そうだ、米国で医者やろう~♬ -16ページ目

そうだ、米国で医者やろう~♬

米国ボストンで循環器内科フェローをしています。心臓集中治療の分野と美味しいご飯処を世界に広めるのが目標です。

「人生会議」

 

新型コロナウイルスが蔓延。以前にも増して、うちの病院では、万が一の事態が起きたときのために、入院時に患者さんと話す機会が増えました。いわゆる「Advance Care Planning, 人生会議」といわれるものです(1)

 

自分で意思決定ができなくなったときのために、家族や医師を交えて話し合いをして取り決めをします。取り決めの内容(Advance Directives, 事前指示)は色々ありますが、その中でも入院患者でもっとも大切なのが蘇生の意思表示です。状態が悪くなった際に挿管や心臓マッサージといった侵襲的な手技を望むかどうか。

 

本来であればかかりつけ医・患者・家族が主体となって時間をかけてゆっくりとイメージを共有して患者さんの最善のゴールを模索していくのが理想なのですが、パンデミック下では理想と現実に大きな乖離があります。そこをどのようにして埋めていくか考えなければなりません。

 

コロナの場合、普通の病気と違って挿管や心臓マッサージによって救命できる可能性が非常に低いという厳しい現実があります。それに加えて、医療従事者の感染リスクや医療資源の問題もあります。

 

なので、どんな患者さんでも入院したときにしっかりと腰を据えて蘇生の意思について話し合わないといけませんでした(2)

 

ときに、ご高齢な方や基礎疾患がある方などで侵襲的な手技が明らかに患者の為にならないと判断した場合はDNRDNI(Do Not Resuscitate・Do Not Intubate; 心臓マッサージや挿管をしない意思表示)を勧めるケースも増えました(前回述べたインフォームドアセントというアプローチ)。

 

通常、倫理的に複雑なケースは緩和医療の専門家が舵をとって話し合いの場を設けてくれるのですが、患者が爆発的に増えてしまったため、すべての患者に対して緩和医療科が介入することが不可能になりました。当院は全米でも有数の緩和医療プログラムを有する病院なので、うちで人手不足だとすれば、ほかの病院もどこもそうだったのだと思います。

 

そこで、当院では緩和医療の専門家だけでなく、専門外の医師でも倫理的に難しい状況に対応できるように話し合いの進め方の指針が配布されました(2)

 

わたしの場合も緩和医療の専門家ではないので、事前に資料をしっかりと確認して、患者・家族と話し合いの場をセッティングしました。そして、詳細に価値観や死生観などを伺ったのち、具体的な数字と簡単な言葉を使って病状を解説した上で、全員の意思を伺いました。

 

「人生会議の先進国、アメリカ!?」

 

すると驚くことに多くの患者やご家族は過度の延命治療は望まないという返答をしてきたのです。高齢な方はもともとDNRDNIの意思を表明している方も多くいました。そうでない方もあらかじめ事前指示書を作成している方が多かったので円滑に話が進みました。

 

正直なところ、パンデミック下で無力な医療従事者に憤りを覚えるのは当然だし、患者家族から批判されるような事態も想定していました。しかし、それどころか、話し合いの最後には医療従事者への感謝の言葉を頂くことも多くあり、患者さんには感謝の気持ちでいっぱいになるとともに、未知なるウイルスを前に何もできない自分たちが情けなくなりました。

 

しかし、なぜこんなにもすんなりと話し合いが円滑に進んだのか。

 

一番の理由は米国で「人生会議」の概念が国民に浸透していることが挙げられると思います。

 

2007年に米国で行われた研究によると高齢者のおよそ70%は蘇生の意思などの意思表示を示した事前指示書を作成していたという報告があります(3)。また、事前指示書を作成した人の96%が過度な延命は望んでいなかったという報告もあります(感覚より少し多い気はします)(4)。つまり、米国の高齢者の多くが人生会議を行い、その多くが過度な延命を望んでいないということです。

 

米国では広く人生会議の概念が浸透してしています。しかし、他国では人生会議はまだまだ認知度も低いのが現状です。特に、日本では事前指示書を作成している一般国民の割合はなんとたったの3.2%(1, 5)厚労省や医師会が中心となって活動してますが、残念ながら人生会議の概念は普及してません(写真1、2)。

 

