(『新・人間革命』第2巻より編集)
29
〈先駆〉 29
幹部として、今、大事なことは、共に沖縄の新出発を祝うことであった。しかし、その配慮が欠けていることが、伸一は残念でならなかった。
「さあ、原山さんも、十条さんも、みんな踊って」
伸一は、再び同行の幹部に促した。すると、十条が意を決したように、立ち上がった。
「では、私は『田原坂』を躍らせていただきます」
・・・ ・・・
十条は懸命に踊り始めたが、しゃちこ張った不自然な動作になってしまった。
「だめだなあ、ロボットの踊りみたいで、もっと、にこやかに、せっかくのお祝いなんだから」
伸一が言うと、爆笑が広がった。
「はい、もう一度、初めからやります」
今度は、十条は笑みを浮かべて踊り出したが、ますます体がぎこちなくなっていった。
「それじゃあ、お地蔵さんみたいじゃないか」
その言葉に、皆、腹をかかえて笑いだした。
「しょうがないな。それでは私が舞いましょう」
伸一は、扇を手に「黒田節」を舞い始めた。
酒は飲め飲め
飲むならば・・・
それは、悠々として力強く、流麗な舞であった。
皆、息をのんで、彼の舞に見入った。
踊りが終わると、盛んに拍手が起こった。
「先生、もっと踊ってください」
「踊りましょう、皆さんが喜んでくれるなら」
彼は、また舞い始めた。
その姿に目頭を潤ませる人もいた。同志を思う伸一の真心が、熱く友の胸に染み渡っていったのである。