『しのゼミ』 -67ページ目

『しのゼミ』

日常で出会った「気付き・笑い・学び」を綴っています

「ねぇママ,昨日ね,先生に答えるときにね・・・・・」

長女ちーちゃんが,甘えながら母としゃべっている.

「先生に“そうやろ”って言うのを,“そうじゃろ”って言っちゃった,ハハハハハッ」

・・・・・それがプチブームのはじまり.



そうじゃろそうじゃろそうじゃろそうじゃろそうじゃろ・・・・・

なにをしゃべっても,「そうじゃろ?」でフィニッシュ.

これに次女のみーちゃんも参戦してくる.


みー「ねぇねぇ,ちーちゃん聞いて,そうじゃろ?」

ちー「ハハハハハッ,そうじゃろ」

みー「ねぇママ,聞いて.そうじゃろ」

ちー「あ~ズルイ.私が最初に言ったんやって,ねぇママ,そうじゃろ?」

みー「別にあたしが言ってもいいやん,そうじゃろ」

ちー「みーはいっつもあたしのまねっこしてくるし・・・・・みー嫌い」


雲行きが怪しくなり,しばらく静かになると,流していたラジオの曲が耳に入ってくる.


「・・・・・ねぇママ,これって,この前に〇〇でかかってた曲やねぇ・・・・・
~♭~チューウリップのこいもよお~♭~・・・・・
~♭~チューウリップのこいもよお~♭~・・・・・ハハハハハッ」

それからプチブームはチューリップに移っていく.

二人して何回も~♭~チューウリップの・・・~♭~とやっている.

しばらくすると~♭~チューウリップのそうじゃろお~♭~となって,二人してさらに繰り返している.



なんでもかんでもちょっとしたことが面白くて仕方がない年ごろ.
開花した桜だが満開にはもう少しかかりそうで,

やや強めの風にもかかわらず,舞い散るまでにはいかない.

まだまだこれから,もっと謳歌させてよとばかりに,

花弁はしっかりと枝にへばり付いている.

大学キャンパス内のそんな樹の下を,

荷をたわわに積んだ台車を引く輩がたまに行き来する.

今年度最後の週末となる今日は,

異動が決まっているヒトにとっての引っ越し日和であって,

ダンボールに詰められた荷は,

仕事上の図書類や持ち越しの書類などと思われる.



大学病院病理の部屋でも,

異動するヒト達の荷はすでにない.

先週の時点ですでにルーチーン業務は外れており,

今週頭には荷作りを終え,

荷出しと共に有給をとって,

蛻の殻となっている.



形而下学的には,すでに彼らの居た形跡は消されている.

彼らが抜けてぽっかり空いた空間を,

新たにやってくるヒトが埋めようとしている.

形而上学的にも,去ったヒトを思う時間が日に日に短くなり,

新たな4月の業務全般における計画とそれへの備えが,

心の中をじわじわと侵食するように占めていく.



無心に咲き誇ってあっという間に散る桜が,

ぽっかり空いた台風の目のような年度替わりを,

満たすともなく癒やしてくれるが,

去ったヒトへの思いと来るヒトへの期待がこんがらがって,

モグラ叩きのようにあちこち頭を出しては引っ込んで,

心の平静はしばらく取り戻せそうにない.
外勤先の病院へ伺うと,検査室の様子がいつもと違った.

技師さんみなが,自分のことに集中しているっちゅうか他人を敢えて素知らぬフリっちゅうかなんちゅうか,そんな雰囲気・・・・・

文章にして表現するのが難しいけれども・・・・・,要はあんまり誰もしゃべらん感じ.

おもむろに席について標本を見ようとすると,隣の部屋から大きな話し声が漏れ聞こえてくる.


「・・・・・技師長がそうおっしゃったから・・・・・」

「・・・・・どうして彼女の分まで・・・・・」

「・・・・・我慢してやってきて・・・・・」

「・・・・・提案したのにどうして・・・・・」

「・・・・・こんなんじゃやっていけない・・・・・」

「・・・・・ボクはいつ辞めても・・・・・」


はは~ん,理由はこれか.



どうやらこの病院の某技師さんが,次年度の仕事の割り振りをめぐって,技師長とディスカッションしているらしい.

