(『新・人間革命』第2巻より編集)
30
〈先駆〉 30 完
翌十八日は東京に帰る日であった。一行は、午前中、バスを借りて、地元の同志の代表とともに南部戦跡を視察した。
切り立った断崖の向こうには、青く澄んだ珊瑚礁(さんごしょう)の海が広がっていた。
この美しい島で、わずか十五年前に、凄惨な地獄絵が展開されていたかと思うと、無残さはなおさらつのった。
「戦争は悲惨だな・・・ 」
伸一は、誰に語るともなく、しみじみとした口調で言った。
彼は、生前、戸田城聖が、「もう、二度と戦争を起こしてはならん。そう誓って、私は敗戦の焼け野原に一人立ったのだ」としばしば語っていたことを思い起こしていた。
まさに、戸田の生涯は、その残酷極まりない戦争を遂行しようとする権力の魔性との、壮絶な闘争であった。
今、戸田城聖の起こした大潮流は、慟哭の島・沖縄にも広がり、友の歓喜は金波となり、希望は銀波となったのである。
山本伸一は、その師の偉業を永遠に伝え残すために、かねてから構想していた、戸田の伝記ともいうべき小説を、早く手がけなければならないと思った。
戸田は「行動の人」であった。
ゆえに弟子としてその伝記を書くには、広宣流布の戦いを起こし、世界平和への不動の礎を築き上げずしては、戸田の精神を伝え切ることなどできないと彼は考えていた。
文は人である。文は境涯の投影にほかならないからだ。
伸一は、戸田の七回忌を大勝利で飾り、やがて、その原稿の筆を起こすのは、この沖縄の天地が最もふさわしいのではないかと、ふと思った。
「仏法には、三変土田(さんぺんどでん)という原理がある。
そこに生きる人の境涯が変われば、国土は変わる。
最も悲惨な戦場となったこの沖縄を、最も幸福な社会へと転じていくのが私たちの戦いだ。やろうよ。力を合わせて」
「はい!」
決意を込めた友の声が、潮騒のなかに響いた。