お久しぶりです、生きてます。完全放置になっててもうしわけない。二次創作系はピクシブが基本になりましたが、一部こちらにもアップしていこうかと思います。あまりリアルの調子はよくないし時間もないのですが、なぐさみに……


というわけで需要のないサスいの ぴくしぶからまんまもってきました(笑)


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 蝉の声が脅迫的に鳴り続けている。
 夏休みが明けて木の葉の忍者アカデミーは二学期を迎えたが、厳しい残暑のためか生徒たちは総じて覇気がなかった。他を大きく引き離して異彩を放つ優等生で居続けているサスケも、登校初日から既に何もかもにうんざりしていた。茹だるような暑さ、自分に比べると全く子供じみて騒々しいクラスの「ガキども」、心を休ませぬこの蝉の喚き合い、それに次の授業の予告――……。
「女と組手だと……」
 次の実戦の授業では、男女対抗で組手をする旨を告知された。
 まず、忍の世界においても一般社会と同様、男女差がないということはない。しかしその男女差とは、活躍できる局面が勿論個人差はあるにせよ異なるという程度の話ではある。男顔負けのスタミナと筋力で素晴らしい体術を誇るくノ一だっているし、体術は不得手だが緻密なチャクラコントロールで抗しがたい幻術を用いて敵を翻弄する男の忍も沢山いる。しかし一般的には男のほうが力仕事に向いていて、女のほうが繊細な仕事が得意であるという通念がある。まだアカデミーに通っている年頃では男女の体格差など殆どないし、男子生徒より背の高い女子生徒など珍しくもなかったのでサスケの不服は少し先走り過ぎているのだが、それでも女子生徒のほうが体術が得意でない者が多いのは事実であった。とはいえ……。
「まぁ、どいつでも物足りねぇのは変わらないがな……」
 と、闇夜と己を隔てる窓ガラスに鋭利に輝くその瞳を細めて映しながらサスケは一人ごちた。

 その日も矢張り無数の日差しの矢が降り注いで、演習場に集まったアカデミー生たちは銘々がそれぞれに固有な方法で不満を表現していた。とはいえ、「あっちぃーー!」と騒ぎまわっているナルトは更に暑気を激化させる原因のようで、益々周り――特に女子の面々――からの目は冷たかった。
「アイツこんな時もうっさいわねー」
 晴れ渡った空の色と同じ目を塗しそうに眇めながらいのは眉を寄せて呟いた。やはり淡い若草色の瞳のサクラも眩しげにしながら、迷惑そうに頷いていた。ただ、白く穏やかな目の中に愛慕の情を乗せたヒナタだけが、誰にも聞こえなかったけれどか細く「わ、私……いつも元気なのはいいことだと思うよ……」と呟いていた。

