イランの態度は変わったか?
時間は誰の味方か――ホルムズ海峡をめぐる7日間計画と、ドルという武器
イランはこれまで、表向きには米国との交渉を拒みながら、裏では接触を重ねてきた。今回はその構図が少し違って見える。
アラグチ外相は9月22日にトランプ大統領の特使ウィトコフ氏と会談し、その後、国連で「7日間の計画」をカタール経由で米国に伝えたと明らかにした。条件が満たされれば、7日以内に海峡を再開し、通常の船舶の通航を回復できるという。外相はさらに、この提案には核開発に関する包括的な協議の即時開始も含まれると説明した。核の話題を自ら持ち出した点は、従来の姿勢とは異なる。
ただし、これは譲歩というより取引である。計画が求めているのは、レバノンを含む中東全域での戦闘の7日間停止、少なくとも120億ドル相当とされる凍結資産の解除、イラン産原油への制裁解除、そして米国による海上封鎖の終了だ。
革命防衛隊の報道官は、イエメンでの戦闘終結も要求の一つだと述べている。海峡の開放と引き換えに、経済的な締め付けを一気にほどこうとする内容である。背景には、6月に米国とイランが交わした覚書の破綻がある。覚書は、戦争の終結、海峡の開放、核をめぐる協議の開始を目指したが、海峡の管理などをめぐって攻撃の応酬が断続的に続き、崩れてしまった。
イランがここまで動く背景には、圧力の広がりがある。米財務省は9月8日、イラン系航空会社27社を制裁指定した。さらにベッセント財務長官は21日、イラン系航空会社に給油や地上支援を続ける空港や事業者は、ドル決済システムから排除すると警告した。ジェット燃料の契約も航空機のリースも大半がドル建てであり、この警告は重い。
報道によれば、UAE、トルコ、イラク、オマーンなど近隣諸国は次々にイラン便を制限し、トルコはイランの大手銀行の免許を取り消した。石油を運び出せない苦境に、航空と金融の締め付けが重なった形だ。
一方で、11月3日の中間選挙を間近に控えるトランプ政権の動向も見逃せない。政権にとって原油高やガソリン高は有権者の支持を直撃する最大の逆風であり、トランプ氏はこの政治的プレッシャーを冷静に見極めながら、押したり引いたりの絶妙なバランス感覚で対応している。
26日にはイランの提案を拒否する方針を示し、27日にはアクシオスに対し、イランは合意を望んでいるが自分が望む合意ではない、過去の交渉で「強気に出過ぎた」と主張して軍事行動をちらつかせた。
だが、米国の交渉担当者が今週も協議を続ける見通しであり、早ければ28日にもカタールを通じた協議が行われると報じられている。アラグチ外相は外交交渉に応じる用意はあるが最終的な選択はトランプ氏次第だと述べ、条件は撤回していない。
現場でも緊張は続く。革命防衛隊は27日、ホルムズ海峡で米軍の自律型無人潜水機を捕獲したと発表し、映像を公開した。データを解析して米軍の偵察行動を突き止めたい方針だという。9月8日にも無人潜水艇の捕獲を発表しており、米軍は今のところ反応を示していない。交渉のテーブルの外で、海峡は睨み合いの場であり続けている。
見落とせないのは、圧力の限界である。中国は制裁の輪に加わっておらず、マーハーン航空は期限後も広州への着陸を続けているという。米国は、イランの石油販売の大半を扱う中国の銀行にも手を付けていない。ここから先は私の解釈だが、米国は中国との正面衝突を避けるため、この一線を意図的に曖昧にしているのかもしれない。ドルの武器化は近隣諸国には効いても、中国には同じように効かない可能性がある。
そして、時間は米国にも味方しない。ブレント原油は24日にフーシ派のサウジ施設攻撃を受けて107ドル台まで上昇し、米国のガソリン平均価格は1ガロン4.48ドルと、前年の3.16ドルから大きく上がった。7日間計画が報じられた直後には、ブレントは100ドルを下回っている。海峡が開くかどうかが、そのまま米国の有権者の財布に響く構図だ。
私の見立てはこうだ。イランが核開発の中止をはっきり宣言する可能性は低く、米国も、核の扱いが曖昧なまま封鎖を緩めるとは考えにくい。そうなれば協議は続いても決着せず、中間選挙の結果が出るまで宙に浮く公算が大きい。
トランプ氏が選挙を前に原油高・ガソリン高を睨みながら強硬姿勢と水面下の交渉を使い分けているように、海峡の部分開放と封鎖の緩和を交換するような暫定合意が、選挙前に急浮上する可能性も否定できない。
サウジやフーシ派の動向、カタールの仲介によって変動要素も残されたなか、中間選挙が終わるまで、トランプが石油価格を睨みながらこの「押したり引たり」をどう着地させるのか、いまはまだ分からない。






