「まんが日本昔ばなし」「家政婦は見た!」シリーズなどで
幅広い世代から愛された女優・市原悦子が亡くなった。82歳だった。
2016年に自己免疫性脊髄炎で芸能活動を休業、
キャスティングされていた「西郷どん」のナレーションも降板した。
昨年3月より、NHKで放送されている「おやすみ日本 眠いいね!」内の
「日本眠いい昔ばなし」で、声のみの朗読で仕事復帰、
以降は月イチのペースで出演を続けていた。
昨年の樹木希林に続き、私が大好きな女優がまたひとり逝ってしまった。
映画やドラマに頻繁に出演する方ではなかったが、出演依頼は多かったはず。
2003年に公開された「蕨野行(わらびのこう)」は姥捨がテーマで、
60歳を過ぎた老人達が人里離れた原野で暮らすという作品だった。
食料もなく作物を植えることも許されない蕨野を舞台に、
厳しい冬景色の中でひとりまたひとり朽ちてゆく人々を描いた哀しい映画。
命の灯が消える瞬間まで生を謳歌せんと雪合戦に興じる美しいラストシーンは
今でも鮮明に覚えている。かなり昔のインタビューで
「そこに自分が必要と思った作品にしか出ない」と言っていた意味が
この映画を観てようやく分かった気がした。
「まんが日本昔ばなし」と「家政婦は見た」のイメージしか持っていない方には
ピンと来ないかも知れないが、柔らかな物腰やおっとりした言葉遣いとは裏腹に
女優業に対してプライドやプロ意識もかなり高い方だった。
何のバラエティー番組に出演した際、「家政婦が見た」をいつまで続けるかという話で
「例えばその時間帯で(数字が)一番下になったらとか?」と聞かれ
「なりません、絶対に」と力強い口調で即答していたのが印象的。
樹木希林と共演した「あん」では、
樹木演じる徳江と同じハンセン病患者用の施設で暮らす
友人・佳子役として出演。出演シーンは僅かだったものの、
彼女の存在が無ければこの作品は成り立たない。
それほどの存在感を放っていた。
公開前の「ぴったんこカンカン」で樹木希林と二人で街ブラをする企画があり、
その中で『映画の中で膨大な長台詞のシーンがあって、
必死になって覚えたのに全部カットされていた。
でも完成したフィルムを見るとメッセージが簡潔にまとめられていて、
これで良かったと思いました。』と仰っていた。
自分の出番がどれだけあったかではなく、
作品全体を俯瞰で見ることの出来る希有な女優だった。
それを知っていたからこそ、樹木希林は河瀬監督に
「この役は市原さんに」と進言したのだと思う。
私の人生の10本に入れても良い作品に出演していた二人が
もう既にこの世にいないのかと思うと、
今後どんな気持ちでこの作品を見返せば良いのか、まだ心の整理がつかない。
実写映画としては「おっさんずラブ」で最ブレイクする直前に
林遣都が出演した「しゃぼん玉」が遺作となってしまった。
若い方には、累計250億円のメガヒットとなった
アニメ映画「君の名は。」の祖母・一葉の声が記憶に新しいところだろうか。
私にとって市原悦子は、幼少期には「日本昔ばなし」で育ててもらい、
大人になってからは「家政婦は見た」で長く楽しませていただいて、
年をとってからは「蕨野行」「あん」といった作品で
邦画の真髄を教えていただいた存在であり、
素晴らしい才能の女優を亡くした哀しみと同等以上に感謝の気持ちも大きい。
謹んでご冥福をお祈りいたします。
ありがとうございました。
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