そうだ、米国で医者やろう~♬ -17ページ目

そうだ、米国で医者やろう~♬

米国ボストンで循環器内科フェローをしています。心臓集中治療の分野と美味しいご飯処を世界に広めるのが目標です。

 

「病棟拡大に人的資源が追い付かず・・・」

 

人工呼吸器と集中治療室のベッドが不足して、急遽、重症新型コロナウイルス患者用病棟が新設されました。

 

患者は最大40人(通常30人くらい)。NPPV療法(非侵襲的酸素療法)という強力な酸素療法を必要とする患者のためにつくられた病棟なのでもちろん全員重症です。

 

酸素マスクを外すと数分のうちに亡くなってしまうような患者さんたちです。急遽できた病棟だったため稼働し始めてから様々な問題が浮上しました。

 

急な病棟拡大に伴い、一時的に院内でスタッフが足りなくなりました。わたしの病棟も同様です。重症患者約30人を医師2名、看護師3名、看護助手1-2名、呼吸療法士1名で担当しました。医師1名は1年目(正確にはインドでずっと眼科をやっていたのでもっと上ですが)。そして医者5年目のわたし。看護師は別の病棟から派遣された人たち。精神科で働く看護師もいました。

 

もちろん誰も酸素療法の使い方を知っているわけもないし、それを責めるわけにもいきません。なので、実際に酸素療法を管理できるのはわたしと呼吸療法士の二人となりました。人手が足りません。

 

そして、なによりも困ったのは部屋の外から患者が無事か全くわからないこと。感染対策でドアは完全に閉ざされており、夜間は特に部屋の奥は真っ暗なので中が全くみえません。

 

普通であれば酸素療法の必要な患者にはテレメトリー(以下、モニター)といって、遠隔モニターで酸素化などの情報を確認することができます。しかし、モニターの供給が間に合わず患者の状態を遠くから確認する方法がなくなりました。

 

 

中の状況が確認できない新型コロナウイスル感染者用の病室

 

 

「人手不足 苦肉の打開策」

 

新型コロナウイルス(以下、コロナ)の患者の特徴はだらだらとした重い風邪症状が続いたのち、一週間ほどしてから急激に酸素化が悪化することです。ものの数時間で手が付けられなくなるほど悪化して心臓が止まってしまう患者もいます。


さらにたちが悪いことに酸欠の割に症状が薄いので、酸素マスクを外してしまう患者さんも多くいらっしゃいました。


どうしてもスタッフ不足で目が行き届かず、これらが原因と思われる院内急変が多発していました。

 

パンデミックによる医療崩壊だから仕方ない・・・。そんな簡単に割り切れるものでもありません。

 

個人防護具(PPE)、病床、人工呼吸器といった供給に関しては現場がどうこうしても解決するものでもありません。しかし、「人的資源」はその点例外です。スタッフが足りなければその分自分たちが働けばいい。完全に発想としてはブラック企業のそれですが、現場の働き次第でより多くの患者が助かるのであれば仕方ありません。

 

本来、患者の血圧や酸素の状態を確認するのは看護師・看護助手の担当業務ですが、彼らだけでやるのは現実的に不可能でした。というのも、コロナの場合、患者と接触する際は感染防止に努めなくてはなりません。非常に呼吸がしづらいN95マスクを装着し、密閉性の高いガウンを着て、視界の悪いフェイスシールド越しに患者をみます。これだけでも一苦労です。この作業を少なくとも1時間おきにやらないといけません。無理です。

 

辛すぎて泣き出す看護師もいました。これは医師だの看護師だの言っている場合ではないと判断し、職種の垣根を越えて、医師が負担の肩代わりをすることにしました。医師の通常業務に加えて、患者の状態を2-3時間毎に確認する。当然のことながら12時間の勤務のなかで休憩時間はなくなりました。

 

(続く)

 

 

 

2時間ごとの病棟回診をするわたし

 

 

 

 

 

 

3月末になると、コロナの診療にあたる医療従事者の間で共通の見解が生まれました。

 

「この未知なるウイルスはやばい」

 

他の感染症とは比較にならないほど感染力が高い。その上、いままで見たどんな病気よりも重症化して死に至る。

 

(のちの統計によるとNY市では高齢な入院患者の約25%、人工呼吸器が必要な方は80%以上が亡くなりることが判明)

 

院内急変放送もひっきりなしに鳴り響き、死亡診断書を書かない日はなくなりました。

 

病院によっては亡くなったご遺体の処理が間に合わなくなり一時的にストレッチャーに置かれたままになる事態も発生。幸い当院ではそのようなことはありませんでしたが、そのようなことが起きても全く不思議でない状況でした。

 

NY市では飲食店の営業を停止したり外出自粛を早期から導入しましたが、その甲斐むなしく、患者の爆発的増加を止めることはできませんでした。

 

