「人生会議」
新型コロナウイルスが蔓延。以前にも増して、うちの病院では、万が一の事態が起きたときのために、入院時に患者さんと話す機会が増えました。いわゆる「Advance Care Planning, 人生会議」といわれるものです(1)。
自分で意思決定ができなくなったときのために、家族や医師を交えて話し合いをして取り決めをします。取り決めの内容(Advance Directives, 事前指示)は色々ありますが、その中でも入院患者でもっとも大切なのが蘇生の意思表示です。状態が悪くなった際に挿管や心臓マッサージといった侵襲的な手技を望むかどうか。
本来であればかかりつけ医・患者・家族が主体となって時間をかけてゆっくりとイメージを共有して患者さんの最善のゴールを模索していくのが理想なのですが、パンデミック下では理想と現実に大きな乖離があります。そこをどのようにして埋めていくか考えなければなりません。
コロナの場合、普通の病気と違って挿管や心臓マッサージによって救命できる可能性が非常に低いという厳しい現実があります。それに加えて、医療従事者の感染リスクや医療資源の問題もあります。
なので、どんな患者さんでも入院したときにしっかりと腰を据えて蘇生の意思について話し合わないといけませんでした(2)。
ときに、ご高齢な方や基礎疾患がある方などで侵襲的な手技が明らかに患者の為にならないと判断した場合はDNR・DNI(Do Not Resuscitate・Do Not Intubate; 心臓マッサージや挿管をしない意思表示)を勧めるケースも増えました(前回述べたインフォームドアセントというアプローチ)。
通常、倫理的に複雑なケースは緩和医療の専門家が舵をとって話し合いの場を設けてくれるのですが、患者が爆発的に増えてしまったため、すべての患者に対して緩和医療科が介入することが不可能になりました。当院は全米でも有数の緩和医療プログラムを有する病院なので、うちで人手不足だとすれば、ほかの病院もどこもそうだったのだと思います。
そこで、当院では緩和医療の専門家だけでなく、専門外の医師でも倫理的に難しい状況に対応できるように話し合いの進め方の指針が配布されました(2)。
わたしの場合も緩和医療の専門家ではないので、事前に資料をしっかりと確認して、患者・家族と話し合いの場をセッティングしました。そして、詳細に価値観や死生観などを伺ったのち、具体的な数字と簡単な言葉を使って病状を解説した上で、全員の意思を伺いました。
「人生会議の先進国、アメリカ!?」
すると驚くことに多くの患者やご家族は過度の延命治療は望まないという返答をしてきたのです。高齢な方はもともとDNR・DNIの意思を表明している方も多くいました。そうでない方もあらかじめ事前指示書を作成している方が多かったので円滑に話が進みました。
正直なところ、パンデミック下で無力な医療従事者に憤りを覚えるのは当然だし、患者家族から批判されるような事態も想定していました。しかし、それどころか、話し合いの最後には医療従事者への感謝の言葉を頂くことも多くあり、患者さんには感謝の気持ちでいっぱいになるとともに、未知なるウイルスを前に何もできない自分たちが情けなくなりました。
しかし、なぜこんなにもすんなりと話し合いが円滑に進んだのか。
一番の理由は米国で「人生会議」の概念が国民に浸透していることが挙げられると思います。
2007年に米国で行われた研究によると高齢者のおよそ70%は蘇生の意思などの意思表示を示した事前指示書を作成していたという報告があります(3)。また、事前指示書を作成した人の96%が過度な延命は望んでいなかったという報告もあります(感覚より少し多い気はします)(4)。つまり、米国の高齢者の多くが人生会議を行い、その多くが過度な延命を望んでいないということです。
米国では広く人生会議の概念が浸透してしています。しかし、他国では人生会議はまだまだ認知度も低いのが現状です。特に、日本では事前指示書を作成している一般国民の割合はなんとたったの3.2%(1, 5)。厚労省や医師会が中心となって活動してますが、残念ながら人生会議の概念は普及してません(写真1、2)。
人生会議をしておくといいことがたくさんあります。自分が望む最治療を受けたり、望む場所で最後のときを過ごすことができたり、苦痛の軽減をすることができたり(3, 6)。なので、人生会議をして事前指示書をあらかじめ作成しておくことは非常に大切です。
ぜひ、このコロナの世界的パンデミックを期に一人一人が最期のときをどう過ごしたいか考えていただけたら幸いです。
それを後押しするうえでも、なぜ、こんなにも日米で解離ががあるのか考えないといけません。米国の医療システムを紐解いて、日本が抱える問題を浮き彫りにして解決策を模索していきたいと思います。
(続く)
写真1. 日本医師会のマスコット「日医くん(石川県バージョン)
写真2. 内容は良いのに笑い要素を入れてしまい炎上した厚労省のポスター
参考文献:
1. 厚生労働省ホームページ. https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_02783.html. Last accessed on 5/27/20.
2. COVID Collaborative Resources. Vitaltalk. https://www.vitaltalk.org/topics/covid-collaborative-resources/. Last accessed on 5/27/20.
3. Teno JM, Gruneir A, Schwartz Z, Nanda A, Wetle T. Association between advance directives and quality of end-of-life care: a national study. J Am Geriatr Soc. 2007 Feb;55(2):189-94.
4. Silveira MJ, Kim SY, Langa KM. Advance directives and outcomes of surrogate decision making before death. N Engl J Med. 2010 Apr 1;362(13):1211-8.
5. 人生の最終段階における医療に関する意識調査. 厚生労働省ホームページ https://www.mhlw.go.jp/toukei/list/saisyuiryo.html. Last accessed on 5/27/20.
6. Molloy DW, Guyatt GH, Russo R, Goeree R, O'Brien BJ, Bedard M, et al. Systematic implementation of an advance directive program in nursing homes: a randomized controlled trial. JAMA. 2000 Mar 15;283(11):1437-44.





