『しのゼミ』 -74ページ目

『しのゼミ』

日常で出会った「気付き・笑い・学び」を綴っています

図書館で借りてきた『組織行動の「まずい!!」学』を読んだ.タイトルが示しているように,組織における危機管理についての本である.この種の本は好きだし実際に読みやすいので,3時間強で読破できた.

本書で豊富に取り上げられている実例としては,雪印,美浜原発,チェルノブイリ,JR西日本福知山線,三菱重工客船火災,スペースシャトルコロンビア号,JCO臨界などである.

それぞれが「ヒューマンエラー」「危機意識不在」「過剰な効率化」「緊急時の対応のまずさ」「リスク管理のまずさ」に割り振られ,その問題点の本質について語られている.

特に心に残ったことと言えば,「グループシンク」という考え方である.これは,凝集性が高いつまり集団のメンバーがその集団に強く引きつけられた状態において,集団内の合意を得ようと意識するあまり,意思決定が非合理な方向へ歪められてしまう現象をさす.

言われてみれば,こんなことは確かによく経験する.会議などで,ある提案に少々問題点がはらむことに気づいているものの,ここで異を唱えるよりもすんなり通してもいいかな・・・というようなことはよくある.

きっと「和を尊ぶ」日本という文化の中ではこの「グループシンク」がしょっちゅう行われているだろうし,これは日本人として自覚すべきだと思う.

共感するのは,それぞれの実例およびその解釈が,冷静かつ客観的に述べてあること.「日本ダメ,欧米万歳」というような自虐に陥っていないのもいい.


しの的読後感:いや~,勉強になるなぁ~

こんなヒトにお薦め:なんらかの「組織」に属しているヒトなら,この本の重要性が分かるはず


組織行動の「まずい!!」学―どうして失敗が繰り返されるのか (祥伝社新書)/樋口 晴彦

¥777
Amazon.co.jp

「事を慮るは周詳ならんことを欲し,事を処するは易簡ならんことを欲す.」

『物事を考える場合は周到綿密なることが必要だ.一たん考えがきまったからには,これを行うには,手軽に片づけることが必要だ.』
(「言志四録」佐藤一斎著/川上正光訳 講談社学術文庫)





<しの訳>
物事をやる前にはじっくり考えて,やると決めたらサクサク行動しよう.

自分の中でやると決めたとしても,あそこが分からなくて不安・・・とか,もうちょっと考えた方が・・・とか,いろいろ先延ばしにする言い訳を思いついてしまう.人間は「言い訳を考える名人」なので,その出番を無くす方策をすべきである.

たとえば,思い切って何も考えずにスタートして,やってみてからその結果を考えてみる・・・ということも時に必要ではないだろうか?.

それから,スタートさせたら「稚速」でいいのでとりあえず最後までやってみよう.最初は60点ほどで上出来とすればいい.全体を俯瞰できれば,必ず何かかが見えてくる.
今日のポリクリ(医学生実習)での一コマ.


シノ:・・・じゃあ,今日はMKの症例を実際に顕微鏡を使って見てもらうことにします.

学生一同:・・・???・・・

シノ:んっ?・・・なんか,わからんか?.

某学生:・・・ええと,MKがなんかわからんっす.

シノ:えっ?MKって聞いたことないの?.

学生一同:ハイ

シノ:ほんまかいな・・・・・?う~ん,まいったな・・・.


MKとは胃がんの略語である.

いわゆる医療従事者の間だけに通じる「隠語」と言ったらいいか.

ドイツ語で胃は「マーゲン Magen」で,がんは「クレブス Krebs」,

よってMKとなる.

ちなみに有名どころを列挙すると,LKが肺がん,PKが膵がん,MMKが乳がんなど.

まだ学生とは言え,さすがにMKくらいは知っていると思ったが.

こういう言葉は,講義や実習の合間に,教官の「ネタ」というか「世間話」として聞く機会が多いように思う.

少なくとも自分の学生時代はそうであった.