集中治療室(ICU)を3倍に増設したにも関わらず、またたくまにベッドは埋まり、人工呼吸器は供給が追い付かず足りなくなる事態がついにやってきました。

 

人工呼吸器を使用している患者さんが亡くならないと次の患者のための人工呼吸器が足りない状況です。普通の適応で人工呼吸器を始めることはもちろんできずなるべく人工呼吸器を避けるように治療をするようになりました。


(UPTODATEの推奨は早期の挿管ではありますが)


(倫理的葛藤に関しては詳しく後述)

 

そのために、まずはリザーバーマスク15Lに鼻カヌラ6Lで粘り、それがだめならNPPV療法(非侵襲的酸素療法)という強力な酸素療法を限界の設定まで上げて、それでもだめならば挿管して人工呼吸器での治療を始めるという流れになりました。

 

NPPV療法は医療従事者への感染リスクが高いため、特殊な陰圧室で管理するする必要があります。なので、新しくNPPV療法を必要とする重症コロナ患者のための病棟が新設されました。

 

 

 

リザーバーマスク。供給がたくさんあったので使い勝手良し。(Google Imagesから)

 

 

 

いわゆるNPPV療法の一つBiPAP療法。通常の酸素より強力な酸素を供給できる(Vapothermのホームページより)。

 

 

人工呼吸器による治療。チューブが気管に入るのが大きな違い(Medscapeより)。

 

 

 

そんな激動の中、一つのニュースが流れました。関連病院の看護師長が若くしてコロナにかかり亡くなったのです。あまりにも突然の知らせに驚きととみに胸を痛めました。

 

と同時に、コロナがあまりにも身近な問題であるということを嫌でも感じさせられました。周りの医療従事者もバタバタとコロナに倒れ、病欠の人をカバーする人がいなくなる事態まで発生しました。

 

そして、ついに自分のスケジュールも急遽変更されて、新設された重症コロナウイルス患者のための病棟に配属されることとなりました。

 

 

 

 

 

 

 

 

NYの病院で医師をしています。

 

新型コロナウイルス(以下、コロナ)大流行の最前線で働いた末、自分自身もコロナに感染しました。

 

コロナの患者が爆発的に増えて医療資源が不足。普通では考えられない状況に陥った上に、倫理的に難しい判断を強いられることがありました。また医療従事者含む多くの方が亡くなりました。

 

わたし自身の苦い経験を通して、少しでもコロナの怖さや医療崩壊のことを知ってもらえたらと思います。

 

 

****

 

2020年3月1日、ニューヨーク(NY)で最初のコロナ感染者が確認されました。

 

その日は集中治療室で夜勤をしていました。

 

「ついにNYにもコロナがきたか、もしかしたらNYは人口密集しているから流行るのかなぁ」

 

同僚と呑気に患者の採血結果を確認しながら雑談をししてました。このときは日本の方が流行っていたので、NYのことより日本の心配をしていました。もちろん、このときは担当患者にコロナ患者はいませんでした。

 

その後、特にNY市で流行することはなく、3月9日からは2週間の外来勤務が始まりました。ウエストチェスターという郊外で若干名の感染が確認されたのを受けて、早くから外来でも対策を取ることになりました。

 

カンファレンスは全て中止。緊急でない外来患者の予約は感染防止の観点から全てキャンセルとなりました。緊急な方は例外的に原則診察するという決まりでした。

 

3月13日、うちの関連病院で初めてコロナの感染が見つかりました。NY市では計95人の感染が報告されたことを受けて、非常事態宣言が発令されました。840万人中95人。正直なところ大袈裟な宣言じゃないかと思いました。

 

その証拠に翌日の当直では、コロナ患者は一人もいなかったので、まだコロナを身近なものとして感じることはできませんでした。

 

3月16日の週、状況は一変しました。最初の数日はコロナ疑いの患者が来院した際には、「ついに来たか」と話題になりました。しかし、そんな暇もないほど、瞬く間に日に日に患者は爆発的に増えました。

 

外来はすぐさま遠隔診療に移行。最低限必要な人員は外来に残して、残りは病棟のバックアップわ病欠になった人のカバーに配置されることとなりました。

 

コロナ疑い患者を診察する際のプロトコルが作成され、感染対策チームもすぐさま結成されました。

 

3月22日、久しぶりに入院患者の担当をしました。驚愕しました。一週間前とは別世界。一人もいなかったはずのコロナ患者がいつのまにか全体の約8割を占めていたのです。その日の新規入院も全てコロナでした。遅らせながら自分の肌でようやくパンデミックを感じた瞬間でした。

 

NYではコロナの流行を受けて病床数を増やすことになりました。幸い当院はキャパシティがあったので、段階的に病棟・ICU(集中治療室)を増設して、最終的におよそ当初の2-3倍に増えました。