人生会議をしておくといいことがたくさんあります。自分が望む最治療を受けたり、望む場所で最後のときを過ごすことができたり、苦痛の軽減をすることができたり(3, 6)。なので、人生会議をして事前指示書をあらかじめ作成しておくことは非常に大切です。

 

ぜひ、このコロナの世界的パンデミックを期に一人一人が最期のときをどう過ごしたいか考えていただけたら幸いです。

 

それを後押しするうえでも、なぜ、こんなにも日米で解離ががあるのか考えないといけません。米国の医療システムを紐解いて、日本が抱える問題を浮き彫りにして解決策を模索していきたいと思います。

 

(続く)

 

写真1. 日本医師会のマスコット「日医くん(石川県バージョン)

 

 

 

写真2. 内容は良いのに笑い要素を入れてしまい炎上した厚労省のポスター

 

参考文献:

1.         厚生労働省ホームページ. https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_02783.html. Last accessed on 5/27/20.

2.         COVID Collaborative Resources. Vitaltalk. https://www.vitaltalk.org/topics/covid-collaborative-resources/. Last accessed on 5/27/20.

3.         Teno JM, Gruneir A, Schwartz Z, Nanda A, Wetle T. Association between advance directives and quality of end-of-life care: a national study. J Am Geriatr Soc. 2007 Feb;55(2):189-94.

4.         Silveira MJ, Kim SY, Langa KM. Advance directives and outcomes of surrogate decision making before death. N Engl J Med. 2010 Apr 1;362(13):1211-8.

5.         人生の最終段階における医療に関する意識調査. 厚生労働省ホームページ https://www.mhlw.go.jp/toukei/list/saisyuiryo.html. Last accessed on 5/27/20.

6.        Molloy DW, Guyatt GH, Russo R, Goeree R, O'Brien BJ, Bedard M, et al. Systematic implementation of an advance directive program in nursing homes: a randomized controlled trial. JAMA. 2000 Mar 15;283(11):1437-44.

 

 

「患者の命・医療資源・医療従事者の感染リスク」

 

病棟患者の酸素状態を確認し終えると、新しく入院する患者の診察にあたります。

 

夜間の入院は一日あたり内科全体で10-15人。わたし自身で担当する患者は3-5人でした。殆どの入院は新型コロナウイルス(コロナ)患者でした。ちなみに2週間でコロナ以外の原因で入院された患者はたった1人だけ。

 

普段は診断をつけるまで苦労しますが、どんな症状で来院しても結局はコロナにたどり着くので診断に困ることはありませんでした。しかし、その分、患者の命・医療資源・医療従事者の感染リスクという倫理的葛藤の狭間で常に頭を悩まされました。

 

というのも、コロナは感染力が非常に高いだけでなく、致死率が今まで見たことがないほど高いのです。ニューヨーク市(NY市)ではコロナ入院患者の約4人1人が亡くなります(1)。 酸素化が悪化して、人工呼吸器に繋がれると、約90%が亡くなります(2)。さらに、一旦、心臓が止まってしまえば、胸骨圧迫で蘇生できる可能性は限りなく低くなります(私見)。

 

このような高い致死率とは裏腹に挿管や胸骨圧迫といった手技は医療従事者の感染リスクが非常に高く危険を伴う上に、これらの手技は非常に侵襲性が高いため、患者さんにとっても大きな苦痛を与えます。こんな葛藤にさらにとどめを刺してくるのは医療資源です。

 

パンデミック下では大量の重症コロナ患者が押し寄せます。教科書通りの適応で挿管して人工呼吸器をしようするとすぐに人工呼吸器は枯渇して集中治療室はパンクします。もし人工呼吸器が枯渇したときに、人工呼吸器があれば助かる見込みの高い若い健康な人が入院したら・・・。

 

この最悪のシナリオを回避すべく、裏で支えていたのには医療従事者たちの倫理的葛藤です。実際、当院でも人工呼吸器が絶対的に必要な緊急時になくて挿管できないという状況になりませんでした。

 

しかし、この最悪の状況に陥らないようにするために、医療者が資源を節約するように努めました。例えば、挿管するか微妙なケースはなるべく挿管せずに治療したり、あるいは、挿管しても助かる見込みが限りなく低い患者さんに関しては、医療従事者側から積極的に蘇生に関する話し合いの場を設けたり、場合によっては蘇生行為を勧めないこともありました。いわゆる「インフォームド・アセント Informed Assent」というやつです。

 

「インフォームド・アセント」

 

