1 ミティーヌ(又はミティナ)の消音拳銃(アイデアのみ?)
第二次大戦前(1929年?)、ミティーヌ(兄弟?)という技術者により設計されたリボルバータイプの消音拳銃。ベースとなった銃及び弾薬はナガンリボルバー。この銃の弾丸は、ナガンのそれを一回り小さくして金属製の円筒状のケース(サボ)にはめ込まれた形状となっている。そして、銃口には特殊な装置がつけられている。この装置には弾丸は通るが円筒ケースは通れない大きさの穴が設けられている。弾丸が発射されるとこの装置の部分でケースは止められ、弾丸だけが目標に向かって飛翔する。ご存じのように、ナガンリボルバーに発射時シリンダーギャップはなく、銃口からのガスの噴出もなくなるので結果として消音されるという仕組み。
* 透視図。仕組みがよくわかる。
* 上の図は特許申請の際のイラスト。キリル文字って不思議。
実際にプロトタイプが作成されたか不明であり、銃口の特殊な装置が連射に対応していたかも不明。ただ、いわゆるサイレンサーを用いずにガスシールにより消音するというやり方は、旧ソ連から今のロシアの特徴的な消音弾「SP」に通ずるものを感じる。
2 グレビッチの消音拳銃
1943年にグレビッチという設計者がNKVD(旧ソ連の保安機関、有名なKGBの前身)から依頼を受けて、銃と弾薬をセットで開発した。特徴的なのは弾薬内に液体が封入されていること。構造図を見てもらえばわかるが発射薬と弾丸の間に液体が存在し、それが一種のクッションというか緩衝材となって発射に伴う発射音を吸収し、ほぼ無音にするという。ただし、発射時銃口から水蒸気が噴出し目立つことと、ロシアの冬では液体が凍り付いてしまうこと、それとパワーのロスが大きかったことが欠点として挙げられている。
* これがグレビッチリボルバー、正直言って格好悪い。
*カートの概念図。間にあるのが液体。
* これがグレビッチのデザインした消音弾かは不明だけどこんな感じだったのだろう。
銃本体は、特徴的な弾薬を使用するためシリンダー部分が異様に長くエレガンスさに欠ける。なお装弾数は5連発。1944年7月には、通常のサイレンサーを装備したナガンリボルバーと比較検査されている。その結果は以下のとおり。
銃の重量はほぼ同じで、大きさはナガンのほうが大きい。グレビッチの消音弾の液体の構成はアルコール60%・グリセリン40%の混合。射撃位置から40歩離れたところでは、サイレンサー装着ナガンの発射音は遠くで発射された小口径ライフルの発射音、グレビッチリボルバーの方は小さくボトルを開ける音のようと評価されている。威力の面では、50メートルの位置でナガンはターゲットに置かれた板を4枚、時には5枚打ち抜いたが、グレビッチリボルバーは3枚でとどまったとされている。ただ、対人用としては十分であるとされている。命中率はいずれも良好。グレビッチリボルバー(と同弾薬)は-75度まで機能したとある。
* グレビッチリボルバーの比較対象となったサイレンサーナガンはこんな感じだったのだろう。今回の主役ではないが、ターゲットグリップがついてすごく格好いい。
試験の結果は良好あり、量産化の方向にあったようであるが、ちょうど終戦を迎えたことから中止となったようである。その後、冷戦期を迎え消音銃に関する研究が再開。有名なSPカートリッジが開発されていくことになる。現在では、グレビッチのデザインした消音弾は世界で最初のサイレントカートリッジとして考えられている。
グレビッチ以後、消音拳銃としては、PSSやOTs-38が有名だけれどそれ以外にも興味を引くモデルがある。次回はそんなモデルを取り上げてみたい。
ということで今回はここまで、よろしく。