(『新・人間革命』第7巻より編集)
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〈萌芽〉 14
伸一がクワノの家に着いた時には、既に三十人ほどの人が集まっていた。
彼が目を見張ったのは、地区部長の候補にあがった人たちの、半数以上は男性であったことである。
というのは、二年三か月前にロサンゼルス支部が結成された時に、六地区が誕生したが、地区部長は全員日系の女性であった。
その時は、ここにいる男性のほとんどが、信心をしていなかった。いや、むしろ、学会を否定的に見ていた人たちである。
たとえば、セントルイス地区の地区部長候補として来ていたテツヤ・ハガには、伸一は、こんな思い出があった。
ー ロサンゼルスの支部結成式のあと、伸一が、ハガの妻のサユリに頼まれ、激励の揮毫をしていると、会場の入り口から、苛立った怒鳴り声が聞こえた。
「おい、いつまでかかっているんだ。帰るぞ!」
伸一は、声のする方に視線を注いだ。
そこにいたのがテツヤ・ハガであった。
彼は、揮毫のペンを走らせた。
「真の一家の幸福と平和を築かれん事を祈る」そして、末尾に「・・・ 夫妻殿」と記したのである。
アメリカの場合、夫は信心をしていなくとも、学会の会合に参加する妻を、車で送り迎えしてくれるケースは珍しくない。
そして、妻を会場に送り届けると、夫は、会合が終わるまで待っているのである。
テツヤ・ハガも、妻の送迎はしていたが、信心には反対であり、仏壇を隠してしまうこともよくあった。
その彼が、入会をするようになったきっかけは、妻を送り迎えするうちに親しくなった、いわば、”送迎仲間”の一人であるタッド・フジカワが、信心を始めたことであった。
最初、彼らは、会合が終わるのを待ちながら、共に学会を批判しては、妻が信仰していることを嘆き合っていた。