「さて、今日は予告した通り男女対抗で組手を行う!その意義は説明した通り……」
 皆を集めたその前に、今日はくノ一の教師スズメを伴ったイルカが授業を始めようとするが、その目はソワソワと桜色の髪を追っている問題児の浮ついた表情をすぐに捉えた。
「……ナルト!言ってみろ!」
「え?」
「え?じゃない!今回の男女対抗組手の意義を――」
「あ、それ!それ!先生、俺サクラちゃんとがいいってばよ!!」
「はぁ?!アンタうざい!」
 完全に話を聞いていなかったどころか特定の対戦相手まで所望したナルトに教師二人は頭を抱え、指名されたほうは形相を鬼のようにして威嚇をはじめ、その他諸々は失笑するなり大笑いするなりはやし立てるなりで、もうとてもまともな授業になるとは考えられない有様であった。そんな騒ぎの中でサスケの憂鬱は益々深まっていく。
「お前に聞いたのが間違いだった……サスケ、いってみてくれ」
 と、そんな中でもおよびがかかったものだから、サスケはしぶしぶ仏頂面で立ち上がると口を開いた。
「忍の世界で任務に出れば、男も女もない。男女で偏りがちな忍術、体術、幻術の得手不得手のバランスを味方同士の演習で補い合い磨くことで、長所を鍛え弱点を克服すること。今回は体術に限り、女子のほうが不利なようだが、異なる体の特性を生かした戦い方を女子は学び、男子はそれに対抗する術を学ぶこと」
「うむ、その通り」
 と、満足げなイルカの反応が聞こえるか聞こえないかのうちにもう女子からは黄色い歓声が上がっている。流石サスケくん!とか、私の弱点はサスケくん!とか、それはもうサスケ当人にしてみれば雑音でしかなかったが、その中にはナルトの思い人も、その親友もいた。
 そうこうするうちにルールの説明がはじまる。今回は体術に限定した演習なので、使って良いのは体術とクナイ・手裏剣の類だけである。最初の対戦相手は既に教師のほうで男女でアミダくじを作り全く作為のない線を入れて決めてしまってあるという。というわけで最初の対戦者が発表された。先ずその時点でサスケは軽く失望した。せめて普段から多少は優秀な者か、出来ればあの体術の名家日向家の長女であるというヒナタくらいと手合せがしたかったが、サクラやらいのやらとよくいがみ合っている自分の取り巻き連の一人だったか、というくらいの認識しかない相手との対戦だった。ところで、そのヒナタは何と初戦敗退であった。ナルトと対戦が決まり、向かい合って開口一番、ナルトが「俺は負けねーってばよ!」と拳を向けて言い放った途端顔面を真っ赤に染めて気絶してしまったということだった。
「みんなー!この暑さだ、水分補給はしっかりするんだぞ!」
 と、女心を解っていないイルカがヒナタを保健室につれていって戻るや注意を振り撒いたが、スズメのほうは意外と鋭いのか溜め息を漏らしていた。
 体術に覚えがありそうな相手は不戦敗を喫してしまったし、しかもその後もサスケが当たる相手は大体が似たようなものであった。しかも何よりも腹が立つのは、 大抵が自分を憧れの異性と認定しているためなのか、もじもじしたり嬉しがったり、どうせそこまで戦えるわけではないにしても本気で向かってこようとしないことであった。サスケがちょっと手刀でも向けようものなら申し訳程度に防御をしてすぐに参りました、なのである。サスケの優秀さを知っていれば当然の反応ではあるのだが、全く納得がいかなかった。これなら帰って一人で丸太でも相手にしているほうが遠慮なく滅多打ちに出来るだけマシである。
「しゃーん……なろォオオ!!!」
 突然雷撃の如き声が辺りを震わせ、続いて轟音と叫びがあがった。組手なのに抱きつこうとでもしたのか、めでたく対戦相手と決まったサクラに飛び掛かったナルトが容赦のない返り討ちで数メートル飛ばされたところであった。
――バカか……しかし……――
 サクラの体術は別段優れているほうではなかった。ただし、その隠れた腕力は男を凌ぐものがあるらしい。先ほどまで相手にしてきた連中よりは、本気で戦いさえすれば相手になるかも知れない……と絶望の中にも希望を見出したサスケだったが、それも長続きしなかった。サクラは、まともにキバとやり合ってあっさりと力で押されて負けてしまったのである。
「チョウジ!アンタしっかり戦ってったら!」
 と、張りのある声に視線を向ければ、一切手をあげず防戦一方のチョウジに、いのが思いきれない一撃二撃を見舞っては苛々と憤っているところであった。チョウジは断固として、仲間に手をあげないという意地を通しているらしく、きりがないので彼は敗北となった。
――ったく……どいつもこいつも……――
