酸・塩基は化学の中でも基本中の基本である。
よく知られているように酸はプロトン(水素イオン)を与えるもの、または電子対を受けとるものと定義されている。
そのプロトンの与え易さが酸性の強さである。
一般に酸性の強さの指標となるのがpHである。
ところがpHは水のイオン積を基に定義されている。
つまりpHは水に対するプロトンの与え易さの指標なのだ。
言い換えるとpHは水以外の溶液中に対する酸性の尺度とはならないのである。
またpHは希薄な水溶液の場合しか意味を持たない。
一般にpHの範囲1~14を外れると正確に測定できなくなるのである。
極端な話、1mol/L以上の溶液になると単純な比較ができなくなってしまうのだ。
当然、液体性純酸の酸性の強さなどはpHで表すことができないのである。
1932年、L.ハメットは弱塩基性指示薬を用いる酸度関数H。を考案した:
H。=-log(aH・aB/aBH)+log(cB/cBH)
ただし
aH:プロトンの活量
aB:弱塩基性指示薬の活量
aBH:プロトン化された指示薬の活量
cB:指示薬の濃度
cBH:プロトン化された指示薬の濃度
希薄な酸水溶液ならばaB≒cB、aBH≒cBHとなるから酸度関数は
H。=-log(aH)=pH
となってpHと同じ意味になる。
H。定義式の第1項はその溶液に対する指示薬のpK(a)に他ならない。
従って指示薬のpK(a)を決定し、溶液中のcB/cBH比を吸光光度法やNMRなどで測定すれば第2項も決まるのでH。が算出できるのである。
指示薬としてはp-ニトロアニリンや2,4,6-トリニトロアニリンのようにpK(a)が既知で、かつ、かなりの弱塩基性のものが用いられるようである。
…
酸度関数による主な液体性純酸の酸性度を眺めて見るとなかなか興味深い。
定義よりpHのときと同様、H。も値が小さいほど強い酸ということになる。
例えば有機酸の中では最も酸性度の高いと言われるギ酸HCOOHのH。は-2.2である。
それに対して無機酸の中でも弱酸と言われるリン酸H3PO4はH。=-5.0とギ酸よりずっと酸性度が高い。
ちなみに強酸と言われる市販の34%濃塩酸HCl(aq)のH。は-4.0で、100%リン酸より弱い酸ということになるのである。
意外なのは強酸の1つ硝酸HNO3で、H。=-6.3とリン酸よりわずかに強いに過ぎない。
これも強酸の1つ過塩素酸HClO4のH。は、今手元に78.6%水溶液のデータしかないが、それでも-10.3と非常に酸性度が高い。
100%純液ならばさらにH。は低くなるはずである。
さらにこれも非常に意外なのだか、純フッ酸HFがH。=-11.0でさらに強酸なのだ。
一般にフッ酸水溶液は弱酸と言われている。
しかし、これはフッ素イオンが異常に高い水素結合能を持っているため、見かけ上フッ酸の酸性度を弱く見せているのである。
従って、実際にフッ酸は他の強酸と同程度プロトンを水に与えていると考えられている。
強酸の代表格である硫酸H2SO4はH。=-12.0で、やはり酸性度が非常に高い。
一般に100%硫酸よりも酸性度が高いもの、すなわちH。=-12.0より低いH。値を示す酸を超酸という。
硫酸に三酸化硫黄を加えたものを発煙硫酸というが、特に等モル比の三酸化硫黄を加えたとき生成するのが二硫酸(ピロ硫酸)H2S2O7である。
この二硫酸がH。=-14.4で、まさに超酸の1つなのである。
強酸であるはずの過塩素酸ですら二硫酸共存下では弱塩基として挙動するのだ。
一方、発煙硫酸に塩化水素を通じるとクロロ硫酸HSO3Clが生成する。
クロロ硫酸も超酸の1つで、H。=-13.8である。
クロロ硫酸は反応性が高く、塩素化剤やスルホン化剤として用いられるようだが、水と爆発的に反応するなど取り扱いが難しいようだ。
また発煙硫酸に二フッ化水素カリウムまたはフッ化カルシウムを加えて250℃ほどに加熱するとフルオロ硫酸HSO3Fが生成する。
このフルオロ硫酸はH。=-15であり、単独分子の中では最強の超酸とされていた。
ところが2004年、アメリカのC.リードがホウ素11個、炭素1個からなる20面体型分子カルボランの塩素置換体であるカルボラン酸CHB11Cl11を合成した。
驚くべきことにカルボラン酸のH。は-18であり、現在フルオロ硫酸に代わって単独分子の中で最強の超酸とされている。
「単独分子では」という条件付きということは複数分子の組み合わせでより強い超酸ができるのか?