しかし,今時の学生はこんな与太話もろくに教官から聞かされていないと見える.

それだけ,現状の教官には学生に対する余裕というか遊びみたいなものが足りなくなっているのかもしれん.



こんな医療従事者だけに通じる言葉ならいくらでもあるが,思い出がある言葉として「ハルン」がある.

思い返せば学生時代のこと.

自宅近くで開業されている先生のところへ,夏休みに「学生実習」と称して勉強しに行っていた.

実際には「診断」や「治療」はできないので,検査のお手伝い(例えば心電図をとる・尿検査をするなど)をしながら,心電図やX線画像の典型例や希少例を見せてもらったりしていた.

開業医さんといってもけっこうはやっていて,午前中でおそらく50人近くの外来患者さんがみえていたと思われる.

確か実習に伺っていた時がちょうど検診の期間に重なっていたため,余計忙しかったのかもしれない.

よって,外来の舞台裏もけっこうてんやわんやであり,二人いる看護婦さんのうち一人は先生についていたり検査を行ったり患者さんを呼び出したりカルテを運んだりしていて,もう一人は指示のあった注射を打ったり,点滴をしたり,心電図をとったりで・・・

まさに猫の手も借りたい状態だった.

そんな中に「実習でお邪魔します」とノコノコやって来た医学生.

まさに「飛んで火に入る・・・」である.

実習一日目から,「シノ君,心電図お願いね」と言われてそのやり方を教えてもらい,練習無しのすぐに本番である.

まぁそんなに難しくないので,患者さんに迷惑をかけることはなかったが.

その次に看護婦さんに言われたのが「シノ君,ハルンお願いね」であった.


・・・ハルって・・・春?・・・でも今は夏・・・

・・・ハルって・・・患者さんの名前で「ハルさん」?・・・でも該当者おらず・・・

・・・ハルって・・・貼る?・・・湿布を貼るサービスかな?・・・


でも湿布もなければ「ハル」という名の患者さんもおらず,ただ尿検査のカップが置いてあるのみである.

まったくわからんわ~・・・


「・・・すいませんが看護婦さん,ハルってなんでしょう?」

「おしっこの検査のことよ.そこのスティックを尿カップに入れて,色の変わりを見といてね」

「ハルって,おしっこなんですか?ボクはまた,春には梅が咲くので,梅毒の検査でもするのかと・・・」

「難しいこと言ってないで,早く検査をやったやった・・・あ~忙し」


それにしても,やっぱ教える側には余裕や遊びがないのは,今も昔も変わらんかもしれん.

ちなみにハルンとはドイツ語で「Harn 尿」のこと.

「すいません,シノ先生」

「はいはい」

「申し訳ないですが,術中迅速をお願いできないでしょうか?」


いきなりじきじきの術中迅速の依頼である.

依頼医は某研修医クン.

どうやら指導医の先生からの命令で,病理の部屋へ直接やってきたらしい.


「うん,いいよ.で・・・いつ?」

「実は今日なんですが・・・」

「なんやて~」


術中迅速とは,手術中の患者さんの病変から細胞を採取してきて,すぐに標本にして顕微鏡で診断する・・・というもの.

病理医にとっては瞬間的に診断をしなければいけないし,この結果によって手術の方法が変わったりするし,時間も拘束されるし・・・で,かなりのプレッシャーである.

術中迅速をするには,あらかじめ手術医から予約の電話をいれてもらって,その際に術中迅速で問題になる点を話し合ったりするルールになっている.

それを知ってか知らずかこの研修医クン,いきなり突然やってきて,すぐに術中迅速をやってくれ,と言ってきた.

そのマナー違反を耳にした病理の部屋全員に緊張感が走る.