米国では入院時に必ず蘇生の意思を確認して記載する決まりがあります。通常であれば、病状をわかりやすく説明して患者さんに決定を委ねます。なぜなら、「普通の病気」であればほとんどの場合、回復するし、重症化した場合も回復する可能性は十分に見込めます。

 

しかし、コロナは残念なことに「普通の病気」ではありません。特に、基礎疾患のある方や高齢な方は挿管されてしまうと回復の見込みは非常に低く、侵襲的治療には患者の苦痛が伴います。それに加えて医療資源枯渇や医療従事者の感染のリスクも潜みます。

 

そこで、再注目されたのが「インフォームド・アセント」という概念です(3)

 

医療者側が総合的に判断して、挿管や胸骨圧迫による蘇生などの侵襲的な治療が患者の利益にならないと判断した際にDNR・DNI(Do Not Resuscitate・Do Not Intubate; 心臓マッサージや挿管をしない意思表示)を勧めて、患者に了承を得るという方法です。

 

一般的には馴染みのない概念でしたが、当院の場合、緩和医療科から医師全員に対して、いかにインフォームド・アセントを用いて会話を勧めていくかという指示書が送られてきたので知れ渡りました(4)

 

しかし、ここで疑問が浮かびます。いったい誰が判断して、どの患者にDNR・DNIを勧めるか?

 

米国にはこれに関する決まりがありません。参考として、パンデミック下で人工呼吸器が枯渇した際にだれを優先的に助けるかというガイドラインはあります。NY州でも2015年に作成されており、より多くの患者を助けるべく、客観的な指標を用いて云々という記載があります(5)。これを基に各病院でも緊急時のガイドラインが作成されています(当院は非公表)。

 

ただ、わたしの知る限りNYで実際にこの緊急時のガイドラインを発令した病院はありませんでした。明らかにNYは医療崩壊していたのにも関わらず・・・。

 

本来であれば、客観的な病院が率先してガイドラインを作成すべきだったのはだれの目にも明らかでした。しかし、医療資源の供給をはじめとした他の問題も多くあったので、病院がここまで手が回らなかったのが現状です。なので、すべてが担当医療チームの判断に委ねられることとなりました。

 

できるだけ客観的に判断できるように、専門機関の推奨を軸に(サンプルを末尾に添付)、患者背景・年齢・基礎疾患・臨床データなどを基に科学的に有用とされる客観的な指標を利用して、インフォームド・アセントを行いました(3, 6)。とはいいつつも主観的な要素はどうしても入ってしまいます。

 

一歩間違えれば、「命の選別」をしていると言われても仕方ありません。

 

医師が患者や家族の代わりに蘇生の選択をしてあげることで、患者・家族は重い責任を負わなくて済むというメリットがあるといわれていますが(3)、医師がその責任の肩代わりをしているだけ。

 

日を追うごとに段々と仕事に向かう足が重くなりました。これが疲労によるものなのか責任によるものなのかはいまいちわからないし、それについて考える気力もなくなってしまいました。

 

(続く)

 

 

  コロナの人員不足で別の科から召集された古い友人と談笑するわたし
 

 

どのような患者にインフォームドアセントをすすめるかという例(Vitaltalkより)

 

どのような患者がハイリスクか(Vitaltalkより)

 

参考文献:

1.         Paranjpe I, Fuster V, Lala A, Russak A, Glicksberg BS, Levin MA, et al. Association of Treatment Dose Anticoagulation with In-Hospital Survival Among Hospitalized Patients with COVID-19. J Am Coll Cardiol. 2020 May 5.

2.         Richardson S, Hirsch JS, Narasimhan M, Crawford JM, McGinn T, Davidson KW, et al. Presenting Characteristics, Comorbidities, and Outcomes Among 5700 Patients Hospitalized With COVID-19 in the New York City Area. JAMA. 2020 Apr 22.

3.         Curtis JR, Kross EK, Stapleton RD. The Importance of Addressing Advance Care Planning and Decisions About Do-Not-Resuscitate Orders During Novel Coronavirus 2019 (COVID-19). JAMA. 2020 Mar 27.

4.         CAPC COVID response resources. https://www.capc.org/toolkits/covid-19-response-resources/. 2020. 

5.         VENTILATOR ALLOCATION GUIDELINES NYSTFoLatLNYSDoH, 2015.

6.        COVID Collaborative Resources. Vital Talk.org. https://www.vitaltalk.org/topics/covid-collaborative-resources/. 2020.  