実にその通りで、G.オラーが先に述べたフルオロ硫酸に五フッ化アンチモンSbF5を加えることで酸性度を劇的に高くすることに成功したのだ。
オラーはモル比でHSO3F:SbF5=75:25のときH。=-21.5が得られたことを1978年に報告している。
オラーはこの混合液を使ってクリスマスで使用したロウソクを溶かして見せたため、この混合液はマジック酸と呼ばれるようになったそうである。
ロウソクは基本的にパラフィン、つまりCとHのみからなる飽和炭化水素でできている。
つまり常識的に見てプロトンを受けとる箇所がない物質なのだ。
ところがマジック酸ほどの超酸になると、C-Hの共有結合部分に直接プロトンを押し付けることができる。
その結果パラフィンは水素を発生させながらカルボカチオンとなり、可溶化するのである。
現在、最強と言われている超酸はフッ酸と五フッ化アンチモンの混合液でH。=-28が報告されているようだ。
個人的には、超酸レベルの酸になるとプロトンを与え易い物質というよりプロトンを押し付ける力が強い物質というイメージがぴったりするのである。
よく知られているように酸はプロトン(水素イオン)を与えるもの、または電子対を受けとるものと定義されている。
そのプロトンの与え易さが酸性の強さである。
一般に酸性の強さの指標となるのがpHである。
ところがpHは水のイオン積を基に定義されている。
つまりpHは水に対するプロトンの与え易さの指標なのだ。
言い換えるとpHは水以外の溶液中に対する酸性の尺度とはならないのである。
またpHは希薄な水溶液の場合しか意味を持たない。
一般にpHの範囲1~14を外れると正確に測定できなくなるのである。
極端な話、1mol/L以上の溶液になると単純な比較ができなくなってしまうのだ。
当然、液体性純酸の酸性の強さなどはpHで表すことができないのである。
1932年、L.ハメットは弱塩基性指示薬を用いる酸度関数H。を考案した:
H。=-log(aH・aB/aBH)+log(cB/cBH)
ただし
aH:プロトンの活量
aB:弱塩基性指示薬の活量
aBH:プロトン化された指示薬の活量
cB:指示薬の濃度
cBH:プロトン化された指示薬の濃度
希薄な酸水溶液ならばaB≒cB、aBH≒cBHとなるから酸度関数は
H。=-log(aH)=pH
となってpHと同じ意味になる。
H。定義式の第1項はその溶液に対する指示薬のpK(a)に他ならない。
従って指示薬のpK(a)を決定し、溶液中のcB/cBH比を吸光光度法やNMRなどで測定すれば第2項も決まるのでH。が算出できるのである。
指示薬としてはp-ニトロアニリンや2,4,6-トリニトロアニリンのようにpK(a)が既知で、かつ、かなりの弱塩基性のものが用いられるようである。
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酸度関数による主な液体性純酸の酸性度を眺めて見るとなかなか興味深い。
定義よりpHのときと同様、H。も値が小さいほど強い酸ということになる。
例えば有機酸の中では最も酸性度の高いと言われるギ酸HCOOHのH。は-2.2である。
それに対して無機酸の中でも弱酸と言われるリン酸H3PO4はH。=-5.0とギ酸よりずっと酸性度が高い。
ちなみに強酸と言われる市販の34%濃塩酸HCl(aq)のH。は-4.0で、100%リン酸より弱い酸ということになるのである。
