PLOPOne2009;6:e-5865を紹介します。この論文では、恐怖条件を負荷した時に、人の脳内活性化はどの部位か?についての研究結果を、各論文間で比較しています。
 
条件付けとは、本来、無関係な刺激を二つ組み合わせて、1回目は普通の刺激、2回目に不快な刺激を与えて、関連を覚えさせます。すると、次は、最初の刺激のみで、人に不快(恐怖)な感情を作り出すことを言います。人の条件付けには、第一の刺激として、音、図、画像、動画などを用い、次に、不快な刺激を続けます。
 
不快な刺激として、多く用いられるのが電気ショック(64編中23)で、他の刺激としては、大きな音、不快な音、突風、ビデオなどを用いて悪口(言葉)を浴びせる、怒った顔をするなど、被験者に不快や恐怖を起こさせる手段を用います。1回目の刺激と、2回目の不快な刺激との間隔は、短い方が有効で、やや時間を伸ばしていくと、条件付けの成功率が低下していきます。
 
学術的な用語の使い方としては、ペアで人の感情を条件付ける場合、一回目の刺激をCS(conditioned stimulation)と呼び、後の2回目の刺激は、US(unconditioned stimulation)と呼びます。恐怖の条件付けには、US刺激が不快や恐怖を植え付けるものであることが必要です。
 
実際の人体実験のやり方ですが、例えば、番号の1がでると、手に電気ショックがおき、2の番号の時には、何も起こらないようにします。すると、人は、1の番号を見たときのみ、反応を起こします。この時に、fMRIなどを用いると、脳の活性化の変化を画像化できます。他には、皮膚伝動装置を用いても、心の動揺を評価することができます。
 
人の条件付け反応には、消退(Extinction)という現象が起きます。これは、最初、不快な条件付け刺激を続けた後、不快な刺激がない状態をくりかえされると、恐怖が消えていくことを言います。恐怖を克服する時には、大事な脳の機能です。
 
多数の研究から、条件付けにかかわる脳部位は、扁桃体、ACC、前頭葉皮質、島、運動感覚皮質であることがわかりました。、痛み刺激、聴覚刺激、臭覚(不快な臭い)、などの刺激の種類のこだわらず、人が恐怖や不快を感じると、ACC, 大脳皮質、扁桃体、前頭葉の一部の活性化が認められました。ACC、島皮質は、大脳皮質の内側に存在し、さらにその内側にある扁桃体を結ぶ介在部位に存在し、恐怖の神経処理の仲介として、働いています。

それぞれの脳部位については、以下を参照してください。大脳皮質から、だんだん、古い脳へと移行します。
Anterior cingulate cortex(ACC)は、前帯状皮質と呼ばれる部位
ウキペディアで表示されているACCの部位 ここは、外側からみえる大脳皮質(知的活動)と、大脳辺縁系(記憶、恐怖の処理)を結ぶ中継地点です。
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%89%8D%E5%B8%AF%E7%8A%B6%E7%9A%AE%E8%B3%AA
 
扁桃体は、恐怖を獲得するだけでなく、恐怖への慣れを生じさせたり、消退(Extinction)させる時にも、活性化が起こります。
 
海馬は、恐怖の克服のために重要と思われます。海馬やVMPFC(皮質)は、恐怖の消退の維持に機能しているだろうと想定されているようです。

恐怖の条件付けには、個人差があります。俗に、恐がりの人と、そうでない人の違いです。
又、人の痛みや苦痛の感じ方にも、個人差があります。
これらの研究を通じて得られた別の知見としては、電気ショックなどの刺激に対する痛み、不快感には、個人差が大きいことでした。つまり、弱い刺激でも、強く痛みを訴える人がいる一方で、かなりの刺激まで、不快感の無い人がいることでした。そのため、電気刺激の程度を、検査人ごとに変える必要があったようです。
 
多くの精力的な研究から、不安を感じやすい人は、扁桃体と島が活性化しやすい人であり、それを調節しているのは、大脳の前頭葉皮質、前帯状皮質であり、この脳の各部位が相互に活性化し、神経細胞間にサーキット(電気)が廻っている様子が、画像的に証明されました。神経シナプスを介して、刺激しあったり、抑制しあったりしているものと思われます。
 
恐怖の条件付けに関する脳機能に関して、もうひとつ別の、論文を紹介します。この論文も、多数の論文をレビューしたものです。Am J Psychiatry 163;10.2007
 
この論文は、恐怖をfMRIで調べた過去の複数論文の結果を評価したものです。メタアナリシスと呼びます。

対象は、恐怖に関連する病気(PTSD外傷後ストレス症候群、社会不安、恐怖症)を持つ人たちと、健康人たちでした。この人たちに、恐怖の条件付けを行い、画像を評価しました。
 
この論文の結果によると、健康人と比較すると、恐怖症の人は、脳内で活性する部位は、健康人と共通して、扁桃体、島などでしたが、その活性化の程度は強くなっていました。
 
画像的に特異的だったことは、PTSDの人の恐怖時の画像でした。
PTSDでは、扁桃体での活性化は増強していましたが、ACCの背側など、大脳皮質に低反応の部分が認められたことでした。PTSDの人では、前帯状皮質の背側やrostral(くちばし状)部分で活性が低下し、従って、扁桃体が活性しても、同時に活性化するはずの前頭葉、ACCでの活性化を伴っておらず、脳内アンバランスがおきていました。
 
この結果より、PTSDでは、大脳皮質による緩和や修飾活動が低下していることを示していて、脳内の活性化のアンバランスが、画像的に見てとれました。つまり、より病的な所見とみなせるのではないかと想定されました。
 
一方、他の社会不安症や恐怖症の人では、恐怖の活性化が高まった状態であり、これは健康人でも観察される所見で、低活性化となる部位は乏しかったです。つまり、島皮質や、ACC皮質での低活性化は、他の恐怖症では、観察されませんでした。