【 NYコロナ戦記 その1】「ニューヨーク医療崩壊のはじまり」 | そうだ、米国で医者やろう~♬

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米国ボストンで循環器内科フェローをしています。心臓集中治療の分野と美味しいご飯処を世界に広めるのが目標です。

NYの病院で医師をしています。

 

新型コロナウイルス(以下、コロナ)大流行の最前線で働いた末、自分自身もコロナに感染しました。

 

コロナの患者が爆発的に増えて医療資源が不足。普通では考えられない状況に陥った上に、倫理的に難しい判断を強いられることがありました。また医療従事者含む多くの方が亡くなりました。

 

わたし自身の苦い経験を通して、少しでもコロナの怖さや医療崩壊のことを知ってもらえたらと思います。

 

 

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2020年3月1日、ニューヨーク(NY)で最初のコロナ感染者が確認されました。

 

その日は集中治療室で夜勤をしていました。

 

「ついにNYにもコロナがきたか、もしかしたらNYは人口密集しているから流行るのかなぁ」

 

同僚と呑気に患者の採血結果を確認しながら雑談をししてました。このときは日本の方が流行っていたので、NYのことより日本の心配をしていました。もちろん、このときは担当患者にコロナ患者はいませんでした。

 

その後、特にNY市で流行することはなく、3月9日からは2週間の外来勤務が始まりました。ウエストチェスターという郊外で若干名の感染が確認されたのを受けて、早くから外来でも対策を取ることになりました。

 

カンファレンスは全て中止。緊急でない外来患者の予約は感染防止の観点から全てキャンセルとなりました。緊急な方は例外的に原則診察するという決まりでした。

 

3月13日、うちの関連病院で初めてコロナの感染が見つかりました。NY市では計95人の感染が報告されたことを受けて、非常事態宣言が発令されました。840万人中95人。正直なところ大袈裟な宣言じゃないかと思いました。

 

その証拠に翌日の当直では、コロナ患者は一人もいなかったので、まだコロナを身近なものとして感じることはできませんでした。

 

3月16日の週、状況は一変しました。最初の数日はコロナ疑いの患者が来院した際には、「ついに来たか」と話題になりました。しかし、そんな暇もないほど、瞬く間に日に日に患者は爆発的に増えました。

 

外来はすぐさま遠隔診療に移行。最低限必要な人員は外来に残して、残りは病棟のバックアップわ病欠になった人のカバーに配置されることとなりました。

 

コロナ疑い患者を診察する際のプロトコルが作成され、感染対策チームもすぐさま結成されました。

 

3月22日、久しぶりに入院患者の担当をしました。驚愕しました。一週間前とは別世界。一人もいなかったはずのコロナ患者がいつのまにか全体の約8割を占めていたのです。その日の新規入院も全てコロナでした。遅らせながら自分の肌でようやくパンデミックを感じた瞬間でした。

 

NYではコロナの流行を受けて病床数を増やすことになりました。幸い当院はキャパシティがあったので、段階的に病棟・ICU(集中治療室)を増設して、最終的におよそ当初の2-3倍に増えました。

 

はじめのうちは「よし、コロナ病棟を作ろう」というテンションで、新たに二つの病棟を作り、コロナ患者専用としました。

 

その後、衝撃の事実が判明しました。

 

コロナの患者は他の疾患の患者と比較して退院に時間がかかるのです。

 

普通の疾患よりも回復に時間がかかるだけでなく、コロナの患者は一定期間リハビリ施設やホームレスのためのシェルターといった施設に受け入れていただけないケースが続出しました。

 

(注: 最近のJAMAの疫学研究だと入院期間の中央値は4日であまり他の疾患と大差なし。若干の感覚との乖離あり。)

 

コロナの入院患者の割合がどんどん増えていき、最終的には入院患者の9割近くがコロナの患者になりました。

 

そのため、当初の「コロナ病棟を作ろう」という概念はほぼなくなり、いつのまにか「最低限、非コロナ病棟を確保する」という方向にシフトチェンジしました。

 