ちょっとご相談・・・のつもりが,ホットなディスカッションになって,問題に対する考え方が平行線を辿ると,何かの弾みで火がついて,「燃えろよ燃えろーよー」ってな感じで手がつけられなくなって,周りは黙ってろとの暗黙の了解があり,あとは野となれ山となれ・・・・・・

医療現場では比較的まれなのかもしれんが,まぁどこにでもある日常風景.

和を尊ぶ日本人の習性が濃かろうと希薄であろうと,ヒトが集まれば必ず摩擦が生じる.

まぁある程度なら我慢するけれども,閾値を超えた場合にどう摩擦を解消するか?

中間管理職に限らず,すべての人に共通する永遠の克服テーマである.

ここは年長の技師長さんのお手並みを勉強させてもらうか・・・・・.



技師長さんに学ぶ摩擦解消術その1)まず,ホットなディスカッションレベルまでであれば,通常の応対レベルでやり取りすべし

ある程度ならば言いたいことを言える環境を保障してあげるのが大事.



技師長さんに学ぶ摩擦解消術その2)次のレベルにステップアップすると,場所を変えるべし

議論が平行線を辿って火がついてしまい,「〇〇さんのせいで・・・」というような個人攻撃が出てきたら,個室に移動.

これは,この議論が各方面へ飛び火することを防ぐ.

また,場所を変えることによって,熱くなった輩のクールダウン効果も期待できる.



技師長さんに学ぶ摩擦解消術その3)アツくならず,ある程度聞き役に徹するべし

ホットなディスカッションレベルまでならいいけれど,それ以上のレベルにおけるお付き合いは禁物.

相手が燃え上がってしまった場合は,議論を挑んでも不毛になる場合が多い.

火の勢いが下火になるまで,静観するか場所や時を変えた方がいい.



技師長さんに学ぶ摩擦解消術その4)折れるところは折れるけれども,結局はブレない

「言ったもん勝ち」の雰囲気もあまりよくない.

議論に耳を傾けて,いいところは取り上げるし,悪いところは直すけれども,過剰に妥協はしない.

そのためには,ちゃんとした理念というか方針というかポリシーがなければならぬ.

そうじゃないと,決断に「ブレ」が生じる.

そのあたりのブレ具合については,みんなけっこう敏感である.



「まったく・・・しょうがねーな~」とブツブツ漏らしながら,しばらくして落ち着いた技師長さんから,

「シノ先生,お騒がせして,えらいすいませんでした」と一言あった.

「イエイエ,勉強になりました」イエ本当ですって・・・・・.
「シノ先生・・・・・少し話があるんですが・・・・・」

研究助手のZさんが夕方に突然ひょっこり現れた.

Zさんの顔を伺うと,作り笑いはこわばり,目は笑っていない.

なんか深刻なことがありそうだ.



研究助手Zさんは,主に研究方面の仕事を手伝ってもらうために,数年前から働いてもらっている.

仕事内容が研究なため,医学部病理講座と病院病理を行ったり来たりしてもらっている.

研究施設が病理講座にあり,研究を指揮する人(=シノ)が病院にいるので,こういうことが起こる.

医学部棟と病院は少し離れているため,行き来をするZさんにはいつも済まなく思う.



大学教官である以上,教育・研究・診療のどれもが大切である.

しかし,自分の場合は,病院病理常駐ということもあって「教育・診療」に多くの情熱を注いでいる.

で,「研究」に対しては,残りの燃えカスのようなものでなんとかお茶を濁しているというか,なんとか持っているっていうのが現状か.

したがって,どうしても研究担当のZさんに細かい目が行き届かなくって,

時には指示するのさえ忘れてほったらかしになってしまい,

「今,何をしてもらってるんだっけ?」という逆に質問が飛んでしまうこともあり,

業を煮やしたZさんの「しっかり指示ください!」という直訴も,

「ちょっと待って,あとでね」とその場はかわされて,

果てにはその直訴さえも忘れられてしまい,

うっ憤が弾けんばかりに溜まってしまう始末.



「わたし,何をするためにここにお世話になってるのかわかりません」

こんな感じで,これまでに2回ほどZさんに激しく叱られた.

自分よりも年上のZさんに言われると,厳しい姉に叱られているような気分になる.