意外なのは強酸の1つ硝酸HNO3で、H。=-6.3とリン酸よりわずかに強いに過ぎない。
これも強酸の1つ過塩素酸HClO4のH。は、今手元に78.6%水溶液のデータしかないが、それでも-10.3と非常に酸性度が高い。
100%純液ならばさらにH。は低くなるはずである。
さらにこれも非常に意外なのだか、純フッ酸HFがH。=-11.0でさらに強酸なのだ。
一般にフッ酸水溶液は弱酸と言われている。
しかし、これはフッ素イオンが異常に高い水素結合能を持っているため、見かけ上フッ酸の酸性度を弱く見せているのである。
従って、実際にフッ酸は他の強酸と同程度プロトンを水に与えていると考えられている。
強酸の代表格である硫酸H2SO4はH。=-12.0で、やはり酸性度が非常に高い。
一般に100%硫酸よりも酸性度が高いもの、すなわちH。=-12.0より低いH。値を示す酸を超酸という。
硫酸に三酸化硫黄を加えたものを発煙硫酸というが、特に等モル比の三酸化硫黄を加えたとき生成するのが二硫酸(ピロ硫酸)H2S2O7である。
この二硫酸がH。=-14.4で、まさに超酸の1つなのである。
強酸であるはずの過塩素酸ですら二硫酸共存下では弱塩基として挙動するのだ。
一方、発煙硫酸に塩化水素を通じるとクロロ硫酸HSO3Clが生成する。
クロロ硫酸も超酸の1つで、H。=-13.8である。
クロロ硫酸は反応性が高く、塩素化剤やスルホン化剤として用いられるようだが、水と爆発的に反応するなど取り扱いが難しいようだ。
また発煙硫酸に二フッ化水素カリウムまたはフッ化カルシウムを加えて250℃ほどに加熱するとフルオロ硫酸HSO3Fが生成する。
このフルオロ硫酸はH。=-15であり、単独分子の中では最強の超酸とされていた。
ところが2004年、アメリカのC.リードがホウ素11個、炭素1個からなる20面体型分子カルボランの塩素置換体であるカルボラン酸CHB11Cl11を合成した。
驚くべきことにカルボラン酸のH。は-18であり、現在フルオロ硫酸に代わって単独分子の中で最強の超酸とされている。
「単独分子では」という条件付きということは複数分子の組み合わせでより強い超酸ができるのか?
実にその通りで、G.オラーが先に述べたフルオロ硫酸に五フッ化アンチモンSbF5を加えることで酸性度を劇的に高くすることに成功したのだ。
オラーはモル比でHSO3F:SbF5=75:25のときH。=-21.5が得られたことを1978年に報告している。
オラーはこの混合液を使ってクリスマスで使用したロウソクを溶かして見せたため、この混合液はマジック酸と呼ばれるようになったそうである。
ロウソクは基本的にパラフィン、つまりCとHのみからなる飽和炭化水素でできている。
つまり常識的に見てプロトンを受けとる箇所がない物質なのだ。
ところがマジック酸ほどの超酸になると、C-Hの共有結合部分に直接プロトンを押し付けることができる。
その結果パラフィンは水素を発生させながらカルボカチオンとなり、可溶化するのである。
現在、最強と言われている超酸はフッ酸と五フッ化アンチモンの混合液でH。=-28が報告されているようだ。
個人的には、超酸レベルの酸になるとプロトンを与え易い物質というよりプロトンを押し付ける力が強い物質というイメージがぴったりするのである。