(『新・人間革命』第4巻より編集)
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〈春嵐〉 10
ー 彼女の夫は、勤行もし、妻の活動を積極的に応援してくれたが、仕事が多忙なこともあり、会合には、ほとんど顔を出さなかった。
ある時、地元の壮年の幹部が、彼女に言った。
「お宅の御主人は、活動に参加しないが、それは単己(たんご)の菩薩というんだよ。それじゃ、だめだね」
単己の菩薩というのは、地涌の菩薩が出現する際、眷属をもたず、単独で出現してきた菩薩である。
”単己”といっても、地涌の菩薩に変わりはないのだが、彼女は、夫が幸福になれないような気がして、その言葉が頭から離れないというのである。
「夫は、やはり単己の菩薩で、だめなのでしょうか」
「大丈夫、心配ありません。奥さんの学会活動を応援し、しっかり勤行もしているんだから、立派な地涌の菩薩です。
そのうちに、必ず活動に励むようになりますよ。ご主人には、『ご苦労をおかけしますが、くれぐれもよろしくお願いします』とお伝えください」
笠山は、安心したように顔を赤らめた。
人間は、たった一つの言葉で、悩むこともあれば、傷つくこともある。また安らぎも感じれば、勇気を奮い起こしもする。
ゆえに、言葉が大事になる。言葉への気遣いは、人間としての配慮の深さにほかならない。
友に”希望の言葉” ”勇気の言葉” ”励ましの言葉” ”正義の言葉”を発し続け、深き信仰へと導く人こそ、まことの仏の使いの姿といえよう。
笠山は、この機会に、支部婦人部長としての心構えなど、伸一に、もっとたくさん指導を受けたかった。
「先生、お願いがあるんです。私たちも、秋田まで、ご一緒させていただいて、よろしいでしょうか」
伸一は、これから十和田支部の結成大会に出席するため秋田の大舘に向かうところであった。