3月末になると、コロナの診療にあたる医療従事者の間で共通の見解が生まれました。
「この未知なるウイルスはやばい」
他の感染症とは比較にならないほど感染力が高い。その上、いままで見たどんな病気よりも重症化して死に至る。
(のちの統計によるとNY市では高齢な入院患者の約25%、人工呼吸器が必要な方は80%以上が亡くなりることが判明)
院内急変放送もひっきりなしに鳴り響き、死亡診断書を書かない日はなくなりました。
病院によっては亡くなったご遺体の処理が間に合わなくなり一時的にストレッチャーに置かれたままになる事態も発生。幸い当院ではそのようなことはありませんでしたが、そのようなことが起きても全く不思議でない状況でした。
NY市では飲食店の営業を停止したり外出自粛を早期から導入しましたが、その甲斐むなしく、患者の爆発的増加を止めることはできませんでした。
集中治療室(ICU)を3倍に増設したにも関わらず、またたくまにベッドは埋まり、人工呼吸器は供給が追い付かず足りなくなる事態がついにやってきました。
人工呼吸器を使用している患者さんが亡くならないと次の患者のための人工呼吸器が足りない状況です。普通の適応で人工呼吸器を始めることはもちろんできずなるべく人工呼吸器を避けるように治療をするようになりました。
(UPTODATEの推奨は早期の挿管ではありますが)
(倫理的葛藤に関しては詳しく後述)
そのために、まずはリザーバーマスク15Lに鼻カヌラ6Lで粘り、それがだめならNPPV療法(非侵襲的酸素療法)という強力な酸素療法を限界の設定まで上げて、それでもだめならば挿管して人工呼吸器での治療を始めるという流れになりました。
NPPV療法は医療従事者への感染リスクが高いため、特殊な陰圧室で管理するする必要があります。なので、新しくNPPV療法を必要とする重症コロナ患者のための病棟が新設されました。
リザーバーマスク。供給がたくさんあったので使い勝手良し。(Google Imagesから)
いわゆるNPPV療法の一つBiPAP療法。通常の酸素より強力な酸素を供給できる(Vapothermのホームページより)。
人工呼吸器による治療。チューブが気管に入るのが大きな違い(Medscapeより)。
そんな激動の中、一つのニュースが流れました。関連病院の看護師長が若くしてコロナにかかり亡くなったのです。あまりにも突然の知らせに驚きととみに胸を痛めました。
と同時に、コロナがあまりにも身近な問題であるということを嫌でも感じさせられました。周りの医療従事者もバタバタとコロナに倒れ、病欠の人をカバーする人がいなくなる事態まで発生しました。
そして、ついに自分のスケジュールも急遽変更されて、新設された重症コロナウイルス患者のための病棟に配属されることとなりました。