「あのなぁ,〇〇クン.・・・(上記説明中)・・・というルールになっとるんや」

「はぁ,そうですか・・・」

「いきなれやれと言われてもなぁ,こっちにも都合があるしなぁ」

「すいません・・・そこを何とか・・・」


まぁ,研修医クンをいじめてもしょうがないので,やってやることにするか・・・


「で,その患者さんはどういう病気なの?」

「はい,実は現在は近くの他院に転院中の患者さんで,今日の12時ころに生検することになっていて,僕が検体をここにお届けしますが・・・」

な~に~


通常の術中迅速は,患者さんが入院中の病院でやるのが原則というか,当然なことになっている.

他の病院さんの術中迅速までハイハイと引き受けていては,こちらの身が持たない.

それに医療費をもらっていないという問題もある.


「あのなぁ,〇〇クン・・・あんたに怒ってもしょうがないので,指導医の先生を呼んできな」

「はぁ,すいません,わかりました」


目をパチクリさせた研修医クン.

なぜ怒られているのかまだ理解できていない様子.



しばらくして,研修医クンに連れ立って指導医の某科・F先生がやってきた.

F先生は某科の腫瘍の患者さんを取り仕切っている若手のやり手.

しかし,まだまだ若いし,もうちょっといろんな面で修業が必要か.


「すいません・・・シノ先生,Fです」

「お~,怒られに来たか」

「すいませんでした,術中迅速は慣れていないもんで・・・」

「あのなぁ,Fクンたちは,2つもルール違反しとってやなぁ・・・・・・(5分くらい説教中)・・・・・・というワケで,ふつうならこんな術中迅速はやらんわなぁ」

「術中迅速の件はわかりました・・・でも,通常の病理検査は至急でやってはもらえないでしょうか?実はこの患者さんは・・・・・(患者情報説明中)・・・・・で,急いで診断をつけたいんですよ」

「うん,よっしゃ,そういうことなら急いでやったるぞ」


ということで,術中迅速なしだが,代わりに通常の病理検査が大至急となった.

「結局は引き受けちゃうんだから・・・もう」という同僚のK先生の言葉を尻目に,技師さんに急いでくれるように頼んで回った.

イヤとは言えぬこの性格,

みんなごめん,あきらめてくれ・・・
若手技師のYさんから,「術中迅速検査」の標本を作る最中に何かの小片が目に入ってしまった・・・という報告を受けた.

運の悪いことに,その組織を採取した患者さんはB型肝炎ウイルス陽性であった.

B型肝炎のうつり方としては,血液感染や性行為感染などがあるが,目に入ってうつる場合もある.

あわてたYさんは,すぐに感染部門の先生のもとへ走っていった・・・が,後から考えてみたらちゃんとB型肝炎に対する抗体は陽性との本人談.

結局は問題はあまりなさそうで,血液検査で少し様子を見ようということになったらしい.



朝の全員ミーティングで早速この件が話し合われて,術中迅速の標本を作る時,マスク装着に加えてゴーグルもつけようということになった.

少しやりすぎなのかも・・・とチラッと思ったが,まぁこのやり方が本来あるべきというかスタンダードなんじゃないかなぁ.

先日の「ぽかミス生検紛失事件」からそんなに経っていないが,またまたYさん絡みである.

一生懸命やってくれているのだが,彼女の今後を思うと少し小言をいっておかないといけないか・・・

そう思ってYさんを呼び出してみる.


「あのなぁ,Yさん,自分の身は自分で守らんといかん」

「はぁ・・・」

「B型肝炎なんかの感染の危険のあるものは,十分注意しないと」

「はい・・・」

「今回は注意してたの?」

「少しは・・・」

「B型肝炎患者さんからのものって,書いてあったけど・・・」

「すいません,見てませんでした・・・」

「あのなぁ・・・・(約2分ほど説教中)・・・注意しすぎっちゅうもんはねぇぞ」

「・・・わかりました,以後気をつけます」


あまりしゃしゃり出て言うのもどうかと思い,基本的なことをちょっと言ったまでとした.

しかし,小さなぽかミスが散発するYさん.

今のうちにとことん自覚してもらわないと,いわゆる「リピーター」というレッテルを貼られてしまう.

新卒採用時から面倒をみている側としては,それだけは避けたい.