 

注)パンデミック下の医療現場の現実を伝えるために過激な描写があります。あらかじめご了承ください。

 

 

重症患者の診療にあたる様子

 

 

 

「医療従事者の感染リスク」

 

PPE(個人防護具)は完ぺきではありません。首筋とか見ればわかります。隙だらけです。「無課金ユーザーが魔王退治に行くみたいだな」と同僚に言おうと思いましたが、どう英語で表現していいのかよくわからないので心に留めておきました。

 

そんな心許ない装備かつ最低限以下のスタッフで30人の患者が酸素マスクをしっかりと付けているか確認しなければなりません。実際に患者の部屋に入ってみると、予想通り。マスクを完全に外して寝ている方が一定の割合で必ずいました。特に基礎疾患のあるご高齢な方です。

 

高齢な方はせん妄といわれる錯乱状態(厳密には少し違う)に陥って、酸素マスクを外して暴れてしまうことがあります。多くの場合、患者には判断能力がないため、半ば無理やりにでも酸素マスクをつけなければいけないことがあります。この作業は危険を伴います。なぜなら、医療従事者の感染リスクが非常に高いからです。

 

ニューヨーク(NY)市ではコロナ陽性患者の約7-8%が亡くなります(1)。年齢が上がるにつれて亡くなる可能性は高くなり、65歳以上で入院した患者であればおよそ4人に1人が亡くなります(2)。ここまで重篤な病気はみたことありません。

 

医師としては医療の限界を感じます。アビガン含め治験薬で科学的に有効性が証明されている薬はありません。現在も様々な治験薬が試されていますが、少なくとも私たちが使っている薬で効いていると実感が持てるものはありません。軽症な患者が急に悪化して亡くなったかと思えば、重症な人が意外とコロッと治ったりします。

 

医師としては手ごたえがないというのが本音です。誰かがサイコロを投げていて、その出た目をただ見ているだけのような気がします。そして、その出る目は望まないものであることが多いのもまた事実。

 

もし自分が感染したら』と医療従事者であれば誰でも一度は考えます。でも、自分たちが患者にマスクを付けてあげなければ患者は亡くなってしまいます。

 

 

「倫理的決断を迫られて」

 

患者の命」と「自分の感染リスク」。今まで経験したことのない「倫理的葛藤」に襲われました。おそらく、100人に聞いたら100人が自分の感染リスクを最優先にすべきだと主張すると思います、おそらくそれが正しい論理的な帰結なのでしょう。しかし、現場にいると簡単に割り切ることができません。そして、現場の医師はリーダーシップを取って、その場で決断しなければなりません。残念ながら具体的なガイドラインやプロトコールもありません。正解もありません。

 

限られた医療資源の中で医療従事者の感染リスクを確保して患者を最大限救うように努力する。その場にいたスタッフ全員で話し合って、全員が納得する形で答えを出しました。

 

まず、患者が暴れているときに酸素マスクを付けるのは年齢が比較的若い医師二人と数人の看護師が中心に行うことになりました。


比較的若ければ重症化する可能性はありますが、統計的に亡くなる可能性は極めて低いためです。一方、高齢な看護師は感染したときのリスクが高過ぎるため、周りのサポートに周ってもらいました。

 

つぎに、何度試みても暴れてマスクを外してしまう患者の対応です。患者の全身状態や苦痛、医療従事者の感染リスクを総合的に考慮して、場合によっては、ご家族の同意を得たうえで、酸素状態を改善することよりも患者の苦痛を取り除くような治療方針に切り替えることにしました。

 

そして、なによりも重要なのが、入院した際に事前に可能な限り患者や患者家族としっかりと話し合いをして、もしものときのために入念な準備をすることを再確認しました(後述)。

 

勤務後はいつも自分の決断が正しかったのか常に悩まされ、普段は激辛料理も食べてもびくともしない胃袋がこの頃から悲鳴を上げ始めました。

 

(続く)

 

参考文献:

1.         COVID-19 data. NYC Health. https://www1.nyc.gov/site/doh/covid/covid-19-data.page. Last accessed on 5/2/2020.

2.         Richardson S, Hirsch JS, Narasimhan M, Crawford JM, McGinn T, Davidson KW, et al. Presenting Characteristics, Comorbidities, and Outcomes Among 5700 Patients Hospitalized With COVID-19 in the New York City Area. JAMA. 2020 Apr 22.