叱られた直後は素直に反省して,実験の指示をあれやこれや山積みにするのだが,

それも数カ月すると実験し終えてしまって,また元の木阿弥.

こんなんじゃあイカンなぁっと思いつつ,なかなか治らない自分.



今回も案の定,「シノ先生の指示がないために・・・・・」とか「〇〇染色にようやく慣れてきたのに・・・・・」とか「病理講座で気を使ってやっていて・・・・・」とか,数か月で溜め込んだものを大放出.

つらい思いばかりさせてしまってスマン・・・・・,素直に大反省する.

それならばと,しなければならぬ実験の指示をあれこれ出すけれども,「これくらいで3カ月くらい持つかな」とちらっと思ってしまう.

まったくもって懲りない自分.
外勤先の病院へ,今年度最後の病理診断にお邪魔した.

来年度(この4月)からは西日本大病理の(医師)人員が減る.

そのため,大学病院の仕事にある程度専念する必要がある.

現在は外勤として,病理診断をするためにニか所の市中病院に伺っている.

この4月からは,とりあえずその一つであるこの病院に伺うのをやめようとしている.

したがって,今日がこの病院にお邪魔する最後となる.



この外勤先の病院にはノコさんがいる.

この病院で病理検査を一人で切り盛りしている技師さんだが,彼女ともしばしのお別れである.

「シノ先生,今日は心をこめて薄切しました」っとノコさん.

うれしいことを言ってくれるもんだ.

気のせいか,いつもよりも非常に薄く切片が作られており,その薄さがそろっている.

シワも一切なく,染色ムラも全くない.



少しすると,外科の先生があいさつに見える.

「今までお世話になりました.これからもよろしくお願いします」

「こちらこそ,どっかでまたよろしくお願いします」

お互いに西日本大の系列病院内を異動しているので,近い将来にどこかで遭遇する確率は高い.

診断し終わって帰ろうとすると,今度は技師長さんがお見えである.

「お世話になりました」

「こちらこそ,勉強になりました」

その後には,なんと立派な花束が用意してあって(推定三千円ほど),

ノコさんからの贈呈である.

ここまでされると,さすがにちっとも悪い気はしない.

一端の有名人になったような感じっちゅうたらええか・・・・・.



外勤先から大学病院までの帰途,似合わぬ花束を持ったへんなおっさんに,いろんなヒトが好奇な目を投げかけてくる.

・・・・・もらうにはもらったが,でかいし似合わんしと~ってもカッコわり―な・・・・・

・・・・・でも思い返せば,外科の先生の発表の写真を撮ってあげたり,ノコさんに細胞診の勉強を強く勧めたり,いろいろあったな・・・・・

・・・・・自分なりに頑張って仕事できたし,そんな気持ちが通じたんかもしれん・・・・・

・・・・・ようがんばってるわ,自分(ほめたれや,ヨシヨシ)・・・・・



大学病院に帰ると,現在病理部にローテ中の研修医Sさんを捕まえて,早速このことを報告する.

シノ「・・・・・っでな,外科医のあいさつにノコさんから花束にと,至れり尽くせりで・・・・・しかし花束にはちょっと感激してしもーたわ」

S「そうですか,それはよかったですね」

シノ「ノコさんも,細胞診の勉強をますます頑張りますっちゅう意思表示やろか?」

S「まぁ~,そうかもしれませんけど,その市中病院も大変ですよね」

シノ「んっ?」

S「大学の病理医とのコネクションをなんとかつないでおきたいっていうことなんでしょうね」

シノ「・・・・・・・・・」

S「それに,その花束代って,けっこう外科の研究費から出てたりして・・・・・」

シノ「?・・・・・・・・」

S「シノ先生に花束を贈っとけば,しばらくは学界用の写真を無料で撮ってもらえる・・・という意味もあるのかもしれませんね」

シノ「!・・・・・・・・」

S「ひょっとして,ノコさんの細胞診の試験勉強の面倒もよろしく・・・・・な~んていう意味もあったりして・・・・・」

シノ「・・・・・・・・・」

S「シノ先生も大変ですね・・・・・」



ええい,うるさ~い.

いい夢を見る時間が少なくなったこの頃である.