【NYコロナ戦記 その3】「ニューヨーク医療崩壊、人手不足」 | そうだ、米国で医者やろう~♬

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米国ボストンで循環器内科フェローをしています。心臓集中治療の分野と美味しいご飯処を世界に広めるのが目標です。

 

「病棟拡大に人的資源が追い付かず・・・」

 

人工呼吸器と集中治療室のベッドが不足して、急遽、重症新型コロナウイルス患者用病棟が新設されました。

 

患者は最大40人(通常30人くらい)。NPPV療法(非侵襲的酸素療法)という強力な酸素療法を必要とする患者のためにつくられた病棟なのでもちろん全員重症です。

 

酸素マスクを外すと数分のうちに亡くなってしまうような患者さんたちです。急遽できた病棟だったため稼働し始めてから様々な問題が浮上しました。

 

急な病棟拡大に伴い、一時的に院内でスタッフが足りなくなりました。わたしの病棟も同様です。重症患者約30人を医師2名、看護師3名、看護助手1-2名、呼吸療法士1名で担当しました。医師1名は1年目(正確にはインドでずっと眼科をやっていたのでもっと上ですが)。そして医者5年目のわたし。看護師は別の病棟から派遣された人たち。精神科で働く看護師もいました。

 

もちろん誰も酸素療法の使い方を知っているわけもないし、それを責めるわけにもいきません。なので、実際に酸素療法を管理できるのはわたしと呼吸療法士の二人となりました。人手が足りません。

 

そして、なによりも困ったのは部屋の外から患者が無事か全くわからないこと。感染対策でドアは完全に閉ざされており、夜間は特に部屋の奥は真っ暗なので中が全くみえません。

 

普通であれば酸素療法の必要な患者にはテレメトリー(以下、モニター)といって、遠隔モニターで酸素化などの情報を確認することができます。しかし、モニターの供給が間に合わず患者の状態を遠くから確認する方法がなくなりました。

 

 

中の状況が確認できない新型コロナウイスル感染者用の病室

 

 

「人手不足 苦肉の打開策」

 

新型コロナウイルス(以下、コロナ)の患者の特徴はだらだらとした重い風邪症状が続いたのち、一週間ほどしてから急激に酸素化が悪化することです。ものの数時間で手が付けられなくなるほど悪化して心臓が止まってしまう患者もいます。


さらにたちが悪いことに酸欠の割に症状が薄いので、酸素マスクを外してしまう患者さんも多くいらっしゃいました。


どうしてもスタッフ不足で目が行き届かず、これらが原因と思われる院内急変が多発していました。

 

パンデミックによる医療崩壊だから仕方ない・・・。そんな簡単に割り切れるものでもありません。

 

個人防護具(PPE)、病床、人工呼吸器といった供給に関しては現場がどうこうしても解決するものでもありません。しかし、「人的資源」はその点例外です。スタッフが足りなければその分自分たちが働けばいい。完全に発想としてはブラック企業のそれですが、現場の働き次第でより多くの患者が助かるのであれば仕方ありません。

 

本来、患者の血圧や酸素の状態を確認するのは看護師・看護助手の担当業務ですが、彼らだけでやるのは現実的に不可能でした。というのも、コロナの場合、患者と接触する際は感染防止に努めなくてはなりません。非常に呼吸がしづらいN95マスクを装着し、密閉性の高いガウンを着て、視界の悪いフェイスシールド越しに患者をみます。これだけでも一苦労です。この作業を少なくとも1時間おきにやらないといけません。無理です。

 

辛すぎて泣き出す看護師もいました。これは医師だの看護師だの言っている場合ではないと判断し、職種の垣根を越えて、医師が負担の肩代わりをすることにしました。医師の通常業務に加えて、患者の状態を2-3時間毎に確認する。当然のことながら12時間の勤務のなかで休憩時間はなくなりました。

 

(続く)

 

 

 

2時間ごとの病棟回診をするわたし