(『新・人間革命』第7巻より編集)
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〈早春〉 22
(つづき)
ところで、明日、私はポンペイの遺跡に行こうと思っている。あなたも知っているように、約千九百年前、ポンペイの街は大爆発で滅んでしまった。
戸田先生は、その悲劇を描いた『ポンペイ最後の日』という小説を愛読されていた。
これは女子部の華陽会の研修教材にも使われたことがあるんだよ。
小島さんも一緒にポンペイに行こう。あなたには、通訳をしてもらいたいんだ」
ポンペイには、山岸夫妻も同行することになっていたが、伸一は留学生の小島の語学力を伸ばすために、あえて、彼女に通訳をするように言ったのである。
翌日、伸一たちは、汽車でナポリに到着した。
そこからは、二台のタクシーに分乗して、ポンペイに向かった。
ポンペイへの道すがら、一行は、イタリアの有名な工芸品である「カメオ」の店に立ち寄った。
貝を細工して、浮き彫りにする工程を見ながら、伸一は小島に言った。
「普通なら、貝殻として捨ててしまうものに細工して、大きな価値をもたらしている。知恵があるね。
人間が社会で生き抜くうえで大切なのは知恵だよ。
広宣流布も、人生も、勝利していくためには知恵が必要だ。知恵を出すには、旺盛な責任感、使命感をもって、題目を唱え、強い生命力を涌現しながら、考え抜いていくことだ」
伸一は、ここでブローチやカフスボタンなどを土産として購入し、そのブローチの一つを小島に贈った。
彼は、単身、イタリアに渡った、この女性の将来に心を砕いていた。