強大な力が青春を握り潰す。映画「クロニクル」 | 忍之閻魔帳

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▼強大な力が青春を握り潰す。映画「クロニクル」

アメリカでは2012年2月公開。
若干26歳の無名の新人監督が手掛けた本作が興収ランキングで1位を獲得し
当時は随分と話題になっていたのだが、日本公開まで1年半もかかってしまい
脳内から存在が消えようとした頃にようやく公開された。
古くは「パラノーマル・アクティビティ」「クローバーフィールド」の連続ヒットで
今やハリウッドの人気ジャンルとして定着しているモキュメンタリー系の作品。
撮影者や被写体が行方不明になり、現場から発見されたカメラに保存された映像を
そのまま公開した、という設定の映画を「ファウンド・フッテージ」と呼ぶが
本作はファウンド・フッテージの形を借りながらSF映画でもあり
青春映画でもある点が非常に新しい。
監督のジョシュ・トランクには「スパイダーマン」のスピンオフや
「ファンタスティック・フォー」のリブートといった数多くの企画が持ち込まれているとか。



ある日、地面に開いた大穴を探索した三人組が奥底で不思議な光体を発見し
その翌日から不思議な能力を身につけてしまったことで起こるサスペンス。
もともと交友関係も広く、青春を謳歌していた二人と違い、
カメラだけが友達だったいじめられっ子の主人公(デイン・デハーン)だけは
激変した環境に精神が追いつかず、我が身に備わった強大な力に飲み込まれてゆく。
レゴブロックを手放して組み立てたり、駐車場の車を勝手に移動したりするだけで
満足していれば大事にならなかったのだろうが
抑圧された青春を過ごしていた高校生がそこまで理知的にコントロールできるはずもなく
事態は悪化の一途を辿り、やがて・・・というお話。

「パラノーマル・アクティビティ」「クローバーフィールド」以降に登場した
フォロワー達は「REC/レック」にしろ「グレイヴ・エンカウンターズ」にしろ
いずれもホラーであり、異色作と言えるのは当BLOGでも紹介した
「トロール・ハンター」ぐらいだった。
本作のスタート地点も「パラノーマル」のヒット後にYouTubeで溢れ返っている
素人制作の類似作品と似たようなものかも知れないが
監督のジョシュ・トランクが他のフォロワーと一線を画していたのは
SFのテイストをふんだんに盛り込んだ青春映画として本作を完成させたところにある。

体調の悪い母、酒浸りの父、友達尾いない学校生活。
主人公アンドリューの鬱屈とした日常に起こった奇跡は
多くを望まなければ彼の人生を幸福なものへと変えたはずだった。
己の力を過信し、危険な思想へ傾いてゆく彼の耳には
ようやく心を通い合わせた友の言葉すら響かない。
持て余し、飲み込まれ、暴走し、精神が崩壊してゆくアンドリューの生き様は
深い闇を抱きながら生きる「ヱヴァ」の碇シンジや「AKIRA」の鉄雄や
「幻魔大戦」の東丈に通じるものがある。

低予算と言われているが、ESPを発動しているシーンは
日常の風景に違和感なく溶け込み、後半のダイナミックな展開は
「パシフィック・リム」を観た後でも遜色ないほどの充分な迫力がある。
それでいて鬱展開とくれば、日本の映画(アニメ)ファンにウケが良いのも当然だ。

30歳で「第9地区」をヒットさせたニール・ブロムカンプに続く
若き逸材として嘱望されているジョシュ・トランクの記念すべきデビュー作。
モキュメンタリー好きはもちろんのこと、
「LOOPER」や「ミッション:8ミニッツ」あたりがお好きなSFファンにもお薦めできるし
日本産のアニメ好きもツボにハマるはず。
ご近所で上映しているなら、是非時間を作って劇場でご覧いただきたい。

★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
  タイトル:クロニクル
    配給:20世紀フォックス
   公開日:2013年9月27日
    演出:ジョシュ・トランク
   出演者:デイン・デハーン、アレックス・ラッセル、他
 公式サイト:http://www.foxmovies.jp/chronicle/
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★



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【紹介記事】冒険心がくすぐられる珍品。映画「トロール・ハンター」

北欧を代表する妖精といえば、ゲームの世界でもお馴染みのトロール。
これまで、世界的に見てもホラー系か怪物系のパニック映画にしか使われてこなかった
POV視点のフェイクドキュメンタリー(モキュメンタリー)を、
川口浩も真っ青の似非冒険番組風に仕立て上げた珍品が「トロール・ハンター」。
熊の密猟をテーマにしたドキュメンタリー映画を撮ろうと集まった3人組が
熊ではなくトロール退治を行っている男性に遭遇し、
その一部始終をカメラに収めることに成功しました、というお話。

映画の中で語られるトロールの生態を一部紹介すると

・身長は大人で数十メートルにもなる
・知能指数は低く、凶暴
・群れで行動することもある
・子どもの頃は頭がひとつだが、成長過程で増えていく
・光をあてると、石化するか爆発する
・キリスト教徒の血に激しく反応し攻撃する

「ドラクエ」のトロールに通じるものは巨体と凶暴ぐらいのもので
頭が増えるだのキリスト教徒の血に反応だのは聞いたこともなかった。
が、北欧ではそういう生き物として知られているらしい。

映画は、川口浩よろしく森の奥深くにトロールを探しにゆく探索隊の姿を
POV視点で撮影したフェイクドキュメンタリー方式で撮っているのだが
川口浩のように「アマゾンに人喰いピラニアを求めて」だけで終わらせていないのがいい。
トロールに出会うことが最終目的ではなく、ハンターが何を目的に狩っているのか、
普段は人里から離れたところに住んでいるトロールが
何故急に頻繁に現われるようになったのか、全てにちゃんと理由があるのだ。

肝心のトロールが凶暴な割にはあまり恐そうに見えず
探索隊のメンバーも、命の危険をおかしてまで撮影に臨んでいるはずが
時折うすら笑いを浮かべたりしていて、どこか緊張感が抜けている。
だがこの映画は狙ってやっているフシがあり、きっとそれで正解なのだ。
仰々しいのは謳い文句と音楽だけで、実は大したことは起きていない。
それこそが、川口浩イズムというものだろう。うん、これでいい。




発売中■DVD:「明日、君がいない」

友人の自殺をきっかけにして作られた、ムラーリ・K・タムリのデビュー作。
撮影当時、監督はまだ19歳。
自らも自殺未遂経験を持つムラーリが、先のこの世を去った友人に向けて作った本作には
若者独特の繊細さや、無気力さ、憤り、静かな叫びが詰まっている。

ガス・ヴァン・サント監督の「エレファント」を手本にしていることは明白。
手本どころか、トレースと言っても過言ではないほど似ている。
だがそっくりだから駄目だというだけで切り捨てるには惜しい作品。
何の手段も伝も持たない青年が、友人への「想い」だけを頼りに
これだけ熱量の高い作品を作り上げたことは奇跡的と言って良いと思う。
現在進行形で悩み多き青春時代を送っている方は
同世代の監督から放たれたメッセージを是非受け取って欲しい。




発売中■Blu-ray:「AKIRA」
発売中■Blu-ray:「幻魔大戦」

【紹介記事】Blu-rayで観る「AKIRA」

Blu-ray化された際の紹介記事は、内容でなく音質に焦点をあてている。
まぁ、内容については今更説明不要と思うので
Blu-rayで買い直しを検討している方はご一読を。