(『新・人間革命』第7巻より編集)
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〈早春〉 9
そのころ、佐田幸一郎、諸岡道也ら四人のドイツの青年たちは、彼らの愛車「若獅子号」で、デュッセルドルフを発って、パリをめざしていた。
飛行機や列車の便もあったが、経済的なゆとりのない彼らは、車で行くしかなかったのである。
当時はパリまで、通常なら車で十二時間ほどであった。ところが、この日は寒波のために道が凍結し、徐行運転をしなければならなかった。
ケルンを経て、西ドイツ国境を超え、ベルギーに入ったころから、吹雪になってしまった。
途中、事故を起こした何台もの車に出くわした。谷に転落した車も見た。
彼らは、真剣に題目を唱えながら、必死になってハンドルを操った。しかし、雪で動かなくなり、皆で押さなくてはならないこともあった。
佐田たちは、秋月と打ち合わせ、十六日の朝には、山本会長の宿泊しているホテルに到着し、会うことになっていた。
だが、とても、約束に時間には、パリに入れそうになかった。彼らは、焦りを覚えた。
人事の検討が終わった深夜、山本伸一は秋月から、ドイツ支部のメンバーの代表が、車でパリに向かっていることを聞いた。
伸一は言った。
「そうか、車でやって来るのか。寒波だけに、相当遅れるだろうな。無理をして、事故など起こさなければよいが・・・。
明日、そのメンバーが到着したら、すぐに会おう」
彼は、皆が解散すると、ドイツのメンバーの無事故を祈って唱題した。明け方近くにベッドに入りはしたものの、彼らのことが気になって、ほとんど眠れなかった。
伸一は、午前六時過ぎにはベッドを出て、勤行・唱題し、ドイツのメンバーの到着を待っていた。