『冬の花火』で脚本と小説の大きな違いは、クライマックスである「最後の
花火にふたりが見入る」場面にあります。
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「最後の一本。お兄さんにあげるよ。やってみれば……」
赤いマニキュアの手で花火を差し出した。
「ありがとう」
花火を手に取ると、彼女が火を点けた。冬の花火は、パチパチと音を立て、
暗黒の空間を多彩な閃光で埋め尽くし、夢幻の宇宙へと導いてくれた。
↓ 《 脚本化 》
女「最後の一本、お兄さんにあげるよ。やってみれば……」
女が赤いマニキュアの手で花火を差し出す。
男「ありがとう(と受け取る)」
女が花火に火を点ける。
○ 花火と男と女のイメージ
花火の煌めきを背景に、様々な映像が重なる。
それらをモンタージュで伝えていく。
・冬のネオン街、寒そうに行き交う人々の姿。
・花火を見る女の顔。
・バーで客に酒を注ぐ女の姿。
・カラオケの相手をする女の姿。
・チークダンスの相手をする女の姿。
・バーの前で客たちを見送る女の姿。等々……
・花火を見る女の顔。
・花火を見る男の顔。
・会議室でクライアントに説明する男の姿。
・パソコンに向かって仕事する男の姿。
・電話にでる男の姿。
・街中を走る男の姿。等々……
・花火を見る男の顔。
・花火を見る男と女の顔。
そして花火が消えていく───
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小説では2月27日に解説したように『夢幻』の一語に託した描写ですが、脚
本は、幻想的な花火を背景に男と女の日常を重ね合わせて『華やかさと儚さ』
をイメージさせるのを意図しました。「モンタージュ」とあるのはカット映像
の組み合わせで、それひとつでは大きな効果は出ませんが、総合的に繋げると
ねらいとするものを物語るよう構成される映像手法です。
※ ※ ※
脚色は、小説を基にシーン展開やト書き、台詞に組み直す作業です。人物像
やストーリーを一から創る作業ではありませんが、既存の小説を脚色してみれ
ば、「どう描けばより効果的で印象に残るか」を考える『構成』の勉強にもな
ります。あとは、その構成に従って脚本を書いていけばいいのです……。