結果、少なくとも一つの病棟、3―4つあるうちの1つのICUは非コロナ患者専用となりました。

 

しかし、ここでもさらに問題は発生しました。というのも非典型的な症状で来院されるコロナの患者がたくさんいたのです。

 

失神・味覚障害・心臓発作など。いまはもう知られてはいますが、当初はコロナの症状として広く知られているわけではなかったので、非コロナ病棟に入院した数日後に呼吸器症状を発症してはじめてコロナの感染が発覚するケースもありました。

 

またコロナかどうか微妙なケース(振り返ると全部コロナだったと思われる)の場合でも当初は検査をせずに非コロナ患者として治療にあたることが多くありました。というのも、最初のうちはPCR検査がやりづらい空気があったからです。

 

当初は検査キットやコロナ用のベッドが十分にあったわけでもないし、検査をするにあたっては、結果が返ってくるまでコロナ患者として特別な部屋に一定期間入れないといけませんでした。なので、微妙なケースだと検査をオーダーすることに躊躇してしまうことが多くありました。

 

こういった背景もあって、ときには感染対策チームにアドバイスを仰ぐこともありましたが、当初は感染症チームもあまり経験がなかったせいか、色々話した末に結局検査をすべきなのかどうかよくわからないこともありました。

 

だんだんと医療従事者側もコロナという病気を感覚的に理解し始めて、どんな理由で来院した患者も基本的にはコロナとして診療にあたるようになってきました。

 

基本的に入院患者は全例PCR検査。コロナを疑う症状が全くなく、検査結果が陰性の場合のみ非コロナ病棟への入院となりました。

 

逆にPCRは完璧な検査ではないので、PCRの結果が陰性でも少しでもコロナを疑う場合はコロナとして治療しました。

 

不思議なことにコロナが流行してからは以前見ていたような疾患で入院する患者が激減しました。

 

心臓病やコロナ以外の感染症など。ハッキリとした理由は分かりません。もしかしたら本来心臓病になるはずだった人がコロナになったのかもしれません。あるいはコロナの感染を心配した患者の足が病院から遠のいた可能性もあります。

 

兎にも角にも、コロナ以外の病気が減ったことは確かで、それも相まって、診察する患者はほぼほぼコロナになりました。

 

院内では密かに「人を診たらコロナだと思え」という言葉が広まりました。

 

そうこうしているうちに病院はコロナの患者で埋め尽くされました。病棟も新設されて人手が必要になり、わたしの仕事のシフトも全て変更になりました。

 

もともと、まったりとしたスケジュールでしたが、急遽、新設される重症コロナ患者用の病棟で夜勤をすることになりました。これがのちに医療崩壊を象徴する地獄のような日々になるとはまだ知る余地もありませんした。

 

(次回に続く)

 

 

 

 

 

 

 

 

追記:

日本の場合、病棟の確保に関しては国レベルで動いているようです。コロナを診る病院と診ない病院に分けて、軽症な方はホテルなどに収容されるという話を聞きました。

 

恐らく、完全な素人私見ですが、国内の発生数をトレンドすると、日本はかなり健闘していていて、このままいけば大きな流行はなく第一波は抑えられるような気がします。なので、現在の対策で良いかもしれませんが、第二波が起きて患者が爆発的に増えたとき、いわゆるオーバーシュートが起きた際に対応ができるか心配です。

 

非コロナの病院でもコロナ患者は大量発生するだろうし、そもそも入院病棟自体が足りなくなってしまうのではないでしょうか。

 

日本の一人当たりの病床数はかなり多いはずなので、オーバーシュートしたらコロナ/非コロナなどの区分を緩和して、どうにか病床数を増やせる気もしますが不安は拭いません。おそらく、専門家や医師会が今後色々議論すると思うのであれですが、常に最悪の事態、パンデミックなった場合を想定して準備することは大切だと思いました。