 本当に今日は仮病でも使えば良かった、とサスケは嘆息した。殆ど本気を出すこともなく不本意の勝利を得たいのが、次の対戦相手だった。
「サスケ対いの……両者前へ!」
 山中いの――成績優秀、木の葉の名家山中家の娘。しかし頭の中は大して他の女子と変わらないようで、サスケを取り巻いてはキャアキャアと連中と一緒になって騒いで、少しセンスが良いせいか洒落た格好をしてきては自分の華やかさを振り撒いているようなところがある。とはいえ同性の信頼はあるようで、リーダー格といった存在でもあるらしい。しかしうちはの自分と比べれば飽く迄もそこそこといったところだろう。山中家の秘伝術は今日のルールでは用いられることもないだろうし、面白くない戦いになるだろうと思われた。
「わ~~ん、サスケ君と戦うなんてこわいなー。でもよろしくねっ」
 と、ウィンクなぞしてくるものだからサスケは煙たそうに脇を向いて、はじめ!とイルカの声がかかるまでは目を合わせようともしなかった。しかし、ひとたび戦いの幕が切って落とされるや、辺りの雰囲気はがらりと一変した。
「!」
 サスケは腰を落として軽く身構えたが、突然いのは表情から笑みを消して、思い切り草深い地面を蹴ると無遠慮にサスケの懐を狙って飛び込んできた。構えた手は固い拳を形作り、痛恨の裏拳が振られようとしていた。サスケは僅かに目を瞠ったが、勿論落ち着いてその手をパシ!と小気味よい音をさせて掌で受け、掴んでしまうと相手の勢いを利用して脇へと引っ張り投げた。
「キャッ?!」
 いのの高い悲鳴が弱々しく響いたが、彼女の体の動きはそうではなかった。投げた所を追撃しようとサスケが体勢を整えると同時に、手を突いて一回転するとすぐ手裏剣を取り出してサスケの足元目掛けて投げつけた。彼女は本気で戦っていた。
 無駄な跳躍をすることなくスムーズにそれを横に動いて避けながら俊足でサスケが立ち上がったばかりで姿勢を整え切れていないいのの足許まで一気に詰めて、脛を狙って蹴りを炸裂させようとすると、周りから見るとそれが当たったように見えたのだが、実際は即座にいのは跳躍して、宙で逆さになりながら後方に手をつき全く無遠慮に美しいサスケの顔を狙って蹴りを繰り出した――とはいえそれは顎を掠っただけであったが。瞬時に身を引いたサスケは、宙から地面へと足を戻す最中で隙だらけのいのの着地を狙い、クナイを握る瞬間を捉えて飛び掛かった。
「あっ……!」
 ドサッ、と鈍い音が、戦いを見守っていた周りの静寂に響く。クナイを持ったいのの手はサスケに捉えられ、そのまま地面に体は倒され、起き上がれないように首に腕を押し当てられ、膝で腿を固定されていた。大きく見開いたいのの瞳が、サスケの漆黒の涼やかな瞳を捉える。青と黒が交錯した。暫く誰も声を発さなかった。
「あの……イルカ先生」
 何故か少しばかり居心地が悪そうにしてスズメが呆然としてるイルカをつついたので、彼は我に返り、慌てて片手をあげた。
「しょ……勝者、うちはサスケ!」
 まばらな拍手が始まり、やがて大きな拍手の共鳴へと変わった。
「いのもよくやったな。皆相手がだれであろうとこのように本気で戦うことを忘れずにな……あ、もう終わりだからいいぞ。せいれーつ!」
 二人はしばらく、その姿勢のままであった。しかし二人の戦いが予想に反して激しかった為か、いつもならば「サスケ君から離れろいのぶたー!」とでも言いそうなサクラも押し黙っていた。腕の痛みに呻いたいのの声でサスケも漸く我に返り、はっとして彼女への拘束を緩めて立ち上がった。その手首は軽く赤い痕がに彩られていた。
「悪い……つい」
 ばつが悪そうにサスケが手を差し出すと、いのは微苦笑して「ありがとう」とその手をとった。そのまま静かに立ち上がると思われたが、その瞬間青空の瞳には悪戯の火が燃えた。
「サスケくんやっぱつよーーーーい!!」
 差し出したサスケの手を全く無遠慮な力で引くと、不覚にも重心が不安定になったサスケにいのは思い切りみんなの眼前で抱きついたのであった。
「ッ……!!!!」
「い、いの豚ーー!!!」
「ふふーん、アンタも勝ち残れたらね~~~デコりんちゃ~ん?」
 いのを引きはがしにかかったサクラその他女子連にまでサスケは囲まれて、気が遠くなった。空を見上げれば、先ほど出会った澄み渡る青の瞳に包まれているようだった。

 その夜、一人サスケは静寂に包まれて、今日顎先につけられたかすり傷に触れながら漆黒の夜空を仰いでいた。しかし一度この暗い瞳に映された澄明な青は、金色の光と共に当分消えそうにもなかった。ひとりでに浮かぶ微笑にも気が付かず、少女の天真爛漫な笑みを次の日から眩しく感じるようになることも知らずに――。