(『新・人間革命』第6巻より編集)
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〈若鷲〉 22
伸一は、強い語調で言葉をついだ。
「諸君は、この『御義口伝』を、生涯、自身の信仰の、思想の、また、生き方の原点とし、規範としていってもらいたい。
ゆえに、徹底して掘り下げていってほしいんです。
井戸も掘り進め、水源に至らなければ水は出ない。教学も同じです。中途半端な勉強では、信仰を高めることにはなりません。
次回からは、皆が、すべて調べ、理解しているという前提で講義を進めていきます。いいですね」
伸一はそれから、「隨縁不変・一念寂照(いちねんじゃくしょう)」の講義に入った。
「『隨縁不変』とは、隨縁真如の智と不変真如の理のことです。また、一念とは、瞬間瞬間の生命です。
そして、寂照の『寂』は心が静まり定まった状態をいい、静を意味します。『照』は智慧が照り輝くことで、動を意味します。
つまり、隨縁真如の智も不変真如の理も、ともに、一念三千の本体である妙法蓮華経に、人間の一念に、具わっているということをいうのです。
たとえば、水は”H2O”という分子式で表されますが、これを不変真如の理とすれば、状況によって、氷、冷水、湯、水蒸気と、縁によって変化していく様は、隨縁真如の智といえるでしょう」
その時、前から二列目にいた、メガネをかけた生真面目そうな受講生と、伸一の目があった。
田原薫(現、原田会長)という、東大の経済学部の学生である。
伸一は、今度は、彼を例にあげて語っていった。