 

はじめのうちは「よし、コロナ病棟を作ろう」というテンションで、新たに二つの病棟を作り、コロナ患者専用としました。

 

その後、衝撃の事実が判明しました。

 

コロナの患者は他の疾患の患者と比較して退院に時間がかかるのです。

 

普通の疾患よりも回復に時間がかかるだけでなく、コロナの患者は一定期間リハビリ施設やホームレスのためのシェルターといった施設に受け入れていただけないケースが続出しました。

 

(注: 最近のJAMAの疫学研究だと入院期間の中央値は4日であまり他の疾患と大差なし。若干の感覚との乖離あり。)

 

コロナの入院患者の割合がどんどん増えていき、最終的には入院患者の9割近くがコロナの患者になりました。

 

そのため、当初の「コロナ病棟を作ろう」という概念はほぼなくなり、いつのまにか「最低限、非コロナ病棟を確保する」という方向にシフトチェンジしました。

 

結果、少なくとも一つの病棟、3―4つあるうちの1つのICUは非コロナ患者専用となりました。

 

しかし、ここでもさらに問題は発生しました。というのも非典型的な症状で来院されるコロナの患者がたくさんいたのです。

 

失神・味覚障害・心臓発作など。いまはもう知られてはいますが、当初はコロナの症状として広く知られているわけではなかったので、非コロナ病棟に入院した数日後に呼吸器症状を発症してはじめてコロナの感染が発覚するケースもありました。

 

またコロナかどうか微妙なケース(振り返ると全部コロナだったと思われる)の場合でも当初は検査をせずに非コロナ患者として治療にあたることが多くありました。というのも、最初のうちはPCR検査がやりづらい空気があったからです。

 

当初は検査キットやコロナ用のベッドが十分にあったわけでもないし、検査をするにあたっては、結果が返ってくるまでコロナ患者として特別な部屋に一定期間入れないといけませんでした。なので、微妙なケースだと検査をオーダーすることに躊躇してしまうことが多くありました。

 

こういった背景もあって、ときには感染対策チームにアドバイスを仰ぐこともありましたが、当初は感染症チームもあまり経験がなかったせいか、色々話した末に結局検査をすべきなのかどうかよくわからないこともありました。

 

だんだんと医療従事者側もコロナという病気を感覚的に理解し始めて、どんな理由で来院した患者も基本的にはコロナとして診療にあたるようになってきました。

 

基本的に入院患者は全例PCR検査。コロナを疑う症状が全くなく、検査結果が陰性の場合のみ非コロナ病棟への入院となりました。

 

逆にPCRは完璧な検査ではないので、PCRの結果が陰性でも少しでもコロナを疑う場合はコロナとして治療しました。

 

不思議なことにコロナが流行してからは以前見ていたような疾患で入院する患者が激減しました。

 

心臓病やコロナ以外の感染症など。ハッキリとした理由は分かりません。もしかしたら本来心臓病になるはずだった人がコロナになったのかもしれません。あるいはコロナの感染を心配した患者の足が病院から遠のいた可能性もあります。

 

兎にも角にも、コロナ以外の病気が減ったことは確かで、それも相まって、診察する患者はほぼほぼコロナになりました。

 

院内では密かに「人を診たらコロナだと思え」という言葉が広まりました。

 

そうこうしているうちに病院はコロナの患者で埋め尽くされました。病棟も新設されて人手が必要になり、わたしの仕事のシフトも全て変更になりました。

 

もともと、まったりとしたスケジュールでしたが、急遽、新設される重症コロナ患者用の病棟で夜勤をすることになりました。これがのちに医療崩壊を象徴する地獄のような日々になるとはまだ知る余地もありませんした。

 

(次回に続く)

 

 

 

 

 

 

 

 

追記:

日本の場合、病棟の確保に関しては国レベルで動いているようです。コロナを診る病院と診ない病院に分けて、軽症な方はホテルなどに収容されるという話を聞きました。

 

恐らく、完全な素人私見ですが、国内の発生数をトレンドすると、日本はかなり健闘していていて、このままいけば大きな流行はなく第一波は抑えられるような気がします。なので、現在の対策で良いかもしれませんが、第二波が起きて患者が爆発的に増えたとき、いわゆるオーバーシュートが起きた際に対応ができるか心配です。

 

非コロナの病院でもコロナ患者は大量発生するだろうし、そもそも入院病棟自体が足りなくなってしまうのではないでしょうか。

 

日本の一人当たりの病床数はかなり多いはずなので、オーバーシュートしたらコロナ/非コロナなどの区分を緩和して、どうにか病床数を増やせる気もしますが不安は拭いません。おそらく、専門家や医師会が今後色々議論すると思うのであれですが、常に最悪の事態、パンデミックなった場合を想定して準備することは大切だと思いました。